32 / 85
Ep2.故郷のすきみはかたくてほぐせず
2-12
しおりを挟む
***
揚げたてのかまぼこが入った袋を手にして、二人がやってきたのは紋別海洋公園だった。もう少し行けば流氷公園もあるのだが、かまぼこが温かいうちに海を見ながら食べようと考え、近い方の海洋公園を選んだ。
海洋公園から流氷公園に向かう途中には流氷科学センターや、紋別のシンボルであるカニの爪像もあるので、観光をするならこの方面に向かうのもよいだろう。カニ爪像は写真で見るとただのカニ爪だが、実物は大きく、インパクトとディティールの細かさは必見である。
海洋公園に着いて、車を降りると海の香りがする。オホーツク海の冷えた風だ。
「海を見ながらかまぼこ……紋別を満喫してますって気分ですよ。咲空ちゃんは何味を買ったんですか?」
「私はカニマヨですね。これがお気に入りなんです」
好きな味を選び、その場で揚げてもらう。揚げたてのかまぼこは香ばしくてやみつきになる。車で移動したといえまだ温かく、一つかじって息を吐けば四月の冷えた風がほんのりと白く色づいた。
「それ美味しそうですねぇ。一口ください」
「どうぞ」
カニマヨかまぼこは、名産であるズワイ蟹と名産であるスケソウダラを合わせた、美味しいものだらけの品だ。食べかけだったそれを差し出すと、アオイがかじりつく。
「んー、美味しい」
「ですよね。私のイチオシなんです。あ、飲みかけでよければお茶もありますよ」
舌鼓を打った後、アオイはぽつりと呟いた。
「……自分から言っておいてアレなんですが。奥ゆかしい女子はこういうのに恥じらうものでは?」
「え? 恥じらい? かまぼこに?」
「食べかけ飲みかけのものを異性が食べて、間接なんちゃら……みたいな……」
さらっと流れるようにかまぼこやお茶を差しだしていたことにアオイは疑問を感じたようだが、その話をしても咲空は首を傾げたままである。
「別に同じものを食べようが飲もうが気にしませんけど……アオイさんは苦手でした?」
「うぅん……山田さんみたいな外見だけイケメンに喜びかけていたくせに、こういうのは鈍くてだめだよなぁ」
「突然貶すのやめてもらえます!?」
「サクラちゃん、モテないでしょう? 彼氏いなさそう」
「美味しいもの食べてる時に失礼な話するのやめてください!」
その予想は当たっているのだが、咲空は眉間に皺を寄せてそっぽを向いた。美味しいと言っていたのでカニマヨかまぼこをもう少しわけようかと思っていたが、その案も却下だ。腹が立つので全部食べることにする。
「面白いなぁ。いい従業員を雇った」
そんな反応を見てアオイはけらけらと笑っていた。
「せっかくの地元ですし、行きたいところありませんか?」
最後のかまぼこを食べえ終えたところでアオイが言った。かまぼこを買うまでに様々なお店を見たりしたが、ピンとくるものは得られていない。
「流氷科学センターとかオホーツクタワーに行きます? カニの爪像前で写真撮りますか?」
「それは僕のための観光案内ですね。そうじゃなくて、サクラちゃんが行きたいところですよ」
頭に浮かんだのは実家だったが――咲空はかぶりを振って、それを頭から消す。あんなところに誰が帰るものか。
紋別に帰ってくるのは久しぶりのことだった。たまに知り合いから連絡はあるものの、足を踏み入れたのは二年、いや三年ぶりか。その年月を思い返し、ある場所を思いついた。
揚げたてのかまぼこが入った袋を手にして、二人がやってきたのは紋別海洋公園だった。もう少し行けば流氷公園もあるのだが、かまぼこが温かいうちに海を見ながら食べようと考え、近い方の海洋公園を選んだ。
