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動き出す歯車

潜む悪意

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ある部屋の一室。
そこは窓を閉め切り、光を完全に遮断した部屋だった。唯一の灯りは、簡素な机の上に置かれた蠟燭だけだ。その机の前には1人の男が座っていた。

「ゆ……ない。ゆ…さ…い」

その男は机に向かい作業しながら、仕切りに何かを呟いていた。

「もうすぐだ。もうすぐアイツらに復讐出来る」

男は、そう呟きながら何かを一心に作っていた。

「これが完成すれば、漸く目的が果たせる…」

暫くすると、辺りに微かな甘い香りが漂う。
口元に布を巻いていた男は、僅かな甘い香りに歓喜の声を上げた。

「やった!!やっと、やっとだ!ようやく完成した!」


ーー後は、慎重に機会を窺うだけ。


これで長年の怨みが晴らせると喜んだ瞬間、脳裏にある人物が浮かんだ。その瞬間、男の目が揺らぐ。そうして、先程とは別人の様に何かに怯えた様に震えた。

「あっ…、お、れは…」

男は、自身が今し方作り終えた物を見つめる。それの恐ろしさを知っている男は、自分がそれを作った事が信じられなかった。

「俺は、一体どうしたんだ…?」

それを作っている時の強い憎しみや、それを使う筈だった相手の事も覚えている。現に、今も強い憎しみが溢れてくる。

だが、それはから溢れてくる。

昔から、自分とは別にもう一人の自分が居る様な感覚があった。変な事を言っている自覚はあったが、そんな感覚が小さい頃からあった。今までは何ともなかったが、ある人物に出会ってから男は時折強い憎しみに囚われる様になった。そうして、段々と男の意識がもう一人の自分に侵食され始めた。

「嫌だ…。俺は、あの子の事を憎んでなんか…」

ーー復讐しろ。

「っ…!」

ーー消して許すな。

「あっ…、嫌だ…」

段々と意識が侵食されて行くのが分かる。
己の意識がどんどん遠くに押しやられて行く。

(このままじゃいけない…!)

男は、最後の力を振り絞りそれを手に取り壊すべく大きく振りかぶる。


ーーだが、その手は叩き割る前にピタッと止まる。


「お前は、本当に馬鹿だなぁ」

男は、そう言って手に持つそれをうっとりと見つめる。

「お前はそこで、俺が復讐を遂げるのを見てろ。…嗚呼、長かった。本当に長かった。これで、やっと俺の復讐を遂げられる」

そう言って、ニヤリと嗤ったその顔は狂気に歪んでいた。
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