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「うちは父が海外に単身赴任中で、母は仕事で家を開けることが多いんです。そのせいか、兄は両親の分まで私を守ろうと頑張ってくれているんです。
昔、私が事故で怪我をしたことがあって、怪我自体は大したこと無かったんですが、それ以来あんな心配性になってしまって。大丈夫だから、といつも言ってるんですけど……」

そうなのだ、兄がああなってしまったのには原因がある。
その原因が私なので、私は兄の心配性に強く出れない。

兄にとって、間宮先輩と折原先輩が、恋愛感情を別にしても大切な友人であることは間違いない。そんな彼らに変な誤解はされたくない。
なんだかんだ言っても、私も兄が好きなのだ。

「兄のシスコンにドン引きされているかもしれませんが、ああなってしまったのには理由があるということはお二人には知っておいてほしくて。あれでもだいぶマシになったんですよ。一時期は一人での外出も禁止されてましたから」

申し訳なく言うと、折原先輩はニヤリと意地悪そうに笑って私の頭をわしゃわしゃかき回した。
「わ! なんですか!」
驚いて思わず声を上げると、遠くから
「折原、てめ、チカに触んな!」
兄の怒声が聞こえてくると、さらに私の頭をわしゃわしゃさせる。
「折原! 聞けよ!」
さらに叫ぶ兄に、おもしれーと楽しそうに笑う折原先輩。
「大丈夫、ちゃんとわかってるよ」間宮先輩が、折原先輩の手を剥がして、手ぐしで髪を整えてくれた。
「間宮先輩も! 何してんすか!」
二人が兄を見て笑っているのを見て、私の心配は杞憂だったことを感じた。

私の怪我が兄のシスコンの原因であることは、幼馴染であるナブはもちろん知っている。というか、兄の変わり様を側で見ていた一人だ。
あの時の事は、兄だけでなく親、ナブ、そして周囲にたくさん迷惑をかけたので、思い出すと少しヘコむ。
横を見ると、ナブが心配そうな顔でこちらを見ていた。
私が大丈夫と言う代わりに笑うと、すこしぎこちなく笑い返してくれた。

 グラウンドでは、菜月くんが兄に近づき、何かを話しかけた。
そのあと菜月くんはこちらを、というかおそらく私の周囲にいる人たちを睨みつけるように一瞥すると、兄の腕を引っ張り連れて行った。瞬間、周囲に冷たい風が吹いたような気がした。

 練習試合が始まっても、折原先輩と間宮先輩は私のそばを離れない。
なぜなんだと頭の中を疑問符が舞っていたが、やがてその理由がわかった。

兄である。
兄は試合中に何か活躍をすると、私とナブにアピールをしてくる。兄がサッカーを始めた頃からいつもそうだ。
もともとは、小さい頃に体が弱くてサッカーができなかったナブへの気遣いだったと思うけど、それがすっかり定着してしまったようだ。
満面の笑みで、褒めて褒めてと手を振ってくる兄を、私を除く三人は愛おしそうな顔で眺めている。

兄のアシストで菜月くんがシュートを決めると、兄は大喜びで菜月くんに抱きついた。
私の周囲は冷気が立ち込め、横を向くことができなかった。

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