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過去の記憶
私の番
しおりを挟む私の名はレム・ファート。
サウスペドラ王国にある、クルシュドという小さな街で生まれた犬獣人だ。茶色い耳に、同色の茶色い肩まであるふわふとした髪。瞳は母親譲りの黒で、茶色い尻尾は父親と同じ位フサフサの艶々で私の一番の自慢だ。
いつもの様に早起きして一生懸命身嗜みを完璧に整えたレムは、朝食を軽く取って直ぐに家を出る。
「行って来ま~す!」
「遅くならないうちに帰って来るのよ」
「気を付けてな」
優しい両親の声を背に向かう場所は、ただ一つ。
「リュシュオンおはようっ!好きです!付き合ってください!」
目的の家の前で待つ事、数分。
出て来た人物に、レムは挨拶と共に日常化した告白をする。
「何度も言ってるだろ。俺は、お前とは付き合わない」
そう冷たい声で言うこの男性はリュシュオン・メイル。炎の様な赤い短髪にエメラルドの瞳をした背の高いこのイケメンは、私の幼馴染で私の番だ。
「そっか…。それより、今から騎士団の仕事でしょ?私も仕事だから途中まで一緒に行っていい?」
「……好きにしろ」
そう言って歩き出した彼に置いて行かれないよう、レムは慌てて付いていく。
今年二十二歳の彼は、その若さで既に騎士団でもトップクラスの実力を持つ。毎日決まった時間に家を出る彼と少しでも一緒にいる為に、自身の仕事場までのわずかな距離を毎日一緒に歩く。
「それじゃあ、今日もお仕事頑張ってね!」
「……」
私の声に振り向きもせず行ってしまった彼の後ろ姿を暫く見つめた後、ようやく自身の仕事場に向かう。
ーーカラン、カラン。
「おはようございます!」
「レムおはよう。早速で悪いんだけど、釜戸で焼いてるパンの焼き具合を見て頂戴っ!」
「わかりました!」
此処は、街にある食堂『黒兎の帽子亭』。
今年で18歳となった私は、此処で二年程前から働いている。気のいい美人な女将さんは、レムにとって第二のお母さんの様な存在でとても好きだ。そんな女将さんの旦那さんは、大きくて無口な人だが女将さんの事が大好きだ。
以前、女将さんの事を揶揄って口説いていた酔っ払い客を、肉包丁片手に凄い剣幕で追いかけていた。
以降、冗談でも女将さんを揶揄う人は居なくなった。
「いらっしゃいませ!」
「レムちゃん、いつもの頼むよ」
「わかりました!」
「レムちゃん俺も!」
「セバさんはダメです!奥さんから、セバさんにはヘルシーな野菜料理を出す様に言われてます」
「そんなっ!一口だけでいいから肉をくれ!」
「ダメです。奥さんに言いつけますよ?」
「それだけは勘弁してくれっ!」
周囲に居る常連客からの笑い声が響く中、お客の皆んなと一緒にレムも笑う。
私は、この職場が大好きだ。
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