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5章 呪詛、虚ろ花(後)
1.虚ろ花が呪うもの
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目を覚ませばそこは冬花宮だったので華紅妍はひどく驚いたが、涙目になった藍玉の語りを聞いて納得する。
(三日も眠り続けたといえ、無事だったことに感謝した方がよさそうだ)
最後に覚えているのは坤母宮の花詠みである。花詠みがうまく行かなかったのは初めてのことだ。まさか鬼霊が介入してくるとは知らなかった。
感覚からして、紅妍が花詠みをしている中に瓊花の鬼霊が飛びこんできたのだろう。あの鬼霊は言葉を発する。自我を持っているのだ。秋芳宮宮女が鬼霊の協力を得たと話していたが、瓊花の鬼霊ならばそれも考え得る。あれほど強く自我を保っているのなら生者とのやりとりも可能かもしれない。
紅妍の身を気遣ったのだろう薬粥が運ばれる。体はまだ痛みが残っているが、のんびりと休んでいるわけにはいかない。支度が終わればすぐに動かねばと思っていた。
「華妃様、今日は冬花宮でお休みくださいませ」
先手を打ったのは藍玉である。紅妍の考えていることなどお見通しだと言わんばかりだ。
「それはできない」
「三日も寝込まれていたのです。せめて今日ぐらいはゆっくりなさってください」
「でもそろそろ秀礼様に報告をするべきだと思う。坤母宮のことも直接伝えてはいないから」
そこで秀礼の名がでてきたことで、思い出したように藍玉が言う。「秀礼様といえば」と切り出したので、匙を持つ紅妍の手が止まった。
「坤母宮で倒れた日の夜、慌てた様子でこちらにいらしてましたよ」
「……それは知らなかった」
「当然です、華妃様は臥せっていたでしょう――秀礼様はそれは見たこともない剣幕で突然冬花宮にやってきたのですよ。伯父上が慌てて追いかけてくるほどです。わたしたちも大変驚きました」
知らぬうちに秀礼が見舞いにきていたとは知らなかった。それも夜遅くにきたという。清益が慌てふためく姿が容易に想像できた。
「それほど秀礼様も心配していたのですから、今日はどうかご自愛ください」
「……わ、わかった」
紅妍が折れると藍玉はにっこりと微笑んだ。
まさか秀礼が来ていたとは知らなかった。恥ずかしいような、嬉しいような複雑な感覚である。気になって粥どころではなくなった。
「秀礼様は……何か言っていた?」
「こちらの部屋に着いた後人払いをされたので、わたしにはわかりませんが……」
そこで藍玉は言葉を止める。ちらりと几に飾った花器を見やる。そこには季の花を活けている。北庭園から摘んだという紫扇貝色の芍薬と桔梗が生けてある。これから暑くなるから涼しげな色を選んだのだと霹児が語っていたのを思い出した。
つまり藍玉は人に聞くより花に聞けと言っているのだ。この花は紅妍が坤母宮に向かう前から変わらずある。この部屋に秀礼がきたのなら花が見ているはずだ。
紅妍もしばし花器を見る。花詠みするべきかと手を伸ばし、しかしやめた。
「……よろしいんですか?」
藍玉が問う。紅妍は頷いた。
花詠みをする力はじゅうぶん戻っているし、先の花詠みがうまくいかなかったからといって恐れはない。ただ、このような形で秀礼が来ていた時の様子を覗き見るのはよくないと自制したのだ。
「これはそのままにしておく。震礼宮には見舞いの礼と、明日伺いたい旨を文で伝える」
「わかりました。用意しますね」
そうは言ったものの、紅妍はやはり花器のことが気になってしまう。見ないと言っておきながら後ろ髪を引かれるような思いだ。
(秀礼様はここにきて……どうしていたのだろう)
想像するだけで胸の奥が温かくなる。緩みそうな頬はかぶりをふって引き締め、明日のことを考えるようにした。
***
翌日。紅妍は震礼宮に向かった。先だって訪問の旨は伝えている。冬花宮を出て、高塀の通路を歩くのだが、またしても誰かが後をつけているらしい。
(よくも飽きずに尾行する)
外にでるたび何度も追いかけられてるようでよい心地はしない。今回も鬼霊でないことはわかっている。そろそろ捕まえた方がいいのかもしれないが、秀礼に相談してからの方がいいだろう。向かうのは震礼宮だからちょうどいい。紅妍は尾行者に気づかぬふりをして、そのまま目的地へ進んだ。
震礼宮では秀礼と清益が待っていた。紅妍が部屋に入るなり、秀礼が声をかける。
「無理はしていないか?」
「はい。すっかり良くなりました」
「そうか……よかった」
秀礼には心配をかけてしまった。紅妍が普段通りにしていることに安堵したらしく表情は穏やかなものになった。紅妍は椅子に腰掛ける。まずはここ数日の報告だ。
「現在、ふたつの呪詛が絡んでいると思われます。ひとつは櫻春宮に咲いていた百合の呪詛。もうひとつは木香茨の呪詛です」
「櫻春宮か……そこに咲いていたとなればいやな噂がでそうだな」
秀礼は物憂げに言って、顎に手を添える。実際にいやな噂は出ているのだが、璋貴妃の子である秀礼の耳には届いていなかったのだろう。それも含めて伝えた方がいいと紅妍は判断した。
「不気味な虚ろ花が咲いていたので噂はあったことでしょう。ですが、百合の呪詛を仕掛けたのは璋貴妃ではありません」
「誰が呪詛を仕掛けたのか、見当はついているのか?」
これは坤母宮の花詠みで得ている。秀礼や清益らは息を呑んで紅妍の返答を待っているようだった。みなの顔を見渡した後に告げる。
「呪詛を仕掛けたのは辛皇后です――坤母宮で花詠みをし、百合の呪詛を仕掛けている場面を見ました。その花詠みの最中、鬼霊に介入され襲われました。瓊花の鬼霊です」
淡々と報告する紅妍に対し、秀礼はわかりやすいほど表情を変えていた。
「瓊花の鬼霊とは、櫻春宮でお前に襲いかかろうとしていた鬼霊だろう?」
「はい。あの鬼霊に介入されました。鬼霊となっても言葉を発することができるほど自我を保っている。つまりそれだけ、強い怨があるということです」
「それの正体がわかればいいのだが」
いまになれば鬼霊が挿していた簪や襦裙といったものが結びつく。面布をつけて顔はわからずとも背格好は同じだ。だから、確信を持って告げる。
「瓊花の鬼霊も、辛皇后です」
紅妍のひと言に、みながしんと静まり返った。清益や藍玉らも微笑んではいるが冷えた笑みである。秋芳宮宮女を殺し、二度も紅妍に襲いかかった鬼霊が、まさか皇后だとは想像もしていなかったのだろう。
秀礼が顔をあげる。その瞳には辛皇后への侮蔑が混ざっているようだった。
「百合の呪詛を仕掛け、死してなお鬼霊となり後宮を狂わせるか……いやな女だ」
「辛皇后が仕掛けた百合の呪詛は誰を呪ったものなのか、それはまだわかりません」
実のところは、薄々気づいている。しかし確証が得られぬためそれを口にはしなかった。紅妍だけでなく秀礼も、なぜ紅妍が語らなかったのか察しているだろう。
(坤母宮の百合を摘んで始まった呪詛。その黒百合が櫻春宮に咲いていたということは――呪われたのは璋貴妃)
璋貴妃は辛皇后がかけた呪詛によって亡くなったのだろう。その代償として辛皇后は指を失ったはずだ。だから、瓊花の鬼霊の指には小さい黒百合が無数に咲いていた。呪術師が告げた通り、黒花が代償を覆ったのだ。
そこで清益が一歩前にでた。気になることがあるのだろう。