海洋公園から流氷公園に向かう途中には流氷科学センターや、紋別のシンボルであるカニの爪像もあるので、観光をするならこの方面に向かうのもよいだろう。カニ爪像は写真で見るとただのカニ爪だが、実物は大きく、インパクトとディティールの細かさは必見である。
海洋公園に着いて、車を降りると海の香りがする。オホーツク海の冷えた風だ。
「海を見ながらかまぼこ……紋別を満喫してますって気分ですよ。咲空ちゃんは何味を買ったんですか?」
「私はカニマヨですね。これがお気に入りなんです」
好きな味を選び、その場で揚げてもらう。揚げたてのかまぼこは香ばしくてやみつきになる。車で移動したといえまだ温かく、一つかじって息を吐けば四月の冷えた風がほんのりと白く色づいた。
「それ美味しそうですねぇ。一口ください」
「どうぞ」
カニマヨかまぼこは、名産であるズワイ蟹と名産であるスケソウダラを合わせた、美味しいものだらけの品だ。食べかけだったそれを差し出すと、アオイがかじりつく。
「んー、美味しい」
「ですよね。私のイチオシなんです。あ、飲みかけでよければお茶もありますよ」
舌鼓を打った後、アオイはぽつりと呟いた。
「……自分から言っておいてアレなんですが。奥ゆかしい女子はこういうのに恥じらうものでは?」
「え? 恥じらい? かまぼこに?」
「食べかけ飲みかけのものを異性が食べて、間接なんちゃら……みたいな……」
さらっと流れるようにかまぼこやお茶を差しだしていたことにアオイは疑問を感じたようだが、その話をしても咲空は首を傾げたままである。
「別に同じものを食べようが飲もうが気にしませんけど……アオイさんは苦手でした?」
「うぅん……山田さんみたいな外見だけイケメンに喜びかけていたくせに、こういうのは鈍くてだめだよなぁ」
「突然貶すのやめてもらえます!?」
「サクラちゃん、モテないでしょう? 彼氏いなさそう」
「美味しいもの食べてる時に失礼な話するのやめてください!」
その予想は当たっているのだが、咲空は眉間に皺を寄せてそっぽを向いた。美味しいと言っていたのでカニマヨかまぼこをもう少しわけようかと思っていたが、その案も却下だ。腹が立つので全部食べることにする。
「面白いなぁ。いい従業員を雇った」
そんな反応を見てアオイはけらけらと笑っていた。
「せっかくの地元ですし、行きたいところありませんか?」
最後のかまぼこを食べえ終えたところでアオイが言った。かまぼこを買うまでに様々なお店を見たりしたが、ピンとくるものは得られていない。
「流氷科学センターとかオホーツクタワーに行きます? カニの爪像前で写真撮りますか?」
「それは僕のための観光案内ですね。そうじゃなくて、サクラちゃんが行きたいところですよ」
頭に浮かんだのは実家だったが――咲空はかぶりを振って、それを頭から消す。あんなところに誰が帰るものか。
紋別に帰ってくるのは久しぶりのことだった。たまに知り合いから連絡はあるものの、足を踏み入れたのは二年、いや三年ぶりか。その年月を思い返し、ある場所を思いついた。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
一途に好きなら死ぬって言うな
松藤かるり
青春
私と彼、どちらかが死ぬ未来。
幽霊も予知も過去もぜんぶ繋がる、青春の16日が始まる――
***
小学生の頃出会った女の子は、後に幽霊として語られるようになった。
兎ヶ丘小学校の飼育小屋には幽霊がいる。その噂話が広まるにつれ、鬼塚香澄は人を信じなくなっていた。
高校二年生の九月。香澄は、不思議な雰囲気を持つ男子生徒の鷺山と出会った。
