26 / 42
第四章 悪女と誘拐
2-01
しおりを挟む
ダリアが目を覚ますと、古びた建物の中にいた。
立ち上がろうとすると、両手、両足が縛られているのに気づいた。口には猿ぐつわもされている。
ああ、そういえば攫われたんだっけ、となぜか他人事のような感想がでた。
攫われたときは一瞬だったので、犯人たちの顔は見ていない。
だが、少し離れたところに居た御者とラリーに向かって犯人たちが叫んでいた言葉で、状況を把握した。
「あれはこの間の……」
犯人たちの目的がはっきりしている以上、すぐに殺されることはないはずだ。まずは現在の状況を理解しようと、ダリアは周囲を見渡した。
少し離れたところに、ベージュ色の塊が見えた。何かの荷物かと凝視すると、その塊が少し動いた。
それが人だとわかると、慌ててダリアは体をイモムシのように動かして、そこに向かう。
それは、ベージュ色の服を着た若い女性だった。シンプルな服だがキレイに仕立てられていて、裕福な家の令嬢を思わせる。マクレディ領には貿易で財を成す商家がたくさんあるので、そういった家の令嬢かもしれない。
彼女も両手両足を縛られ、猿ぐつわをされている。怯えるように顔を伏せているので顔はよく見えない。
かわいそうに、この人も攫われたのか。ダリアは眉をひそめた。
まずは縄を切らなければいけない。
ダリアは縛られたままの後ろ手を、自身の腰のあたりに持っていく。
少しずつ探るように手を移動させていくと、やがて手に硬いものが当たった。見えないので感覚だけで慎重に取り出す。それは小さな折りたたみ式のナイフだった。
ダリアが着ているドレスの腰の切り返し部分には隠しポケットがある。そこには外出の際に小さな折りたたみ式のナイフを入れている。
これはいわばマクレディ家の決まり事で、生前、両親から外に出かけるときは必ず持ち歩くように言われていた。
なんでも昔、マクレディ家のご先祖様が海沿いを散歩していたら、密入国をしようとしていた海賊に捕まったらしい。
そのとき、そのご先祖様がたまたまナイフを隠し持っていたため、なんとか逃げおおせることができたのだそうだ。
それ以来、マクレディ家の人間は外出の際は常にナイフを持ち歩かなければならないという家訓のようなものができた。
ドレスを作る時もいちいち隠しポケットを作らなければいけないので、正直面倒だと思っていたが……。
ご先祖様、ありがとう。まさか本当に使う日がくるとは思いませんでした。もう二度とめんどくさいなどとは言いません。ダリアは心のなかでご先祖様に感謝した。
ダリアは縛られた両手をなんとか動かし、ナイフを持ち替えて少しずつ自分の縄を切っていく。後ろ手で不自然な持ち方をしているため、手に力が入らず少しずつしか切れない。
「…っ」腕に痛みが走った。間違えて自分の腕を切ってしまったらしい。痛みに顔をしかめるが、かまわず続ける。その後も何度か自分の腕を切ったが、その都度、落ち着いてと自身に言い聞かせて、なんとか縄を切ることができた。
両手が自由になれば後は簡単だ。猿ぐつわを解き、足首の縄も切り、ようやく体は自由になった。
休むまもなく、目の前の令嬢に声をかける。
「大丈夫? 今、縄を切るから待ってて」
令嬢の体に傷をつけないよう、注意して縄を切ると、令嬢は下を向いたまま「ありがとう」と小さな声で言った。
ダリアよりもいくつか若いと思われるその女性は、真っ青な顔をして下を向いたまま黙っている。少し震えてもいるようだ。
怖い目にあったのだから当然だろう。
ダリアは安心させるように明るく声をかけた。
「わたしはダリアよ。ダリア・マクレディ。あなたのお名前聞いてもいいかしら」
「ジェ……、ジェーンです」
小さな声で答える。あいかわらずダリアのほうは見ない。
「そう、ジェーンさんというのね。怪我はないかしら?」
ジェーンは下を向いたまま小さくうなずいた。
ダリアはホッとしたように息を吐いた。
「ジェーンさん、犯人の目的は私なの。あなたを巻き込んでしまってごめんなさい」
ジェーンに向かって頭を下げた。
「でも、大丈夫。助かるわ。マクレディ領の警備隊は優秀よ。きっと探し出してくれるわ」
今日はクライドが来る日だ。きっと彼も探してくれているだろう。彼もいるなら大丈夫だ。
「大丈夫、大丈夫」自分に言い聞かせるようにつぶやく。
だからそれまでに自分ができることをやらないと。
立ち上がろうとすると、両手、両足が縛られているのに気づいた。口には猿ぐつわもされている。
ああ、そういえば攫われたんだっけ、となぜか他人事のような感想がでた。
攫われたときは一瞬だったので、犯人たちの顔は見ていない。
だが、少し離れたところに居た御者とラリーに向かって犯人たちが叫んでいた言葉で、状況を把握した。
「あれはこの間の……」
犯人たちの目的がはっきりしている以上、すぐに殺されることはないはずだ。まずは現在の状況を理解しようと、ダリアは周囲を見渡した。
少し離れたところに、ベージュ色の塊が見えた。何かの荷物かと凝視すると、その塊が少し動いた。
それが人だとわかると、慌ててダリアは体をイモムシのように動かして、そこに向かう。
それは、ベージュ色の服を着た若い女性だった。シンプルな服だがキレイに仕立てられていて、裕福な家の令嬢を思わせる。マクレディ領には貿易で財を成す商家がたくさんあるので、そういった家の令嬢かもしれない。
彼女も両手両足を縛られ、猿ぐつわをされている。怯えるように顔を伏せているので顔はよく見えない。
かわいそうに、この人も攫われたのか。ダリアは眉をひそめた。
