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第2章

No.240

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その場所は、一定の道順を辿らないと辿り着かない様に特殊な魔法が掛けられた部屋だった。その道順を知るのは、歴代サザーランド当主とその妻。それに、執事長とメイド長の僅か4名だけだった。

後処理に奔走する使用人達を横目に、コツコツと足音を立ててリディアは歩く。広大な公爵家の屋敷内は、迷いそうな程に広い。時折、やって来る主人の部下である騎士が迷子になる程に。
だが、訳あって子供の頃から住んでおり現在はメイド長として屋敷を管理しているリディアは、迷いの無い足取りで進む。
時折、同じ場所を歩くリディアに疑問を持つ者はいない。例の部屋に向かう為の道順に施されている特殊な魔法。それによって、誰も疑問に思わないのだ。

そうして、漸くたどり着いた真琴のいる部屋。
中からは、楽しげな真琴と精霊達の声が聞こえて来る。

(よかった。特に問題は無いみたいね)

無事だと分かってはいたが、改めて楽しげな真琴の声を聞いてホッと身体の力を抜いて安心する。その事実に、リディアはクスッと笑う。

(アルフォンス様に過保護だ何だの言って、結局私も同じって事ね…)

もしも、この場にアルフォンスがいたら「ほら見た事か」と言われただろう。しかし、この場にアルフォンスは居ない。その為、この事はリディアの心の中に永遠に秘められる事となるのだった。

ーートントン。

「マコ様、リディアです」

リディアがそう言うと、部屋の扉が中から開かれる。そうして、騎士服に身を包んだエルザが現れる。

「リディア様。お疲れ様です」
「エルザ様、お疲れ様です。例の件は、全て無事に終わりました」
「そうですか。それは良かったです」

エルザに報告をしていると、真琴がリディアに駆け寄って来た。

「リディアさんっ!無事ですか!?何処も怪我して無いですか!?」

先程聞こえて来た楽しげな声とは全然違う、今にも泣き出しそうな震える声で真琴はリディアの無事を確かめる。

「えぇ、大丈夫です。怪我の一つもしてませんわ」
「よかった。………あの、アルフォンスさんは?無事ですよね?」
「勿論です。書斎でピンピンしてますよ。逆に、安全なこの部屋にいるマコ様の事を酷く心配をしていました」

そう言いながら、リディアは部屋の中を見渡す。

「マコ様、精霊様達は何処にいらっしゃるのですか?何処にも姿が見えませんが…」
「あれ?さっきまで、そこに居たんですけど…」

不思議そうに部屋を見渡す真琴に、今まで黙っていたエルザが話しかける。

「マコ様。精霊様達ならリディア様とマコ様が話している間に、何やら楽しげに窓から外へと出て行かれました」
「そうですか。……一体、何処に言ったんだろう?」

今まで真琴の側から離れた事のない精霊達の珍しい行動に、真琴達は不思議そうに首を傾げるのだった。











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