上 下
14 / 244
第1章

No.13

しおりを挟む
「グルルルッ!」

赤い竜は、凄い怒りを露わにして虎擬きに唸る。
虎擬きは、ジリジリと赤い竜を見ながらゆっくりと背後に下がって逃げようとしていた。

「グルルルッ………ガァッ!」

だが、逃げるより先に赤い竜のその鋭い爪であっという間に引き裂かれた。虎擬きを引き裂いた竜は、ゆっくりと振り向いて綺麗な翠の瞳で私を見つめる。その鋭い爪から赤い血が雫になって地面に落ちているのに、私は目の前の赤い竜を不思議と怖いとは思わなかった。 

「グルルル」

先程の唸り声とはどこか違う…そう、猫の甘えた時の様な鳴き声を出す赤い竜。

「…助けてくれてありがとう」

言葉が伝わるか分からないが、お礼を言う。
すると、赤い竜は私に顔を近付けて来る。思わずビクッと身体が強張る。だが、赤い竜が近付けた顔を甘えた様に私に押し付けるのを見て直ぐに力を抜く。

「…なんか可愛い」

私なんて簡単に飲み込める程、大きな竜に対する感想ではないのだがそう思ってしまう。
暫く竜の好きにさせていたが、お腹の鳴る音で目的を思い出した。

「そうだ。何が食料を…いっ!!」

立ち上がろうとして足首に鋭い痛みが走る。

(足首を怪我してるの忘れてた…)

余りの痛みに目に涙が浮かぶ。

「っ!?うわっ!」

その時、突然赤い竜が私を持ち上げて自身の手の中に囲い込む。潰さない様に配慮され作られた小さな手の檻。

「グルルル」

私に向かって、もう一度そう鳴くとその大きな翼を広げ飛び上がる。

「っ!………うわぁっ!」

驚いて閉じた目をゆっくり開くと、目の前に広がる青空と大地。地球とは違う朝日に照らされたその世界は、とても美しかった。

「凄い…」

竜の手の隙間からその景色を見ながら必死に何か帰る手掛かりがないか探す。だが、これといったものは見つからない。

「簡単には見つからないか…。それにしても、どこに向かってるんだろう?」

暫く飛んでいるうちに、先程の緊張の疲れもあっていつのまにか寝てしまった。

***

気が付くと、手の中で番が眠っていた。

(俺の手の中で眠ってくれた)

それは、俺に対して警戒していないという確かな事実。その事実に例えようもない嬉しさが込み上げて来る。

(それにしても、無事で良かった…)

番が魔物に襲われているのを見た時、恐ろしいまでの恐怖と怒りを覚えた。

ーー俺の番に何をしている!!

怒りで、あっという間に魔物を引き裂いた。そうしてゆっくりと振り返り、番を見つめる。

少年の様に短いが艶のある柔らかそうな綺麗な黒髪。そして、髪と同じ黒い瞳。

(黒い瞳?)

瞳は、綺麗な海の様なブルーだった筈。

「…助けてくれてありがとう」

疑問に思っていたが、番の柔らかな…それでいて凛とした綺麗な声が聞こえて来ると、その疑問もどこかに飛んで行った。

(なんて綺麗な声なんだ…)

思わず顔を近付け擦り寄る。
温かい体温にふわりと香る甘い匂い。

ーーあぁ、俺の番…ようやく会えた



しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

めーめー
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこから彼女は義理の弟、王太子、公爵令息、伯爵令息、執事に出会い彼女は彼らに愛されていく。 作者のめーめーです! この作品は私の初めての小説なのでおかしいところがあると思いますが優しい目で見ていただけると嬉しいです! 投稿は2日に1回23時投稿で行きたいと思います!!

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

転生したら竜王様の番になりました

nao
恋愛
私は転生者です。現在5才。あの日父様に連れられて、王宮をおとずれた私は、竜王様の【番】に認定されました。

拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!

枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」 そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。 「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」 「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」  外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

竜王陛下の番……の妹様は、隣国で溺愛される

夕立悠理
恋愛
誰か。誰でもいいの。──わたしを、愛して。 物心着いた時から、アオリに与えられるもの全てが姉のお下がりだった。それでも良かった。家族はアオリを愛していると信じていたから。 けれど姉のスカーレットがこの国の竜王陛下である、レナルドに見初められて全てが変わる。誰も、アオリの名前を呼ぶものがいなくなったのだ。みんな、妹様、とアオリを呼ぶ。孤独に耐えかねたアオリは、隣国へと旅にでることにした。──そこで、自分の本当の運命が待っているとも、知らずに。 ※小説家になろう様にも投稿しています

くたばれ番

あいうえお
恋愛
17歳の少女「あかり」は突然異世界に召喚された上に、竜帝陛下の番認定されてしまう。 「元の世界に返して……!」あかりの悲痛な叫びは周りには届かない。 これはあかりが元の世界に帰ろうと精一杯頑張るお話。 ──────────────────────── 主人公は精神的に少し幼いところがございますが成長を楽しんでいただきたいです 不定期更新

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

処理中です...