上 下
187 / 244
第2章

No.186

しおりを挟む
時刻はお昼少し前。
その時間帯の王都は、人々の営みで賑わっていた。

「いらっしゃい、いらっしゃい!」
「今日のオススメはチーコだよ!」
「今朝、オーディナ領で取れたばかりの新鮮な魚だよ!」

大通りでは、出店の店主達が明るい声で客を呼び込む。

「あっ、あのアクセサリー可愛い!」
「あら?チーコの実、すごく美味しそう」
「うわっ!この魚、ピッチポじゃないか!」

街行く住民達は、思い思いに気に入った店を覗く。そんな賑わいを見せる王都でも、一つ裏通りに入ると雰囲気はガラリと変わる。

表通りと比べて、裏通りは建物の影であまり陽が当たらず薄暗い。その場所に居る者達も、何処と無く近寄り難い者達が多い。その為、住民達は余程の事がない限り近付かない。そんな裏通りから表通りを見つめる3人の黒いローブの男達。

「………呑気なものですね。自分達が襲われるなんて微塵も思ってもいない顔をしている」
「しょうがないですよ。この国の連中は、平和ボケした奴ばかりですからね」

そう言いながら、街行く住民に冷たい視線を送る二人の男に、リーダー格の男がそんな二人に声をかける。

「我々と、この国の者達とはは生まれた時から何もかもが違う。だから、何を言っても無駄だ。………それより、我々は仕事をするだけだ」

そう言って、男は明るく笑い合う住人達を感情のこもらない冷たい目で見る。

「相手は、『血濡れの火竜』だ。油断は出来ない。しかも、ターゲットは奴の番だ。ターゲットは、以前も誘拐されたと聞く。その為、身辺の警備は厳重だろう」
「それでは、どうするんですか?唯でさえ、相手からの催促が煩いのに。これ以上、時間がかかったら面倒な事になりますよ」

部下の一人が、リーダー格の男に問う。それに対して、男は口角を上げる。

「ーーだから、目の前の者達を使う。奴は、ちょっとした事では番いの側を決して離れないだろう。ならば、番から離れるしかない状況を作ればいい」
「ですが、どうやって…?」

その言葉に、部下の二人を見る。

「もしも、王都中で複数の爆発があったらどうなると思う?住民達はパニックになり、大混乱が起こるだろう。ーーそうすれば、奴も動かざる得ない」

そう、奴が番の側から離れないのであれば、騎士団長として動かざる得ない状況を作ればいいだけだ。

「奴が居なければ、後はどうとでもなる。………行くぞ」

そう言って、表通りに背を向けて歩き出した男の後を部下の二人も付いて行ったのだった。
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

私の上司は竜人で私はその番でした。

銀牙狼
恋愛
2021年4月、私は仙台HBG(星川バンクグループ)銀行に就職。優しい先輩にイケメン上司、頑張るぞと張り切っていたのにまさかこんなことになるなんて。

美しき妖獣の花嫁となった

下菊みこと
恋愛
孤独な美しき妖獣と、孤独な男爵家の娘の異類婚姻譚。 愛をお互いに与え合う二人の行く末は。 小説家になろう様でも投稿しております。

竜帝と番ではない妃

ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。 別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。 そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・ ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

【本編完結】番って便利な言葉ね

朝山みどり
恋愛
番だと言われて異世界に召喚されたわたしは、番との永遠の愛に胸躍らせたが、番は迎えに来なかった。 召喚者が持つ能力もなく。番の家も冷たかった。 しかし、能力があることが分かり、わたしは一人で生きて行こうと思った・・・・ 本編完結しましたが、ときおり番外編をあげます。 ぜひ読んで下さい。 「第17回恋愛小説大賞」 で奨励賞をいただきました。 ありがとうございます 短編から長編へ変更しました。 62話で完結しました。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

くたばれ番

あいうえお
恋愛
17歳の少女「あかり」は突然異世界に召喚された上に、竜帝陛下の番認定されてしまう。 「元の世界に返して……!」あかりの悲痛な叫びは周りには届かない。 これはあかりが元の世界に帰ろうと精一杯頑張るお話。 ──────────────────────── 主人公は精神的に少し幼いところがございますが成長を楽しんでいただきたいです 不定期更新

処理中です...