上 下
5 / 38
過去の記憶

ルールと八年の月日

しおりを挟む
その後、私は女の子の家に行ってきちんと謝った。
彼女は、自分を突き飛ばして怪我をさせた私を笑って許してくれた。

『レムちゃんが態とじゃ無いって事は分かってるから。だって私を突き飛ばしたレムちゃん、すっごく傷付いた顔してたから』

彼女の膝の怪我も、殆ど目立たなくなっていた。
もう一度謝り、次にリュシュオンの家に行く。

(リュシュオン会ってくれるかな…)

不安になりながらも、家に着き戸を叩く。

「は~い。あら?レムちゃんどうしたの?」

中から、リュシュオンのお母さんのモーラさんが出てくる。

「あのっ!リュシュオン…居ますか?」
「あの子なら今部屋にいるわ。よかったら上がって頂戴」
「お邪魔します」

家に入ると、美味しそうなシチューの匂いがした。

「何かあったの?あの子、帰って来てから様子が変で…」
「実は…」

私は、今日あった事を全て話す。

自分の番がリュシュオンだと言う事。
嫉妬して、一緒にいた女の子を突き飛ばし怪我をさせた事。
リュシュオンに言われた事。
両親に言われた事。
彼女に謝った事。
自分の想いを。

「そう、そんな事があったのね」
「私、リュシュオンが好きです。番だからってだけじゃありません。確かに、あの時は番だからって気持ちが強かったけど、私はリュシュオンの優しい所とか真面目な性格とか、ちゃんとリュシュオン自身が好きです」

番だからリュシュオンが好き。

そう思われたくなかった。
ちゃんと私自身が彼を好きだと言う事を、彼の母親に知っていて欲しかった。

「正直に話してくれてありがとう。あの子もこんな可愛い子に此処まで好きになって貰えるなんて幸せね」
「そんな事ないです。私、リュシュオンを怒らせちゃったし…嫌われてるかも」
「そうだとしても諦めないんでしょう?」
「はい!」

モーラさんは、そんな私に優しく笑いかける。

「後は、当人同士が話し合って決めるべきね。部屋にいるから話し合って来てね」

そのまま料理を再開したモーラさんにお礼を言い、彼の部屋に向かった。


ーートントン。


「…リュシュオン。さっきは、急に番だなんて言ってごめんなさい。あの子にもちゃんと謝って来たよ」

部屋からは返事が無い。
それでも話し続ける。

「私、今日初めてリュシュオンを番だと認識したの。私…リュシュオンが好き。でもね、番だからリュシュオンが好きって訳じゃ無いの。本当は、ずっと前からリュシュオンが好きだった」

いつからだろう。
頼りになる兄の様な彼を、異性として意識し始めたのは…。

「だから…私と付き合って下さいっ!」

緊張で耳も尻尾もピンっと立ってるのが分かる。

「……俺は、レムをそんな風に見た事一度もない」

扉越しに彼が答える。

「今まで妹みたいにしか思った事ないし。それにレムも、今までそんな素振り見せなかったじゃないか」
「それは…」

(リュシュオンとの関係が壊れるのが怖かったから)

「急に言われても困る。大体、俺好きな子が居るし」
「っ!…それでも。それでもリュシュオンが好き!私、リュシュオンに好きになって貰える様に頑張るから」
「…勝手にしたら。でもいくつかルールを守れよ」
「ルール?」


ーーリュシュオンの好きになった子に手を出さない事。

ーーリュシュオンを束縛しない事。

ーー告白は1日一度だけ。

ーーリュシュオンの邪魔はしない事。


「これが守れないなら、俺に近付かないでくれ」
「わかった!ちゃんと守る」

そうして、次の日から私はリュシュオンに好かれる様に努力した。可愛く見える様に、今まで以上に外見や服装に気を遣い、苦手な料理も練習した。彼が成人し騎士団に入隊し会う時間が減ると、少しでも彼に会うために苦手な早起きをして僅かな時間を過ごす。