「これで百合の呪詛はわかりました。ですが、この呪詛が帝に関与しているとは思えません。帝がおられる光乾殿には呪詛と鬼霊のふたつが絡んでいるはずでしょう?」
「はい。光乾殿に満ちる悪気、呪詛はおそらく木香茨の呪詛だと思います」
「それも花詠みで得たことか?」
「光乾殿の庭に咲いた木香茨から教えてもらいました。ですがこの呪詛は――」
これ以上を語ってよいのか戸惑い、紅妍はうつむく。予想があっているのならば、この呪詛を解いていいのか紅妍自身わからないのだ。
(瓊花の鬼霊は指に黒百合を、胸に黒い瓊花を抱えていた)
どちらも、黒である。鬼霊の紅花は、呪詛が関わる場合は黒花になるのだろう。辛皇后の指に黒百合が咲いていたことは呪詛の代償だとわかる。では、胸の黒い瓊花はどうなる。
(辛皇后は、殺されたのかもしれない)
紅妍は顔をあげた。それを確かめるために、もう一度坤母宮に行く必要がある。もしも辛皇后が呪詛をかけられて殺されたのなら、庭のどこかに黒い木香茨が咲いているはずだ。
「木香茨の呪詛について確かめるため、もう一度坤母宮に行きます」
紅妍が告げる。これにすかさず反応したのが秀礼だった。
「坤母宮に行けば、また辛皇后に襲われるかもしれないぞ」
「かまいません。予想通り、そこに虚ろ花があるのなら祓いたい」
理に背いて存在し続けることは辛いだろう。呪詛の元となった木香茨も解放してあげたいと考えていた。
「わたしの予想が合っているのならば、坤母宮でそれを祓えば、光乾殿を満たす悪気が和らぐかもしれません」
「……坤母宮が光乾殿を苦しめているかもしれないということか」
秀礼はしばしうつむいて考える。その後、顔をあげて清益に告げた。
「私も行こう。いつ瓊花の鬼霊が現れるかわからない。宝剣を持つ私なら戦力になれるはずだ」
清益はこれを快く思っていないようだった。引き止める隙を探るように秀礼の方を眺めている。しかしついに折れたのか「わかりました。支度しましょう」と深くため息をついた。
(三日も眠り続けたといえ、無事だったことに感謝した方がよさそうだ)
最後に覚えているのは坤母宮の花詠みである。花詠みがうまく行かなかったのは初めてのことだ。まさか鬼霊が介入してくるとは知らなかった。
感覚からして、紅妍が花詠みをしている中に瓊花の鬼霊が飛びこんできたのだろう。あの鬼霊は言葉を発する。自我を持っているのだ。秋芳宮宮女が鬼霊の協力を得たと話していたが、瓊花の鬼霊ならばそれも考え得る。あれほど強く自我を保っているのなら生者とのやりとりも可能かもしれない。
紅妍の身を気遣ったのだろう薬粥が運ばれる。体はまだ痛みが残っているが、のんびりと休んでいるわけにはいかない。支度が終わればすぐに動かねばと思っていた。
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先手を打ったのは藍玉である。紅妍の考えていることなどお見通しだと言わんばかりだ。
「それはできない」
「三日も寝込まれていたのです。せめて今日ぐらいはゆっくりなさってください」
「でもそろそろ秀礼様に報告をするべきだと思う。坤母宮のことも直接伝えてはいないから」
そこで秀礼の名がでてきたことで、思い出したように藍玉が言う。「秀礼様といえば」と切り出したので、匙を持つ紅妍の手が止まった。
「坤母宮で倒れた日の夜、慌てた様子でこちらにいらしてましたよ」
「……それは知らなかった」
「当然です、華妃様は臥せっていたでしょう――秀礼様はそれは見たこともない剣幕で突然冬花宮にやってきたのですよ。伯父上が慌てて追いかけてくるほどです。わたしたちも大変驚きました」
知らぬうちに秀礼が見舞いにきていたとは知らなかった。それも夜遅くにきたという。清益が慌てふためく姿が容易に想像できた。
