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No.97

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背後に気配を感じたと思った途端、サーシャに声がかかった。

「また会えたな」

その言葉にサーシャが振り返ると、そこには美しい女性と見間違う程の美貌の青年がいた。一度見たら忘れられないその美貌の青年には見覚えがあった。

「フォトガデル様…」

サーシャが名を呼ぶと、美貌の青年は嬉しそうに微笑んだ。運悪く(?)その笑みを目撃した近くに居たお年寄りが、頬を染めて見惚れていた。

(同性のお年寄りも見惚れさせる魔性の笑み…)

「覚えててくれたんだね、サーシャ嬢。私の事は、ルイスって呼んでくれ」

(うっ…!何て声で話しかけるのよ)

その声は愛しい恋人に囁く様に甘やかで、こんな子供に使う様なものでは無い。

(聞き間違いかしら…?)

困惑しているサーシャに、ルイスはその美しい顔を近付けて再度お願いをする。

「ねぇ、ルイスって呼んで?」

聞き間違いでは無かったらしい。
ルイスは、何が何でもサーシャに名を呼んでもらいたいらしい。

「ほら、呼んで?」
「ル、ルイス様…」

その甘い笑みと言葉に耐え切れず、サーシャはルイスの名を呼んだ。すると、ルイスは幸せそうな表情でサーシャを見つめる。その後、ルイスは何も話さないのでサーシャは本を読む事を再開した。

ーーそうして10分後。

「あ、あの…」
「うん?なんだいサーシャ」
「えっと…、近く無いですか?」

いつの間にか、触れ合うほどにピッタリとサーシャの隣に座り穴が開く程に見つめてくるルイス。しかも、さり気無くサーシャを呼び捨てて今にも左手を握りそうだ。

「そうかな?別に普通じゃ無いかい?」

(いや、全然普通じゃ無いです…)

そう言いたいが、相手はあの第一王子の側近の1人である時期侯爵家当主。下手な事をして、自分に面倒がかかるのはまだ良い。

(でも、家族にまで面倒事が及んだら…?)

サーシャを溺愛している家族達なら、相手が誰であろうと確実に報復に出るだろう。仮に、家族に迷惑をかけなくてもサーシャに何かあったと知ったら確実に激怒する。そう躊躇いも無く確信出来る程にサーシャは愛されている自覚があった。

「サーシャは、本当に可愛いね。…この夜空の様な黒髪に、煌く海の様な青い瞳。まるで、天上の女神の様だ」


一体、彼はどうしたのだろう?


最初にあった時は、こんな態度では無かった。

第一王子と共に訪れた家の娘。
その程度の認識だった筈だ。

(本当に、何がどうなってるの…?)

未だうっとりとした表情でサーシャを見つめるルイスを見ながら、サーシャはどうしたものかと悩むのだった。




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