辛くないと言ったら嘘になる。
それでも、リュシュオンに会えるだけでレムは幸せだった。


そんな事を繰り返し、気付いたら八年もの年月が経っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

貴方誰ですか?〜婚約者が10年ぶりに帰ってきました〜

なーさ
恋愛
侯爵令嬢のアーニャ。だが彼女ももう23歳。結婚適齢期も過ぎた彼女だが婚約者がいた。その名も伯爵令息のナトリ。彼が16歳、アーニャが13歳のあの日。戦争に行ってから10年。戦争に行ったまま帰ってこない。毎月送ると言っていた手紙も旅立ってから送られてくることはないし相手の家からも、もう忘れていいと言われている。もう潮時だろうと婚約破棄し、各家族円満の婚約解消。そして王宮で働き出したアーニャ。一年後ナトリは英雄となり帰ってくる。しかしアーニャはナトリのことを忘れてしまっている…!

子供の言い分 大人の領分

ひおむし
恋愛
第二王子は、苛立っていた。身分を超えて絆を結んだ、元平民の子爵令嬢を苛む悪辣な婚約者に。気持ちを同じくする宰相子息、騎士団長子息は、ともに正義の鉄槌をくださんと立ち上がろうーーーとしたら、何故か即効で生徒指導室に放り込まれた。 「はーい、全員揃ってるかなー」 王道婚約破棄VSダウナー系教師。 いつも学園モノの婚約破棄見るたびに『いや教師何やってんの、学校なのに』と思っていた作者の鬱憤をつめた作品です。

婚約破棄のお返しはお礼の手紙で

ルー
恋愛
十五歳の時から婚約していた婚約者の隣国の王子パトリクスに謂れのない罪で突然婚約破棄されてしまったレイナ(侯爵令嬢)は後日国に戻った後パトリクスにあててえ手紙を書く。 その手紙を読んだ王子は酷く後悔することになる。

今更何の御用でしょう? ウザいので止めて下さいませんか?

ノアにゃん
恋愛
私は3年前に幼馴染の王子に告白して「馬鹿じゃないの?」と最低な一瞬で振られた侯爵令嬢 その3年前に私を振った王子がいきなりベタベタし始めた はっきり言ってウザい、しつこい、キモい、、、 王子には言いませんよ?不敬罪になりますもの。 そして私は知りませんでした。これが1,000年前の再来だという事を…………。 ※ 8/ 9 HOTランキング 2位 ありがとう御座います‼ ※ 8/ 9 HOTランキング  1位 ありがとう御座います‼ ※過去最高 154,000ポイント  ありがとう御座います‼

元カノが復縁したそうにこちらを見ているので、彼の幸せのために身を引こうとしたら意外と溺愛されていました

おりの まるる
恋愛
カーネリアは、大好きな魔法師団の副師団長であるリオンへ告白すること2回、元カノが忘れられないと振られること2回、玉砕覚悟で3回目の告白をした。 3回目の告白の返事は「友達としてなら付き合ってもいい」と言われ3年の月日を過ごした。 もう付き合うとかできないかもと諦めかけた時、ついに付き合うことがてきるように。 喜んだのもつかの間、初めてのデートで、彼を以前捨てた恋人アイオラが再びリオンの前に訪れて……。 大好きな彼の幸せを願って、身を引こうとするのだが。

愛しの貴方にサヨナラのキスを

百川凛
恋愛
王立学園に通う伯爵令嬢シャロンは、王太子の側近候補で騎士を目指すラルストン侯爵家の次男、テオドールと婚約している。 良い関係を築いてきた2人だが、ある1人の男爵令嬢によりその関係は崩れてしまう。王太子やその側近候補たちが、その男爵令嬢に心惹かれてしまったのだ。 愛する婚約者から婚約破棄を告げられる日。想いを断ち切るため最後に一度だけテオドールの唇にキスをする──と、彼はバタリと倒れてしまった。 後に、王太子をはじめ数人の男子生徒に魅了魔法がかけられている事が判明する。 テオドールは魅了にかかってしまった自分を悔い、必死にシャロンの愛と信用を取り戻そうとするが……。

処理中です...