「それほど秀礼様も心配していたのですから、今日はどうかご自愛ください」
「……わ、わかった」
紅妍が折れると藍玉はにっこりと微笑んだ。
まさか秀礼が来ていたとは知らなかった。恥ずかしいような、嬉しいような複雑な感覚である。気になって粥どころではなくなった。
「秀礼様は……何か言っていた?」
「こちらの部屋に着いた後人払いをされたので、わたしにはわかりませんが……」
そこで藍玉は言葉を止める。ちらりと几に飾った花器を見やる。そこには季の花を活けている。北庭園から摘んだという紫扇貝色の芍薬と桔梗が生けてある。これから暑くなるから涼しげな色を選んだのだと霹児が語っていたのを思い出した。
つまり藍玉は人に聞くより花に聞けと言っているのだ。この花は紅妍が坤母宮に向かう前から変わらずある。この部屋に秀礼がきたのなら花が見ているはずだ。
紅妍もしばし花器を見る。花詠みするべきかと手を伸ばし、しかしやめた。
「……よろしいんですか?」
藍玉が問う。紅妍は頷いた。
花詠みをする力はじゅうぶん戻っているし、先の花詠みがうまくいかなかったからといって恐れはない。ただ、このような形で秀礼が来ていた時の様子を覗き見るのはよくないと自制したのだ。
「これはそのままにしておく。震礼宮には見舞いの礼と、明日伺いたい旨を文で伝える」
「わかりました。用意しますね」
そうは言ったものの、紅妍はやはり花器のことが気になってしまう。見ないと言っておきながら後ろ髪を引かれるような思いだ。
(秀礼様はここにきて……どうしていたのだろう)
想像するだけで胸の奥が温かくなる。緩みそうな頬はかぶりをふって引き締め、明日のことを考えるようにした。
***
翌日。紅妍は震礼宮に向かった。先だって訪問の旨は伝えている。冬花宮を出て、高塀の通路を歩くのだが、またしても誰かが後をつけているらしい。
(よくも飽きずに尾行する)
外にでるたび何度も追いかけられてるようでよい心地はしない。今回も鬼霊でないことはわかっている。そろそろ捕まえた方がいいのかもしれないが、秀礼に相談してからの方がいいだろう。向かうのは震礼宮だからちょうどいい。紅妍は尾行者に気づかぬふりをして、そのまま目的地へ進んだ。
震礼宮では秀礼と清益が待っていた。紅妍が部屋に入るなり、秀礼が声をかける。
「無理はしていないか?」
「はい。すっかり良くなりました」
「そうか……よかった」
秀礼には心配をかけてしまった。紅妍が普段通りにしていることに安堵したらしく表情は穏やかなものになった。紅妍は椅子に腰掛ける。まずはここ数日の報告だ。
「現在、ふたつの呪詛が絡んでいると思われます。ひとつは櫻春宮に咲いていた百合の呪詛。もうひとつは木香茨の呪詛です」
「櫻春宮か……そこに咲いていたとなればいやな噂がでそうだな」
秀礼は物憂げに言って、顎に手を添える。実際にいやな噂は出ているのだが、璋貴妃の子である秀礼の耳には届いていなかったのだろう。それも含めて伝えた方がいいと紅妍は判断した。
「不気味な虚ろ花が咲いていたので噂はあったことでしょう。ですが、百合の呪詛を仕掛けたのは璋貴妃ではありません」
「誰が呪詛を仕掛けたのか、見当はついているのか?」
これは坤母宮の花詠みで得ている。秀礼や清益らは息を呑んで紅妍の返答を待っているようだった。みなの顔を見渡した後に告げる。
「呪詛を仕掛けたのは辛皇后です――坤母宮で花詠みをし、百合の呪詛を仕掛けている場面を見ました。その花詠みの最中、鬼霊に介入され襲われました。瓊花の鬼霊です」
淡々と報告する紅妍に対し、秀礼はわかりやすいほど表情を変えていた。
