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第1章

No.53

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「うーーん!身体が動くって、素晴らしい!」

そう言って、ベットの側にある大きな窓の側で陽の光を浴びながら両手を上げて大きく伸びをする。

私がベットから起きれる様になったのは、目覚めてから1週間後の事だった。

本当なら、次の日の昼過ぎには身体の怠さも取れていたのだが、その後に熱を出して寝込んでしまったのだ。アモウお爺ちゃんの話では、精神的な疲れが出たとの事だ。
そして今日、ようやく完治してベットの住人から久し振りに解放されたのだ。

「ふふっ。マコ様が元気になられて良かったです」

そう言って、ノックの音と共にリディアさんが部屋に入って来た。どうやら、外にまで声が聞こえていたらしい。

「はいっ!これで漸く、美味しいご飯が食べれますから!」

(やっと…やっと美味しいご飯が食べれるっ!)

私は、この1週間の食事を思い出す。

この世界で風邪を引くと、日本と同じ様にお粥にに似た料理が出て来る。
グーミンは、確かに栄養価は高いが満腹度は余り満たされない。だから、本当に重体の人や最初の数日しか食べないのだ。
風邪程度なら、お粥が当たり前。
しかし、このお粥は味が薄い。元々、日本でのお粥も味が薄いが此方のお粥は更に薄い。茶碗1杯分に対して塩ひとつまみ程度の味なのだ。

(確かに、病人に味の濃い食べ物は駄目だよ。だけど…!!もうちょっと、味付けして欲しかった!)

殆ど、グーミンと変わらない。
確かに、お腹は満たされる。だが、私の何かは満たされない。

(本当に、辛い1週間だった…!)

唯一の救いは、水分補給として飲んでいた果汁水だ。ほんのりと甘い味の果汁水を、砂漠で遭難していた者が飲む水の様に狂った様に必死に飲んだ。
余りにも飲み過ぎて、途中でリディアさんに叱られた程だ。

「そうですね。今日は、マコ様のご希望の朝食を料理長に頼んで用意しましたよ」
「直ぐに行きます!」

素早く黄色い簡素なワンピースに着替え、リディアさんに髪を整えてもらうと、競歩かと思う程の速さで食堂に向かう。

「おはようございます、アルフォンスさん」
「おはよう、真琴」

朝食を食べ終わったのだろう。アルフォンスさんが優雅に食後の紅茶を飲んでいた。

「体調はもう大丈夫か?」
「はい。お陰様で良くなりました」
「そうか」

アルフォンスさんは、仕事以外ではずっと私の側にいてくれた。自ら、私の汗を拭いたり水分補給をしてくれたり。最初の方は、意識が朦朧としていて何とも思わなかった。 だが、意識がはっきりすると
とても恥ずかしかった。

(こんなイケメンに看病されるなんてっ!)

だが、恥ずかしい思いとは裏腹にとても安心した。アルフォンスさんが側にいると、何故か心が落ち着くのだ。

まるで、昔からずっと一緒にいたかの様に。

「真琴、俺はもう行かなければ行けない。真琴は、治ったと言っても今日1日はゆっくりとする様に」
「はい」

頷いた私に、アルフォンスさんは微笑んで食堂を出た。

「マコ様、お待たせしました。ご注文の、暴れ牛の懇願ステーキです」
「待ってました!!」

私が、リディアさんに食べたいと頼んだのはリルの癒し亭で食べた暴れ牛の懇願ステーキだった。
ベットの上でずっと食べたいと思っていたのだ。

「いただきます!!」

そう言って、ナイフで切り分けて一口食べる。

「~~っ!!」

(そうそう、コレだよ!この味だよ!)

感動の余り、声が出ない。
この味の濃い肉汁たっぷりのステーキ。
嬉しさの余り、朝だというのにお代わりを要求した。

私は知らない。
この後、食べ過ぎてお腹を壊しリディアさんに怒られながら再びベットの住人になる事を。



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