75 / 244
第1章
No.74
しおりを挟む
バンラートが、灰色の短い髪を逆立てて怒ったドランに引っ張られて執務室を出て行った後。アルフォンスは、滞っていた書類を処理し始めた。
書記官は、休憩中で席を外している為にアルフォンス1人で頑張らねばならなかった。
***
仕事を始めてから、30分程経った頃。
「ーーっ!ーーてよ!」
「ーーめーー!とまーーっ!」
(……何だ?)
いきなり、外から騒がしい声が聞こえてきた。
何やら、何かを叫んでいる何処かの女性を部下の騎士が引き止めようとしているらしい。
「一体、何処の常識の無い奴だ」
此処は、この国を守る騎士達のいる場所だ。女性の騎士もいるが、圧倒的に男が多い。そんな場所に、女性が来るなんて非常識だ。例え、誰かの身内だとしても女性1人で来るなどあり得ない。
そんな、常識知らずの貴族の令嬢などこのドラゴニール王国にはーー。
(いや、1人いるな…)
アルフォンスの脳に、1人だけ浮かび上がる。同時に、覚えのある強烈な香水の匂いが漂って来た。
「………身の程知らずが」
アルフォンスが、必死に殺意を押し殺していたというのに。こちらの努力を嘲笑うかのように、己からのこのこやって来るとは。
「ーーそれ程、命が惜しく無いか」
アルフォンスが、小さく呟いた瞬間。
ーーバンッ!
「アルフォンス様っ!!」
勢いよく扉を開けて、ダンブレア男爵令嬢マリーが耳障りな甲高い声を上げながら入って来た。背後には、申し訳ない顔の騎士がいる。
「………一体、何の用です?」
「嘘ですよね!?アルフォンス様が、私以外の女を抱いたなんてっ!!」
マリーは、その顔を嫉妬で歪ませてアルフォンスに尋ねる。
確かに、アルフォンスは真琴を抱いていない。
だがーー。
「ーー仮に、私が女性を抱いても貴女には関係ありません」
「なっ!?」
「私と貴女の関係は、全くの赤の他人です。家族でも無ければ、恋人ですら無い。そんな貴女が、何故私のプライベートに口を出すんですか」
絶句するマリーに、今までの鬱憤をぶつける。
「そもそも、女性ーー況してや、未婚である貴族のご令嬢が護衛や従者も付けずに1人でこの様な場所に来るなど非常識です。貴女は一体、ダンブレア男爵家で何を学んで来たんですか」
冷たい目でマリーを見ると、彼女は青い顔で言い訳を始める。
「そっ、それは!!私は元々平民で……」
「それが?貴女がダンブレア男爵家の養女となったのは1年も前の事です。その間、家庭教師から何を学んだんですか?貴女が学んだのは、ドレスや宝石を買い漁る事ですか?」
アルフォンスのキツイ言葉に、俯きマリーは黙りこくる。
「………どうやら、話が無い様ですね。おい、このご令嬢を外までお送りしろ」
「はっ!」
マリーは、半ば引きずられる様に騎士に連れられ出て行った。
「はぁ~」
それを見届けたアルフォンスは、どっと押し寄せて来た疲労感に身体を椅子に預けて溜息を吐いた。
ーー問題は山積みだ。
書記官は、休憩中で席を外している為にアルフォンス1人で頑張らねばならなかった。
***
仕事を始めてから、30分程経った頃。
「ーーっ!ーーてよ!」
「ーーめーー!とまーーっ!」
(……何だ?)
いきなり、外から騒がしい声が聞こえてきた。
何やら、何かを叫んでいる何処かの女性を部下の騎士が引き止めようとしているらしい。
「一体、何処の常識の無い奴だ」
此処は、この国を守る騎士達のいる場所だ。女性の騎士もいるが、圧倒的に男が多い。そんな場所に、女性が来るなんて非常識だ。例え、誰かの身内だとしても女性1人で来るなどあり得ない。
そんな、常識知らずの貴族の令嬢などこのドラゴニール王国にはーー。
(いや、1人いるな…)
アルフォンスの脳に、1人だけ浮かび上がる。同時に、覚えのある強烈な香水の匂いが漂って来た。
「………身の程知らずが」
アルフォンスが、必死に殺意を押し殺していたというのに。こちらの努力を嘲笑うかのように、己からのこのこやって来るとは。
「ーーそれ程、命が惜しく無いか」
アルフォンスが、小さく呟いた瞬間。
ーーバンッ!
「アルフォンス様っ!!」
勢いよく扉を開けて、ダンブレア男爵令嬢マリーが耳障りな甲高い声を上げながら入って来た。背後には、申し訳ない顔の騎士がいる。
「………一体、何の用です?」
「嘘ですよね!?アルフォンス様が、私以外の女を抱いたなんてっ!!」
マリーは、その顔を嫉妬で歪ませてアルフォンスに尋ねる。
確かに、アルフォンスは真琴を抱いていない。
だがーー。
「ーー仮に、私が女性を抱いても貴女には関係ありません」
「なっ!?」
「私と貴女の関係は、全くの赤の他人です。家族でも無ければ、恋人ですら無い。そんな貴女が、何故私のプライベートに口を出すんですか」
絶句するマリーに、今までの鬱憤をぶつける。
「そもそも、女性ーー況してや、未婚である貴族のご令嬢が護衛や従者も付けずに1人でこの様な場所に来るなど非常識です。貴女は一体、ダンブレア男爵家で何を学んで来たんですか」
冷たい目でマリーを見ると、彼女は青い顔で言い訳を始める。
「そっ、それは!!私は元々平民で……」
「それが?貴女がダンブレア男爵家の養女となったのは1年も前の事です。その間、家庭教師から何を学んだんですか?貴女が学んだのは、ドレスや宝石を買い漁る事ですか?」
アルフォンスのキツイ言葉に、俯きマリーは黙りこくる。
「………どうやら、話が無い様ですね。おい、このご令嬢を外までお送りしろ」
「はっ!」
マリーは、半ば引きずられる様に騎士に連れられ出て行った。
「はぁ~」
それを見届けたアルフォンスは、どっと押し寄せて来た疲労感に身体を椅子に預けて溜息を吐いた。
ーー問題は山積みだ。
0
お気に入りに追加
6,591
あなたにおすすめの小説
愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
竜帝と番ではない妃
ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。
別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。
そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・
ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!
竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える
たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー
その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。
そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!
【本編完結】番って便利な言葉ね
朝山みどり
恋愛
番だと言われて異世界に召喚されたわたしは、番との永遠の愛に胸躍らせたが、番は迎えに来なかった。
召喚者が持つ能力もなく。番の家も冷たかった。
しかし、能力があることが分かり、わたしは一人で生きて行こうと思った・・・・
本編完結しましたが、ときおり番外編をあげます。
ぜひ読んで下さい。
「第17回恋愛小説大賞」 で奨励賞をいただきました。 ありがとうございます
短編から長編へ変更しました。
62話で完結しました。
くたばれ番
あいうえお
恋愛
17歳の少女「あかり」は突然異世界に召喚された上に、竜帝陛下の番認定されてしまう。
「元の世界に返して……!」あかりの悲痛な叫びは周りには届かない。
これはあかりが元の世界に帰ろうと精一杯頑張るお話。
────────────────────────
主人公は精神的に少し幼いところがございますが成長を楽しんでいただきたいです
不定期更新
新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜
秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。
宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。
だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!?
※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる