上 下
64 / 244
第1章

No.63

しおりを挟む
アルフォンスが、屋敷に着く少し前。
貴族街の端にある、とある屋敷の一室で不穏な話し合いが行われていた。

部屋には、最低限の小さな明かりしか点いておらず向かい合う相手の顔がギリギリ見えるかどうかの明るさだった。
部屋には、この屋敷の主人と娘。2人の向かい側のソファーに、黒いローブを来た2人組の男が座っていた。

「ーーさて。お前達に頼みたいのは、最近とある貴族が囲っている女の始末だ」

最初に口を開いたのは、屋敷の主であるダンブレア男爵。

「方法は?」

背の高い黒いローブの男がすかさず尋ねる。
すると、ダンブレア男爵の隣に座っていたマリーが答える。

「私の所に連れて来て!そして、私の前で無様に泣き喚いて命乞いさせて!」

薄暗い中でも分かるほどに、マリーの瞳はギラギラと嫉妬の炎が燃えている。

(馬鹿な女だ)

背の高い男は、そんなマリーを見てそう思った。
今まで、色々な暗殺依頼を受けて来た。その中でも特に頭の悪そうな嫉妬に狂った馬鹿な女だ。
間違っても、あの忌々しい男はこの女だけは選ばないだろう。

(自身の何処を見てあの男に選ばれると思ってるんだ…)

あの男に本気で選ばれると思っている目の前のマリーに嗤いが込み上げる。隣の小柄な男も同じ事を考えていたらしい。小さく嗤う声が聞こえる。

「アルフォンス様は、私のものよ!あの方に近付くあの女は絶対に許さない!」
「可愛いマリー。大丈夫、直ぐに邪魔者を始末しよう」

嫉妬に狂うマリーをダンブレア男爵が宥める。

(この男も、本気でこの娘があの男に選ばれると本気で思っているのか…?)

だとしたら、親子揃って馬鹿だとしか言いようが無い。

「………では、今回の依頼を確認する。今回の依頼は、アルフォンス・サザーランド公爵が屋敷に囲っている女の誘拐。誘拐後、ご令嬢の前で命乞いをさせて殺せばいいんだな?」
「えぇ、そうよ」
「1つだけ言っておく。今回の依頼は、かなり難易度が高い。仮にもこの国の守護竜と言われる男の屋敷だ。簡単には、侵入出来ない」

そこで一旦、言葉を切る。
すると、続きを小柄な男が話す。

「だから、少し時間がかかる事になる。こっちも、それ相応の準備が必要になるからなぁ」
「はぁ!?何よそれ!あんた達の都合なんて関係ないわ!すぐにあの女を連れて来て!私は依頼主なのよ!!それが出来ないなら、あんた達じゃなくて他の奴に頼むわよ!」

そんな頭の悪い事を叫ぶマリーを2人は嘲笑う。

「………好きにすれば良い。ただ、俺たち以外にこんな以来を受ける奴がいるとは思わないがな」

この国の英雄に負けが確定している様なケンカを売る馬鹿はいない。

(それすらも分からない馬鹿な女だ…)

「マリー、落ち着きなさい。今から他を探すより、この者達に任せよう。…確実に依頼は達成するんだろうな?」
「勿論」

父親に宥められ、渋々納得するマリー。
そうして、契約は結ばれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

5度目の求婚は心の赴くままに

しゃーりん
恋愛
侯爵令息パトリックは過去4回、公爵令嬢ミルフィーナに求婚して断られた。しかも『また来年、求婚してね』と言われ続けて。 そして5度目。18歳になる彼女は求婚を受けるだろう。彼女の中ではそういう筋書きで今まで断ってきたのだから。 しかし、パトリックは年々疑問に感じていた。どうして断られるのに求婚させられるのか、と。 彼女のことを知ろうと毎月誘っても、半分以上は彼女の妹とお茶を飲んで過ごしていた。 悩んだパトリックは5度目の求婚当日、彼女の顔を見て決意をする、というお話です。

【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。

仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。 彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。 しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる…… そんなところから始まるお話。 フィクションです。

結婚式をやり直したい辺境伯

C t R
恋愛
若き辺境伯カークは新妻に言い放った。 「――お前を愛する事は無いぞ」 帝国北西の辺境地、通称「世界の果て」に隣国の貴族家から花嫁がやって来た。 誰からも期待されていなかった花嫁ラルカは、美貌と知性を兼ね備える活発で明るい女性だった。 予想を裏切るハイスペックな花嫁を得た事を辺境の人々は歓び、彼女を歓迎する。 ラルカを放置し続けていたカークもまた、彼女を知るようになる。 彼女への仕打ちを後悔したカークは、やり直しに努める――――のだが。 ※シリアスなラブコメ ■作品転載、盗作、明らかな設定の類似・盗用、オマージュ、全て禁止致します。

王妃ですけど、側妃しか愛せない貴方を愛しませんよ!?

天災
恋愛
 私の夫、つまり、国王は側妃しか愛さない。

【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。

鏑木 うりこ
恋愛
 クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!  茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。  ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?    (´・ω・`)普通……。 でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。

私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪

百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。 でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。 誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。 両親はひたすらに妹をスルー。 「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」 「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」 無理よ。 だって私、大公様の妻になるんだもの。 大忙しよ。

彼女が心を取り戻すまで~十年監禁されて心を止めた少女の成長記録~

春風由実
恋愛
当代のアルメスタ公爵、ジェラルド・サン・アルメスタ。 彼は幼くして番に出会う幸運に恵まれた。 けれどもその番を奪われて、十年も辛い日々を過ごすことになる。 やっと見つかった番。 ところがアルメスタ公爵はそれからも苦悩することになった。 彼女が囚われた十年の間に虐げられてすっかり心を失っていたからである。 番であるセイディは、ジェラルドがいくら愛でても心を動かさない。 情緒が育っていないなら、今から育てていけばいい。 これは十年虐げられて心を止めてしまった一人の女性が、愛されながら失った心を取り戻すまでの記録だ。 「せいでぃ、ぷりんたべる」 「せいでぃ、たのちっ」 「せいでぃ、るどといっしょです」 次第にアルメスタ公爵邸に明るい声が響くようになってきた。 なお彼女の知らないところで、十年前に彼女を奪った者たちは制裁を受けていく。 ※R15は念のためです。 ※カクヨム、小説家になろう、にも掲載しています。 シリアスなお話になる予定だったのですけれどね……。これいかに。 ★★★★★ お休みばかりで申し訳ありません。完結させましょう。今度こそ……。 お待ちいただいたみなさま、本当にありがとうございます。最後まで頑張ります。

処理中です...