まずは縄を切らなければいけない。
ダリアは縛られたままの後ろ手を、自身の腰のあたりに持っていく。
少しずつ探るように手を移動させていくと、やがて手に硬いものが当たった。見えないので感覚だけで慎重に取り出す。それは小さな折りたたみ式のナイフだった。
ダリアが着ているドレスの腰の切り返し部分には隠しポケットがある。そこには外出の際に小さな折りたたみ式のナイフを入れている。
これはいわばマクレディ家の決まり事で、生前、両親から外に出かけるときは必ず持ち歩くように言われていた。
なんでも昔、マクレディ家のご先祖様が海沿いを散歩していたら、密入国をしようとしていた海賊に捕まったらしい。
そのとき、そのご先祖様がたまたまナイフを隠し持っていたため、なんとか逃げおおせることができたのだそうだ。
それ以来、マクレディ家の人間は外出の際は常にナイフを持ち歩かなければならないという家訓のようなものができた。
ドレスを作る時もいちいち隠しポケットを作らなければいけないので、正直面倒だと思っていたが……。
ご先祖様、ありがとう。まさか本当に使う日がくるとは思いませんでした。もう二度とめんどくさいなどとは言いません。ダリアは心のなかでご先祖様に感謝した。
ダリアは縛られた両手をなんとか動かし、ナイフを持ち替えて少しずつ自分の縄を切っていく。後ろ手で不自然な持ち方をしているため、手に力が入らず少しずつしか切れない。
「…っ」腕に痛みが走った。間違えて自分の腕を切ってしまったらしい。痛みに顔をしかめるが、かまわず続ける。その後も何度か自分の腕を切ったが、その都度、落ち着いてと自身に言い聞かせて、なんとか縄を切ることができた。
両手が自由になれば後は簡単だ。猿ぐつわを解き、足首の縄も切り、ようやく体は自由になった。
休むまもなく、目の前の令嬢に声をかける。
「大丈夫? 今、縄を切るから待ってて」
令嬢の体に傷をつけないよう、注意して縄を切ると、令嬢は下を向いたまま「ありがとう」と小さな声で言った。
ダリアよりもいくつか若いと思われるその女性は、真っ青な顔をして下を向いたまま黙っている。少し震えてもいるようだ。
怖い目にあったのだから当然だろう。
ダリアは安心させるように明るく声をかけた。
「わたしはダリアよ。ダリア・マクレディ。あなたのお名前聞いてもいいかしら」
「ジェ……、ジェーンです」
小さな声で答える。あいかわらずダリアのほうは見ない。
「そう、ジェーンさんというのね。怪我はないかしら?」
ジェーンは下を向いたまま小さくうなずいた。
ダリアはホッとしたように息を吐いた。
「ジェーンさん、犯人の目的は私なの。あなたを巻き込んでしまってごめんなさい」
ジェーンに向かって頭を下げた。
「でも、大丈夫。助かるわ。マクレディ領の警備隊は優秀よ。きっと探し出してくれるわ」
今日はクライドが来る日だ。きっと彼も探してくれているだろう。彼もいるなら大丈夫だ。
「大丈夫、大丈夫」自分に言い聞かせるようにつぶやく。
だからそれまでに自分ができることをやらないと。
5
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)
婚約者の不倫相手は妹で?
岡暁舟
恋愛
公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
お姉様のお下がりはもう結構です。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。
慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。
「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」
ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。
幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。
「お姉様、これはあんまりです!」
「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」
ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。
しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。
「お前には従うが、心まで許すつもりはない」
しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。
だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……?
表紙:ノーコピーライトガール様より
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです
じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」
アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。
金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。
私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる