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過去の記憶

彼の親友

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ーーカランカラン。

「いらっしゃいませ!」
「よっ!レムちゃん、今日も可愛いね。いつもの肉料理頼むよ」
「ギアンさん!こんにちは。直ぐに用意しますから空いてる席に座っていて下さい」

店に入って来たのは、リュシュオンの親友で同期のギアン・ガイファード。二十二歳の彼は金の髪に青い瞳の王子様の様な顔をしている。リュシュオンが騎士団に入ってからの親友で、彼と同様に騎士団トップクラスの実力者だ。

「お待たせしました。鶏肉のオニオン焼きです」
「おっ美味そう!いただきま~す」

口一杯に肉を頬張り美味しそうに食べる彼を見ながら、レムは入り口に視線をチラチラと送る。

「リュシュオン」
「っ!」
「来ないか気にしてるんでしょ~。全く、何でアイツはこんな可愛い子放ったらかしにしとくんだか…」

ギアンさんが呆れた様に呟く。

「レムちゃんはいいの?知ってるだろ?アイツの噂」
「…はい」

リュシュオンの噂。それは彼が色んな女の人と遊んでいると言う噂。彼は将来有望な騎士で、しかもとってもカッコいい。そんな彼に女の人が寄り付かないはずが無く、近付いてきた女の人と付き合い別れを幾度となく繰り返している。

「ほんっと、馬鹿だよなアイツ。こんなに好きでいてくれる子が近くにいるのによ。他の女と軽い気持ちで付き合うんだから」
「リュシュオンが誰と付き合うかは彼の自由ですよ。私は彼が付き合うに値しないってだけで…」


ルールを守り、告白は1日一度だけ。


彼の邪魔をしない。
それを、ずっと守って来た。

どんなに辛く悲しくても、彼の女性関係に口を出さない。八年前から彼の態度は変わらない。冷たく私を突き放す。

「リュシュオンには、私の気持ちは迷惑って事はわかってる…」

(それでも好きなの)

「ん?なんか言った?」
「ギアンさんは一途ですね~って言ったんです」
「なっ!」
「聞きましたよ?ソフィーさんに告白したって」

その途端、ギアンさんの顔が一気に赤くなる。
ソフィーさんとは、私のニ歳年上の洋服店で働く女性のことだ。彼女は昔、私が押し倒したあの時の女性だ。あの後、彼女とは仲直りし今では姉の様に慕っている。

「それで、どうだったんですか?」

(まぁ、結果はわかってるけど)

「あー。なんだ?その…ソフィーと付き合う事になった」

襟足を触りながら、何処か照れ臭そうに告げる。

「おめでとうございます!」
「ありがとな。レムちゃんが機会を作ってくれなかったら、俺はソフィーに告白すら出来なかったよ」
「大したことしてないですよ。ギアンさんが勇気を出したから」

ギアンさんがソフィーさんを好きな様にソフィーさんもギアンさんが好きだった。接点のない二人のために、私の知り合いとして紹介しただけだ。その後、ニ人は順調に関係を築いていったのだ。

「俺も、レムちゃんに協力したいんだが…」

ギアンさんもリュシュオンの私に対する態度を知っているため、困っていた。

「大丈夫ですよ!私は、今まで通りリュシュオンに好きになって貰える様に努力し続けるだけですから!」

食べ終わった彼の背中を押す。

「今からソフィーさんの所に寄るんですよね?早くしないと休憩時間が無くなっちゃいますよ!ほら、早く行ってください!」
「…分かったよ。これ代金な。美味しかったよ」
「また来て下さい!」

彼女の元に嬉しそうに向かう彼を、私は笑顔で見送る。

「レムちゃん~。こっちの注文お願いするわ」
「はーい!」

それから私は、店の中を忙しなく駆け回った。
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