「瓊花の鬼霊とは、櫻春宮でお前に襲いかかろうとしていた鬼霊だろう?」
「はい。あの鬼霊に介入されました。鬼霊となっても言葉を発することができるほど自我を保っている。つまりそれだけ、強い怨があるということです」
「それの正体がわかればいいのだが」
いまになれば鬼霊が挿していた簪や襦裙といったものが結びつく。面布をつけて顔はわからずとも背格好は同じだ。だから、確信を持って告げる。
「瓊花の鬼霊も、辛皇后です」
紅妍のひと言に、みながしんと静まり返った。清益や藍玉らも微笑んではいるが冷えた笑みである。秋芳宮宮女を殺し、二度も紅妍に襲いかかった鬼霊が、まさか皇后だとは想像もしていなかったのだろう。
秀礼が顔をあげる。その瞳には辛皇后への侮蔑が混ざっているようだった。
「百合の呪詛を仕掛け、死してなお鬼霊となり後宮を狂わせるか……いやな女だ」
「辛皇后が仕掛けた百合の呪詛は誰を呪ったものなのか、それはまだわかりません」
実のところは、薄々気づいている。しかし確証が得られぬためそれを口にはしなかった。紅妍だけでなく秀礼も、なぜ紅妍が語らなかったのか察しているだろう。
(坤母宮の百合を摘んで始まった呪詛。その黒百合が櫻春宮に咲いていたということは――呪われたのは璋貴妃)
璋貴妃は辛皇后がかけた呪詛によって亡くなったのだろう。その代償として辛皇后は指を失ったはずだ。だから、瓊花の鬼霊の指には小さい黒百合が無数に咲いていた。呪術師が告げた通り、黒花が代償を覆ったのだ。
そこで清益が一歩前にでた。気になることがあるのだろう。
「これで百合の呪詛はわかりました。ですが、この呪詛が帝に関与しているとは思えません。帝がおられる光乾殿には呪詛と鬼霊のふたつが絡んでいるはずでしょう?」
「はい。光乾殿に満ちる悪気、呪詛はおそらく木香茨の呪詛だと思います」
「それも花詠みで得たことか?」
「光乾殿の庭に咲いた木香茨から教えてもらいました。ですがこの呪詛は――」
これ以上を語ってよいのか戸惑い、紅妍はうつむく。予想があっているのならば、この呪詛を解いていいのか紅妍自身わからないのだ。
(瓊花の鬼霊は指に黒百合を、胸に黒い瓊花を抱えていた)
どちらも、黒である。鬼霊の紅花は、呪詛が関わる場合は黒花になるのだろう。辛皇后の指に黒百合が咲いていたことは呪詛の代償だとわかる。では、胸の黒い瓊花はどうなる。
(辛皇后は、殺されたのかもしれない)
紅妍は顔をあげた。それを確かめるために、もう一度坤母宮に行く必要がある。もしも辛皇后が呪詛をかけられて殺されたのなら、庭のどこかに黒い木香茨が咲いているはずだ。
「木香茨の呪詛について確かめるため、もう一度坤母宮に行きます」
紅妍が告げる。これにすかさず反応したのが秀礼だった。
「坤母宮に行けば、また辛皇后に襲われるかもしれないぞ」
「かまいません。予想通り、そこに虚ろ花があるのなら祓いたい」
理に背いて存在し続けることは辛いだろう。呪詛の元となった木香茨も解放してあげたいと考えていた。
「わたしの予想が合っているのならば、坤母宮でそれを祓えば、光乾殿を満たす悪気が和らぐかもしれません」
「……坤母宮が光乾殿を苦しめているかもしれないということか」
秀礼はしばしうつむいて考える。その後、顔をあげて清益に告げた。
「私も行こう。いつ瓊花の鬼霊が現れるかわからない。宝剣を持つ私なら戦力になれるはずだ」
清益はこれを快く思っていないようだった。引き止める隙を探るように秀礼の方を眺めている。しかしついに折れたのか「わかりました。支度しましょう」と深くため息をついた。
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