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第2章

No.145

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騎士団執務室。
その部屋の主人であるアルフォンスが不在の今、副団長であるハロルドが上司の代わりに必死に書類仕事を行なっていた。

「ゔ~~」
「ハロルド様。唸っていても、目の前の書類は無くなりませんよ」

側の机で書類仕事をしていた書記官が、ハロルドを見ずに言う。その手は、物凄い速さで書類を捌く。

「わ、わかっている!」

そう言って手を動かすが、直ぐに手が止まる。

「手が止まってますよ」
「ぐっ…!」

ハロルドは分かっている。
自身が書類仕事などの頭を使う事が得意ではない事を。

(だがっ、団長の留守を任されたのだ!完璧に業務を全うせねば!)

真面目なハロルド。
気合は十分。だが、書類は減らない。

ーートントン。

「入れ」
「失礼します」

そう言って、騎士が入って来る。
ハロルドの記憶が正しければ、その騎士は半年前から国境警備に当たっていた筈だ。

「どうした?お前は、国境警備に当たっていた筈だが…」
「はいっ!私は、国境警備隊のジンと申します。ご報告があります!今朝、国境にて不審人物を捕らえました!」
「何…?」

その報告を聞いて、その目を鋭くする。
そうして、無言で続きを促す。

「人数は1人。国境にて、手続きも無しに入国しようとしていた所を捕らえました」
「その者は、何か喋ったか?」
「いえ…。ですが、ずっと『精霊の愛し子に会わせろ』と言い続けています」
「『精霊の愛し子』?」
「…はい。意味が分からないのですが、そればかりを言い続けているんです。それ以外は、何も喋らなくて…」
「そうか…」

(まさか、ファウアームの者か…?)

そうだとしたら、些か軽率だ。
たった1人で不法入国しようとするなと、愚かでしか無い。ファウアームに抗議する口実を与える様な物だ。

(流石に、そこまで愚かでは無いだろう…)

「報告ご苦労。その者は…?」
「今は、国境からこの王宮の地下に投獄しています」
「分かった、後は任せろ。お前は引き続き、国境警備に勤めてくれ」
「はっ!」

そう言って、騎士は敬礼をして部屋を出て行く。

「すまない、しばらく席を外す」
「わかりました」

書記官にそう伝えて、直ぐに部屋を出る。
向かうは、国王の所だ。

「ったく。何故こうも問題が次から次へと起こるんだ…」

イラつきながらも早足に廊下を進む。
その時のハロルドの顔は、普段よりも更に恐ろしい形相だった。

「ひっ!」
「うわぁっ!!」

何故だか、すれ違う侍女や騎士たちから悲鳴が上がる。

ーーその日、王宮に恐ろしい魔物が現れたと言う噂が流れたのだった。


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