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第1章

No.74

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バンラートが、灰色の短い髪を逆立てて怒ったドランに引っ張られて執務室を出て行った後。アルフォンスは、滞っていた書類を処理し始めた。
書記官は、休憩中で席を外している為にアルフォンス1人で頑張らねばならなかった。


***


仕事を始めてから、30分程経った頃。

「ーーっ!ーーてよ!」
「ーーめーー!とまーーっ!」

(……何だ?)

いきなり、外から騒がしい声が聞こえてきた。
何やら、何かを叫んでいる何処かの女性を部下の騎士が引き止めようとしているらしい。

「一体、何処の常識の無い奴だ」

此処は、この国を守る騎士達のいる場所だ。女性の騎士もいるが、圧倒的に男が多い。そんな場所に、女性が来るなんて非常識だ。例え、誰かの身内だとしても女性1人で来るなどあり得ない。

そんな、常識知らずの貴族の令嬢などこのドラゴニール王国にはーー。

(いや、1人いるな…)

アルフォンスの脳に、1人だけ浮かび上がる。同時に、覚えのある強烈な香水の匂いが漂って来た。

「………身の程知らずが」

アルフォンスが、必死に殺意を押し殺していたというのに。こちらの努力を嘲笑うかのように、己からのこのこやって来るとは。

「ーーそれ程、命が惜しく無いか」

アルフォンスが、小さく呟いた瞬間。

ーーバンッ!

「アルフォンス様っ!!」

勢いよく扉を開けて、ダンブレア男爵令嬢マリーが耳障りな甲高い声を上げながら入って来た。背後には、申し訳ない顔の騎士がいる。

「………一体、何の用です?」
「嘘ですよね!?アルフォンス様が、私以外の女を抱いたなんてっ!!」

マリーは、その顔を嫉妬で歪ませてアルフォンスに尋ねる。

確かに、アルフォンスは真琴を抱いていない。
だがーー。

「ーー仮に、私が女性を抱いても貴女には関係ありません」
「なっ!?」
「私と貴女の関係は、全くの赤の他人です。家族でも無ければ、恋人ですら無い。そんな貴女が、何故私のプライベートに口を出すんですか」

絶句するマリーに、今までの鬱憤をぶつける。

「そもそも、女性ーー況してや、未婚である貴族のご令嬢が護衛や従者も付けずに1人でこの様な場所に来るなど非常識です。貴女は一体、ダンブレア男爵家で何を学んで来たんですか」

冷たい目でマリーを見ると、彼女は青い顔で言い訳を始める。

「そっ、それは!!私は元々平民で……」
「それが?貴女がダンブレア男爵家の養女となったのは1年も前の事です。その間、家庭教師から何を学んだんですか?貴女が学んだのは、ドレスや宝石を買い漁る事ですか?」

アルフォンスのキツイ言葉に、俯きマリーは黙りこくる。

「………どうやら、話が無い様ですね。おい、このご令嬢を外までお送りしろ」
「はっ!」

マリーは、半ば引きずられる様に騎士に連れられ出て行った。

「はぁ~」

それを見届けたアルフォンスは、どっと押し寄せて来た疲労感に身体を椅子に預けて溜息を吐いた。

ーー問題は山積みだ。
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