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Ep2.故郷のすきみはかたくてほぐせず

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 今日は鈴木を羊ヶ丘展望台に案内する予定だ。とはいえ鈴木もこういった観光地に興味はないらしく、時計台に連れていっても『これは食べられませんね』と興味なさそうにしていたので、今日も無駄足になるだろう。
 しかし何に興味を示すかわからないお客様からヒントを得るため外の刺激は必要である。もし羊ヶ丘展望台に連れて行って羊に興味を示すようであれば、ジンギスカンを食べさせよう。とにかく咲空は必死だった。

「ところで今日ですが、残念なお知らせがありまして」

 外出準備していた咲空に、鈴木が告げる。

「今日明日のご予定をキャンセルさせていただきます。ちょっと面倒な輩に目をつけられていまして身を隠したいんですよ。明後日にはこちらに来られるかと」
「ってことは、次に会えるのは二日後……?」
「はい。最終日にお会いすることになりますね。といっても咲空さんを食べる会になるでしょうが。ふふふ」

 まだ猶予はあると余裕ぶっていた咲空だが、あと一回しかチャンスがないのは厳しい。表情にも焦りが滲む。

「美味しそうないい顔していますねぇ、サクラくん。私に会えなくて寂しいでしょう?」
「そのまま約束無視して海に帰ってください」
「ああ~、いいですね、私への冷たい態度も大変美味しそうです」

 鈴木が頬を紅潮させて言うものだから、背中がぞわぞわして気持ちが悪い。咲空は露骨に顔を顰めるも、それさえ鈴木は楽しんでいるようだ。

「では。時間が惜しいので今日はこのへんで。美味しそうなサクラくん、次に会えるのを楽しみにしていますよ」
「はあ……もう来なくてもいいですけど」

 にたにたと口元を緩ませた鈴木が店を出て行く。どんな態度をとっても前向きに受け止める鈴木の性格はある意味で素晴らしい。

 鈴木が去って気が抜けた咲空はカウンターチェアに座る。見渡せば、アオイは部屋の隅であんぱんを食べていた。傍には空の包装がいくつも落ちている。

「……アオイさん静かだなと思ったら、月寒あんぱん食べてたんですね」
「そりゃ鈴木さんにプラスチックゴミって言われちゃいましたから。もくもくと食べていたよ」

 プラスチックゴミという表現がどれだけのショックを与えるのかはわからないが、それが原因でアオイは大人しくしていらしい。咲空と鈴木がやりとりをしているわずかな間に、月寒あんぱんを五個もやけ食いしていた。

「今日の予定がなくなっちゃいましたねぇ。どうしましょう」

 この店に来客なしの暇な状態はよくあることで、そんな時は店内の掃除をしたり、庭の雑草を抜いたり、手の込んだご飯を作ったりと、家政婦のような作業ばかりしていた。だが今日はその作業を後回しにしなければならない。

「鈴木さん対策を考えます」

 宣言して咲空は考えこむ。

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