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第2章

No.195

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その日は、起きた時から何だか朝から妙に心が騒ついていた。着替えを手伝ってもらっている時も、朝食を食べている現在も、気もそぞろになっていた。

ーーカチャカチャ

「………」
「………」

食器のぶつかる音だけが、辺りに響く。

ーーカチャカチャ

「………」
「………」

ーーカチャカチャ……カチャ

ついには、真琴の食事の手が止まる。それに本人は気が付いていない様で、ボ~っと目の前の皿の上の料理を見つめている。そんな真琴に、遂にアルフォンスが耐え切れなくなった。

「………」
「……真琴」
「………へっ?」

突然、アルフォンスが真琴に声をかける。しかし、気もそぞろだった真琴は、少し間を開けてから間抜けな声を出す。

「一体、どうしたんだ?朝から、心ここにあらずの様だが…。何かあったのか?」

その言葉に、如何に自分が気もそぞろだったのかを知った。

(他の人から見ても、そんなに分かりやすい感じだったなんて…)

これでは、自分から他者に「心配してください」と言っている様では無いか。

「すみません、何でもないです」

真琴はすぐさまそう言ったが、アルフォンスは疑いの眼差しを向け続ける。この時、ステインがこの場に居れば、無理に聞き出そうとしなかっただろう。それどころか、アルフォンスに止めろと注意した筈だ。

しかし、悲しい事に今日はステインはこの場に居ない。何か用事があるらしく、料理長の作ったサンドイッチを持って朝早くから出かけているらしいのだ。

その為、この場に真琴の味方はいない。

「本当に、なんでも無いです」
「………」
「………あの、アルフォンスさん?」
「………」

何を言っても、アルフォンスは疑いの眼差しをやめない。むしろ、真琴が大丈夫と言う度に部屋の空気が重くなるのを感じる。

「えっ…と……」
「………俺には、話せない様な事なのか?まさか、他に好きな男が……」
「違いますっ!そんな事はあり得ません!」

アルフォンスの驚きの言葉を、真琴は即座に否定する。

「私は、アルフォンスさん一筋です!こんなにカッコよくて優しい素敵な彼氏がいるのに、他の男の人を好きになるなんてあり得ません!私が好きなのは、アルフォンスさんただ一人ですっ…!」

そこまで言って、ハッと我に帰る。

(私、今何を…)

そこで、頬を赤く染めとても嬉しそうにアルフォンスや、ニヤニヤとこちらを見る使用人の皆んなの顔を見て、一瞬にして「ボンッ!」と音を立てて顔が赤くなるのが分かった。今、真琴は食堂に居る皆の前で大声で愛の告白をしたのだ。

アルフォンスが、熱に浮かされた目で真琴を見つめる。

「そこまで熱烈な愛を告白されるとは思わなかった」

そう言った声は、とても甘ったるい声だった。

「いや、これは、その…!」
「俺も、君以上に愛らしく素晴らしい女性を知らない。俺の身も心も全て君の物だ。俺は、君と言う甘美な箱庭に囚われた幸福な赤い竜だ」
「「「キャーー!!」」」

アルフォンスの胸焼けする様な言葉に、配膳をしていた女性達が黄色い悲鳴を上げる。まさか、主人のこんな台詞が聞ける日が来るとは思わなかったのだ。

真琴は真琴で、人前で告白した事やアルフォンスに言われた台詞に、恥ずかしくて死にそうになっていたのだった。
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