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Ep1.救世主はぷるぷるごっこ
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しおりを挟む札幌市営地下鉄東豊線に乗りこみ大通駅で降りて歩くことしばらく。目当ての大通公園にやってきた。といっても咲空は本日二回目である。最初に来たのも大通公園の近くだった。
「こ、ここが大通公園……です」
緊張してカチカチになりながら、大通公園を指さす咲空。そこにあるのは雪まつり……ではなく数日前のため建設途中の氷像や雪像たちだ。
「……」
山田の反応は渋い。眉間に皺を寄せたままだ。
観光案内なんてしたことがない咲空だったが、こうなることは想定していた。地下鉄に乗っている間に調べた付け焼刃の札幌知識を語る。
「この大通公園は東西約1.5キロの横長の公園です。札幌中心部は道路が直角に敷かれ、いわゆる碁盤の目のように整備されています。これは日本の京都という地域を参考にした町づくりらしく……え、えっと……うん? 大通公園は……その……札幌中心部の……」
「サクラちゃん、サクラちゃん」
しどろもどろになっていたところでアオイに遮られた。
「山田さん、聞いてないみたいです」
「……人間早く滅ぼしたい」
咲空が喋ったうちの一文字も頭に入っていないのだろう。山田は景色など気にせずうつむいてぶつぶつと呟くのみだ。
この大通り公園も季節によっては、花壇に様々な花が植えられていたり、子供たちに人気の遊具に噴水がある。イベント開催会場になることが多く、夏はビアガーデンや秋はオータムフェスト。札幌のお祭りと聞いて真っ先に浮かぶだろう『雪まつり』はここでも開催される。あと少し日にちがずれていたのなら、見上げるほど大きな雪像があって、ビールや道内名産物の屋台が並んでいたことだろう。あるのは作りかけの何かだけだ。
(ここから行ける観光スポットって何だろう……赤レンガ庁舎? 時計台? そもそも私、札幌出身じゃないから詳しくないって! ってか神様だから北海道神宮行くとか? ってか黒狐を北海道神宮に連れて行っていいの? わからん!)
最初から観光案内ネタなんてなかったが、いよいよ打つ手がない。札幌の観光スポットはいくつもあるが、どれも微妙に距離が離れている。向かうのなら確信をもってその方面へ進みたいところだ。
「あの山田さん」
「なんだ」
「何か見てみたいもの、リクエストとか……」
「ない」
「ですよね……」
これが北海道に興味のある人ならば案内しやすいのだが、相手は蝦夷神様である。何を見せればいいのかわからない。神様向け観光案内なんてまったくわからない。
打開策は出てこない。これ以上の案内続行は無理だと告げようとした時、先にアオイが口を開いた。
「サクラちゃん。ちゃんとご案内しないと人間が滅ぼされちゃいますよ。サクラちゃんもみんなも死んじゃうので大変です。ちなみに僕は真冬でも傘を差す人なので案内は苦手ですよ」
「じゃあどうしてソラヤを営業しているんですか」
「それはまあ。事情がありまして」
どんな事情だ、とツッコミを入れたくなるも、ぐっと堪える。今聞いたところでアオイは教えてくれないだろう。なにせ山田が苛立っているのだ。小刻みに体を揺らしているのは寒いからではないのだと、咲空にも伝わっている。
とにかく動くしかない。北海道の定番観光地はだめとなれば、次なる武器は食べ物。
北海道といえば食だ。農業、漁業、畜産。広大な大地と三種の海に接していることから、様々なおいしい物がある。
素材だけでなく独特の食文化も形成され、北海道といえば羊肉を焼いたジンギスカンに、寒い冬でも冷えないよう油多めのこってり味噌ラーメン。最近はさらりとしたスープのようなカレーをつけてご飯を食べるスープカレーなるものもある。
とりあえずご飯に興味を持ってもらえれば。北海道飯作戦の決行である。
「そろそろお腹減りませんか? 北海道といえば様々な食べ物があります。例えばジンギスカンとか――」
「食?」
山田の眉がぴくりと動いた。
「我々が与える恵み、食べ物への感謝もできぬ人間が食を案内するだと……」
「えーっと……食べ物は興味なし、です?」
「ふざけるな。感謝を忘れた人間たちがしたことを、我は忘れぬぞ!」
北海道の誇りでもある食までも無駄ときた。それどころか謎の怒りポイントに触れてしまった気がする。
じゃあどうすればいいのか。八方塞がりの状態に咲空は泣きたくなってくる。
今にもここを抜け出して遺書を書いてきた方がいいのではないか。人類滅ぼす結果になってすみません、って始まりからの遺書だ。残念ながら読んでほしい人はいないが。
落胆する咲空の隣でごそごそと動く者がいた。彼はコートのポケットを探っていたようだが、目当てのものがなかったらしく肩を落として呟く。
「……月寒あんぱんが、ない」
未来からきた不思議ロボットの如くポケットからお助けアイテムが出るのかと思いきや、まったく関係ない月寒あんぱんの話である。
「僕としては取りに戻りたいですねぇ。歩き疲れて甘いものが足りていないので」
「あれだけ食べていたのに、まだ食べるんですか?」
「もちろん!」
山田と咲空の緊迫した空気を無視し、それどころかいくら食べても食べたりない胃袋である。その胃袋どうなっているのかと疑ってしまう。
あんぱんを取りに行きたいアオイの意思は固く、一行はソラヤに引き返すこととなった。大通公園に着いたものの行き先決まらずだった咲空にとっては助け船だ。ソラヤに戻るまでに何とか良い案内を思いつきたい。
「……あのー」
「……」
何とかヒントを得ようと山田に話しかける咲空だったが、破壊神様はご機嫌ななめである。食べ物の話題を持ち出したことがよくなかったのだろう。
アオイはあんぱんのことばかり呟いているし、山田はこの態度。険悪な空気を何とかしたいところだが。
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