二人は神社境内の奥で転び、不思議な場所に辿り着いてしまった。それはまもなく彼らにやってくる未来の日。お祭りで事件に巻き込まれて死ぬのはどちらかと選択を迫られる。
迷わず自分が死ぬと告げた鷺山。真意を問えば「香澄さんが好きだから」と突然の告白が返ってきた。
超マイペースの変人な鷺山を追いかけ、香澄はある事実に辿り着く。
兎ヶ丘町を舞台にはじまる十六日間。
幽霊も予知も過去もぜんぶ繋がる最終日。二人が積み上げた結末とは。
君のいちばんになれない私は
松藤かるり
ライト文芸
旧題:好きなひとは ちがうひとの 生きる希望
病と闘う青春物語があったとして。でも主役じゃない。傍観者。脇役。
好きな人が他の人の生きる希望になった時、それが儚い青春物語だったなら。脇役の恋は泡になって消えるしかない。
嘉川千歳は、普通の家族に生まれ、普通の家に育ち、学校や周囲の環境に問題なく育った平凡女子。そんな千歳の唯一普通ではない部分、それは小さい頃結婚を約束した幼馴染がいることだった。
約束相手である幼馴染こと鹿島拓海は島が誇る野球少年。甲子園の夢を叶えるために本州の高校に進学することが決まり、千歳との約束を確かめて島を出ていく。
しかし甲子園出場の夢を叶えて島に帰ってきた拓海の隣には――他の女の子。恋人と紹介するその女の子は、重い病と闘うことに疲れ、生きることを諦めていた。
小さな島で起こる、儚い青春物語。
病と闘うお話で、生きているのは主役たちだけじゃない。脇役だって葛藤するし恋もする。
傷つき傷つけられた先の未来とは。
・一日3回更新(9時、15時、21時)
・5月14日21時更新分で完結予定
****
登場人物
・嘉川千歳(かがわ ちとせ)
本作主人公。美岸利島コンビニでバイト中。実家は美容室。
・鹿島拓海(かしま たくみ)
千歳の幼馴染。美岸利島のヒーロー。野球の才能を伸ばし、島外の高校からスカウトを受けた。
・鹿島大海(かしま ひろみ)
拓海の弟。千歳に懐いている。
・宇都木 華(うづき はな)
ある事情から拓海と共に美岸利島にやってきた。病と闘うことに疲れた彼女の願いは。
ずっと君を想ってる~未来の君へ~
犬飼るか
青春
「三年後の夏─。気持ちが変わらなかったら会いに来て。」高校の卒業式。これが最後と、好きだと伝えようとした〈俺─喜多見和人〉に〈君─美由紀〉が言った言葉。
そして君は一通の手紙を渡した。
時間は遡り─過去へ─そして時は流れ─。三年後─。
俺は今から美由紀に会いに行く。
不遇の花詠み仙女は後宮の華となる
松藤かるり
恋愛
髙の山奥にある華仙一族の隠れ里に住むは、華仙術に秀でた者の証として花痣を持ち生まれた娘、華仙紅妍。
花痣を理由に虐げられる生活を送っていた紅妍だが、そこにやってきたのは髙の第四皇子、秀礼だった。
姉の代わりになった紅妍は秀礼と共に山を下りるが、連れて行かれたのは死してなお生に縋る鬼霊が巣くう宮城だった。
宮城に連れてこられた理由、それは帝を苦しめる禍を解き放つこと。
秀礼の依頼を受けた紅妍だが簡単には終わらず、後宮には様々な事件が起きる。
花が詠みあげる記憶を拾う『花詠み』と、鬼霊の魂を花に渡して祓う『花渡し』。
二つの華仙術を武器に、妃となった紅妍が謎を解き明かす。
・全6章+閑話2 13万字見込み
・一日3回更新(9時、15時、21時) 2月15日9時更新分で完結予定
***
・華仙紅妍(かせんこうけん)
主人公。花痣を持つ華仙術師。
ある事情から華仙の名を捨て華紅妍と名乗り、冬花宮に住む華妃となる。
・英秀礼(えいしゅうれい)
髙の第四皇子。璋貴妃の子。震礼宮を与えられている。
・蘇清益(そ しんえき)
震礼宮付きの宦官。藍玉の伯父。
・蘇藍玉(そ らんぎょく)
冬花宮 宮女長。清益の姪。
・英融勒(えい ゆうろく)
髙の第二皇子。永貴妃の子。最禮宮を与えられている。
・辛琳琳(しん りんりん)
辛皇后の姪。秀礼を慕っている。
透明な僕たちが色づいていく
川奈あさ
青春
誰かの一番になれない僕は、今日も感情を下書き保存する
空気を読むのが得意で、周りの人の為に動いているはずなのに。どうして誰の一番にもなれないんだろう。
家族にも友達にも特別に必要とされていないと感じる雫。
そんな雫の一番大切な居場所は、”150文字”の感情を投稿するSNS「Letter」
苦手に感じていたクラスメイトの駆に「俺と一緒に物語を作って欲しい」と頼まれる。
ある秘密を抱える駆は「letter」で開催されるコンテストに作品を応募したいのだと言う。
二人は”150文字”の種になる季節や色を探しに出かけ始める。
誰かになりたくて、なれなかった。
透明な二人が150文字の物語を紡いでいく。
表紙イラスト aki様
満天の星の下、消えゆく君と恋をする
おうぎまちこ(あきたこまち)
青春
高校2年生の朝風蒼汰は、不運な事故により、人生の全てを捧げてきた水泳選手としての未来を絶たれてしまった。
事故の際の記憶が曖昧なまま、蒼汰が不登校になって1年が経った夏、気分転換に天体観測をしようと海へと向かったところ、儚げな謎の美少女・夜海美織と出会う。
彼を見るなり涙を流しはじめた彼女から、彼は天文部へと入部しないかと誘われる。
2人きりの天文部活動の中、余命短い中でも懸命に生きる美織に、蒼汰は徐々に惹かれていく。
だけど、どうやら美織は蒼汰にまつわるとある秘密を隠しているようで――?
事故が原因で人生の全てを賭けてきた水泳と生きる情熱を失った高校3年生・朝風蒼汰 × 余命残り僅かな中で懸命に生きる薄幸の美少女高校生・夜海美織、ワケアリで孤独だった高校生男女2人の、夏の島と海を舞台に繰り広げられる、儚くも切ない恋物語。
※12万字数前後の完結投稿。8/11完結。
※青春小説長編初挑戦です、よろしくお願いします。
※アルファポリスオンリー作品。
君の瞳は恋を映す
彩川いちか
青春
児童養護施設から市街地の高校に通う雪也は、三年生に進学した際、同じクラスとなった同じ苗字の若葉と靴箱が隣同士になる。美術部に所属する若葉と帰宅部の雪也は時折声をかけあう仲となり、孤児であることに劣等感を抱き他人と深く関わることを避けてきた雪也は、同じく孤児でありながらも画家を目指し明るく生きる若葉と同じ時間を過ごすことで少しずつ人生に対する前向きさを取り戻していく。
そんな中、ふたりに残酷な運命が牙を剥き――
***
――目を閉じれば、心は繋がる
命が煌めく、色褪せない半年間の奇跡
***
※全35話(プロローグ・エピローグ含む)
※表紙はCanva様にて自作しています
アンサーノベル〜移りゆく空を君と、眺めてた〜
百度ここ愛
青春
青春小説×ボカロPカップで【命のメッセージ賞】をいただきました!ありがとうございます。
◆あらすじ◆
愛されていないと思いながらも、愛されたくて無理をする少女「ミア」
頑張りきれなくなったとき、死の直前に出会ったのは不思議な男の子「渉」だった。
「来世に期待して死ぬの」
「今世にだって愛はあるよ」
「ないから、来世は愛されたいなぁ……」
「来世なんて、存在してないよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる