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第1章

No.82

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「ルイザ!!」
「ルー!!」
 
慌ただしい足音と共に、アルフォンスとハロルドが救護室に入って来た。

「団…ちょ、兄さ……」

2人の姿を見て、ルイザの目から涙が滲む。

「申しわ……け、あり…ま…せ…」
「謝るな。ルイザ、よく報告に戻った。お前のお陰で、こんなにも早く事件が発覚した。よくやった」
「っ!」

アルフォンスの言葉に、耐えていた涙が零れ落ちる。

「傷が痛むと思うが、何があったのか詳しく抑えてくれ」
「は…い」

その後、痛む傷に耐えながら途切れ途切れに何があったかをアルフォンスとハロルドに伝える。

***

「魔法を使う帽子の男に、スキンヘッドの男…。ルイザ、本当にスキンヘッドの男からは魔力を感じ無かったんだな?」

アルフォンスの問いに、頷く。

「ルイザ、お前に重傷を負わせたナイフ。あれには、竜殺しの呪いがかかっていた」

ーー竜殺しの呪い。

それは、身体能力や魔力の高い竜人を殺す為の呪いだ。だが、呪いなど簡単にかけられるものではない。

そもそも、魔法と呪いは違う。

魔法とは、この世界にいるとされる精霊達に己の魔力と引き換えに超常的な現象を起こす事をいう。己自身の魔力量以上の事は出来ない。

だが、呪いは違う。

呪いのろいとは呪うまじなうとも読む。つまり、想いや願いの力だ。その者の想いうらみの強さで影響力ちからは変わる。
そもそも、そんな簡単に誰かを呪ったり物に呪いの効果を持たせる事など出来ない。

呪いとは、何年も何年も心の底から憎んで憎んで憎しみ抜いて漸く呪えるものなのだ。だが、何かに呪いをかけた代償に己の命を失う。

普通、どんなに恨んだり憎んだりしていても時と共に怒りや憎しみは風化してしまうものだ。
なのに、呪いの効果を持ったナイフを作れたと言う事は、相手はそれ程までに竜人を憎んでいるという事だ。

「特定の相手を指定した呪いではない事から、呪いをかけた相手は恐らく蛇獣人だ」

執念深い蛇らしい。
ルイザは、アルフォンスの話を聞いて納得した。
過去の歴史を振り返っても、呪いをかけた者の多くは蛇獣人だ。

ーー蛇は、恨みを消して忘れない。

そう言われる程に、何年掛かっても復習をやり遂げる。

「呪いは、解術師に解いてもらう。だから、そんな傷、直ぐに治る」

あとは任せろと言って、アルフォンスが部屋を出て行く。

「ルー」
「兄さ…」

ハロルドが同じ茶色の瞳を心配そうに揺らす。

「痛くないか?もう少し頑張れよ?団長も言ってたように、直ぐに治るからな」
「う…ん」

兄の言葉に頷くと、優しく頭を撫でられる。
そして、自身と同じ緑の前髪を優しく横に避けてやるとハロルドはルイザに笑った。

「俺は、これから団長と犯人を捕まえに行く。何、団長の番は必ず団長が無事に連れ帰る。だから、安心して休め」

その兄の言葉に、漸く身体から力を抜く。

「じゃあ、行ってくるな」

そう言って、部屋を出たハロルド。
その顔は、怒りに満ちていた。








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