上 下
21 / 27

エピローグ 1

しおりを挟む
 一ヶ月も過ぎると、元攻略者たちも落ち着いたようで、表面上はいつもとかわらない生活だ。

 間宮先輩は、よく家に来るようになった。
兄と二人で夕食の準備をしてくれることもある。間宮先輩は料理をしたことがほとんどなかったそうで、意外と料理上手な兄と楽しそうに料理をしている姿は微笑ましい。兄は、いつもは教わるばかりの間宮先輩に教えることが嬉しいらしい。
そのうち、私を審査員にして兄と間宮先輩で料理対決をしたいと言っているが、迷惑でしかないので止めて欲しい。

 折原先輩は、兄とは仲の良い友人のままだ。私は詳しい事情は知らないが、おそらく折原先輩は兄に気持ちを伝えていないと思う。
ある日、兄の教室までお弁当を届けに行くと、教室前の廊下で、兄と折原先輩が仲よさげに話をしていた。
すると、兄が手に持っていたスマホがピロンと鳴った。メッセージが来たらしい。兄のはにかむような笑顔でそれが間宮先輩からだとわかる。
兄はスマホを指さしながら、なにかを折原先輩に話しかける。そんな兄はとても幸せそうだ。
そしてそんな兄をすこし寂しそうに見つめる折原先輩。

折原先輩が選んだ道なら私がとやかく言うべきではないのはわかっているけど、何も知らず無神経な兄にイラッとして、兄に近づき思わず兄の頬をつねった。
「いてっ! いきなり何すんだよ!」
「……蚊」
「いや、こんなところに蚊はいないだろ」
「あ、ここにも」
もう一度頬をつねる。今度はすこし強めに。
折原先輩はぷはっと笑うと、私の真似をして兄の頬をつねる。
「ホントだ。蚊がいる」
「折原先輩、その蚊大きいですから、強くつねらないと。もっとこう、ひねるように」
「いてっ! いてっ! なんだよ二人して」
「だから蚊だってば」
私と折原先輩が同時に答える。
「なんだよ、もう」
兄が不満げな顔で自身の頬をさする。兄の手に握られたスマホ画面からハートの絵文字がチラリと見え、それにまたイラッとする。
「あ、また蚊……」
兄が大げさに避ける。
兄の背後から、折原先輩が笑いながら兄の両頬を同時にムギュっとつまむ。
「妹ちゃん、蚊はいなくなったみたい」
「そうですか。それならよかったです。じゃあ教室に帰ります」
折原先輩にだけ挨拶をして、兄に無言でお弁当を押し付けさっさと帰る。
廊下を曲がる直前に振り返ると、抗議している兄とそれを笑ってかわしている折原先輩が見えた。折原先輩の顔はさっきよりだいぶ明るくなった気がした。


 菜月君は、部活に集中しているらしい。中性的な美少年といった外見は体を鍛えたことで精悍さが増し、背も伸びてきたようで、女子の人気がますます上がっている。
あいかわらず無口で無表情だけど、新しい席は佐山さんと近く、時々、佐山さんのツッコむ声が聞こえてくるし、城田くんとはあいかわらず仲が良いようで、彼のつながりで新しい友人も増えているようだ。
私は席は離れたけど、私の席が教室入口に近いせいか、通りすがりに話しかけてくれる。
兄とはチームメイトとして上手くやっているとのことだ。


*******************************
次回で本編は完結となります。
次回の更新は夜のみとさせていただきます。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる? 「年下上司なんてありえない!」 「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」 思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった! 人材業界へと転職した高井綾香。 そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。 綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。 ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……? 「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」 「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」 「はあ!?誘惑!?」 「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」

お兄ちゃんは、ヒロイン様のモノ!!……だよね?

夕立悠理
恋愛
もうすぐ高校一年生になる朱里には、大好きな人がいる。義兄の小鳥遊優(たかなしゆう)だ。優くん、優くん、と呼んで、いつも後ろをついて回っていた。  けれど、楽しみにしていた高校に入学する日、思い出す。ここは、前世ではまっていた少女漫画の世界だと。ヒーローは、もちろん、かっこよくて、スポーツ万能な優。ヒロインは、朱里と同じく新入生だ。朱里は、二人の仲を邪魔する悪役だった。  思い出したのをきっかけに、朱里は優を好きでいるのをやめた。優くん呼びは、封印し、お兄ちゃんに。中学では一緒だった登下校も別々だ。だって、だって、愛しの「お兄ちゃん」は、ヒロイン様のものだから。  ──それなのに。お兄ちゃん、ちょっと、距離近くない……? ※お兄ちゃんは、彼氏様!!……だよね? は二人がいちゃついてるだけです。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

Lord of My Heart 〜呪われ伯爵は可愛い幼妻を素直に愛せない〜

泉野ジュール
恋愛
オリヴィア・リッチモンドは都会育ちのお嬢さま。 ふたりの出来すぎた兄と、絶世の美女の姉のすみっこで何不自由なく生きてきた十九歳。しかし二十歳を目前にして、いまだ夢見がちなオリヴィアに辟易した父は、彼女に究極の現実を突きつけた──ノースウッド伯爵エドモンド・バレット卿との結婚だ。 初対面から冷たい夫、ど田舎の領地、何だか妙に偉そうな老執事……かくして始まったオリヴィアの新婚生活は、信じられない混乱続き! 世間知らずで純朴なオリヴィアと、厳しい現実主義者エドモンドの結婚から始まる恋の行方。そして、バレット家に伝わる「呪い」とは? 【中近世英国風ヒストリカルロマンス。カクヨム・なろうにも掲載中】

悪役令嬢(濡れ衣)は怒ったお兄ちゃんが一番怖い

下菊みこと
恋愛
お兄ちゃん大暴走。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...