22 / 85
Ep2.故郷のすきみはかたくてほぐせず
2-2
しおりを挟む
「なるほどな。それで相手に合わせた案内、今回は料理で悩んでるってわけか」
「そうなの。でもコレ! っていうのがなくて」
「咲空なら、地元の料理とかあるんじゃないか? オホーツクの方で獲れるものとか。地元が紋別だろ?」
「紋別なら蟹だけど、それはすでに……」
最初は蟹を思い浮かべた。さらさらっと食べられるかは謎だが、素朴で奥深い味のするものといえばズワイガニと思ったのだ。しかし鈴木の反応は薄く、違うと言っていた。これに近いものと言っていたので海産物に変わりはないだろうが。
「厳しいなら店長に変わってもらうとか」
変われるものならそうしている。しかし咲空がやらなければならない状況になっているのだ。
「そうしたいんだけど、失敗したら私が食べられちゃうからね……」
「は? 咲空が? え?」
物騒な単語に玖琉が眉をひそめた。うっかり呟いてしまったが、事情を知らない者が聞けば何事かと驚く単語だろう。己の失言を取り消すべく、咲空は慌てて首を横に振った。
「ごめん。何でもないの。ぼんやりしてた」
「ならいいけど……何かあったら相談しろよ。たまには一緒にご飯食べよう」
玖琉とは仲はいいが、恋だの付き合いだのという関係は一切なく、男女の垣根を越えて親しくできる友人だ。一緒にいれば落ち着くし、咲空の出身地についても話している。部屋探しに困っていた時に今住んでいるアパートを紹介したのも、咲空だった。隣室が知らない人になって緊張するぐらいなら、信頼している友人がいい。その結果、今では札幌で最も親しい友人となった。
今まではどちらかの部屋に集まって食事をすることが多かったが、咲空がソラヤに勤めてからはアオイにご飯を作って一緒に食べてしまうことが多く、たまに食べずに帰ってきても玖琉のバイト時間と合わなかったりと、夕食を共にする機会が減っていたのだ。
「うん。久しぶりにご飯食べたいね」
「俺のシフト出たら送るよ。焼肉しながら酒飲もう」
偶然会えただけだが、玖琉と話したことで心が軽くなる。悩み思いつめていたものが解消できずとも、今だけはバイトのことを忘れることができそうだ。
(やっぱり、人間はいいなあ。ソラヤのお客様みたいにぶっとんでいない)
コーヒーに口をつければ、冷めてもおいしい。馴染みの味はやはりいいものだ。
***
「そうなの。でもコレ! っていうのがなくて」
「咲空なら、地元の料理とかあるんじゃないか? オホーツクの方で獲れるものとか。地元が紋別だろ?」
「紋別なら蟹だけど、それはすでに……」
最初は蟹を思い浮かべた。さらさらっと食べられるかは謎だが、素朴で奥深い味のするものといえばズワイガニと思ったのだ。しかし鈴木の反応は薄く、違うと言っていた。これに近いものと言っていたので海産物に変わりはないだろうが。
「厳しいなら店長に変わってもらうとか」
変われるものならそうしている。しかし咲空がやらなければならない状況になっているのだ。
「そうしたいんだけど、失敗したら私が食べられちゃうからね……」
「は? 咲空が? え?」
物騒な単語に玖琉が眉をひそめた。うっかり呟いてしまったが、事情を知らない者が聞けば何事かと驚く単語だろう。己の失言を取り消すべく、咲空は慌てて首を横に振った。
「ごめん。何でもないの。ぼんやりしてた」
「ならいいけど……何かあったら相談しろよ。たまには一緒にご飯食べよう」
玖琉とは仲はいいが、恋だの付き合いだのという関係は一切なく、男女の垣根を越えて親しくできる友人だ。一緒にいれば落ち着くし、咲空の出身地についても話している。部屋探しに困っていた時に今住んでいるアパートを紹介したのも、咲空だった。隣室が知らない人になって緊張するぐらいなら、信頼している友人がいい。その結果、今では札幌で最も親しい友人となった。
今まではどちらかの部屋に集まって食事をすることが多かったが、咲空がソラヤに勤めてからはアオイにご飯を作って一緒に食べてしまうことが多く、たまに食べずに帰ってきても玖琉のバイト時間と合わなかったりと、夕食を共にする機会が減っていたのだ。
「うん。久しぶりにご飯食べたいね」
「俺のシフト出たら送るよ。焼肉しながら酒飲もう」
偶然会えただけだが、玖琉と話したことで心が軽くなる。悩み思いつめていたものが解消できずとも、今だけはバイトのことを忘れることができそうだ。
(やっぱり、人間はいいなあ。ソラヤのお客様みたいにぶっとんでいない)
コーヒーに口をつければ、冷めてもおいしい。馴染みの味はやはりいいものだ。
***
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~
紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの?
その答えは私の10歳の誕生日に判明した。
誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。
『魅了の力』
無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。
お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。
魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。
新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。
―――妹のことを忘れて。
私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。
魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。
しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。
なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。
それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。
どうかあの子が救われますようにと。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
侯爵令嬢として婚約破棄を言い渡されたけど、実は私、他国の第2皇女ですよ!
みこと
恋愛
「オリヴィア!貴様はエマ・オルソン子爵令嬢に悪質な虐めをしていたな。そのような者は俺様の妃として相応しくない。よって貴様との婚約の破棄をここに宣言する!!」
王立貴族学園の創立記念パーティーの最中、壇上から声高らかに宣言したのは、エリアス・セデール。ここ、セデール王国の王太子殿下。
王太子の婚約者である私はカールソン侯爵家の長女である。今のところ
はあ、これからどうなることやら。
ゆるゆる設定ですどうかご容赦くださいm(_ _)m
義理の妹が妊娠し私の婚約は破棄されました。
五月ふう
恋愛
「お兄ちゃんの子供を妊娠しちゃったんだ。」義理の妹ウルノは、そう言ってにっこり笑った。それが私とザックが結婚してから、ほんとの一ヶ月後のことだった。「だから、お義姉さんには、いなくなって欲しいんだ。」
隣国に売られるように渡った王女
まるねこ
恋愛
幼いころから王妃の命令で勉強ばかりしていたリヴィア。乳母に支えられながら成長し、ある日、父である国王陛下から呼び出しがあった。
「リヴィア、お前は長年王女として過ごしているが未だ婚約者がいなかったな。良い嫁ぎ先を選んでおいた」と。
リヴィアの不遇はいつまで続くのか。
Copyright©︎2024-まるねこ
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる