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No.74 アランside

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サーシャが友達のティミアを連れて会場を出て行った後。両親の側に、大勢の招待客が途切れず挨拶に訪れる。そんな両親から離れて、アランはバルコニーへと向かう。

不思議な事に、誰一人として側を通る未来のアベルシュタイン侯爵であるアランへと挨拶をしない。

いや、挨拶どころか視線ひとつ寄越さない。
まるで、そこにアランなど存在しないかの様に誰もアランの存在に気が付かない。

そうして、誰にも声をかけられる事なくバルコニーに出た。そうして、星の輝く夜空を見上げるアランに、背後から声がかかった。

「絶世の美少年が憂いた表情で夜空を見上げる姿は、とても絵になるね」
「………」
「おっと、無視かい?私の事を無視するのは、君くらいだよ」
「………」
「………ハァ。どうやら、君は私と話したく無い様だね。仕方ないから、私はサーシャ嬢と話してこようかーー」
「何の様ですか」

サーシャの名前を出した途端に話し出すアランに、クリスは思わず苦笑いを浮かべる。

「最初は、君の事何を考えているか分からないって評価していたけど訂正するよ。君は、ある一部において物凄く分かりやすいよ」
「そうですか。それで、用件はそれだけですか?」

さっさと会話を終わらせたいアランは、無理矢理会話を終らせようとする。

「そんな訳ないだろ?ちゃんと用事があるさ」

そう言って、クリスはアランに近付き一枚の紙を差し出した。

「最近、街で子供の誘拐事件が多発してるらしくてね。未だ、犯人は捕まってないんだ」
「そんなのは、街の衛兵達の仕事だろ」
「そうなんだけど、どうやらこの犯人は中々頭の回る様でね。いつもあと一歩の所で取り逃してしまうらしいんだ」

クリスの話を聞きながら、アランは渡された紙を見る。

「………大体、5~10歳の見た目の良い子供達の誘拐。ほぼ間違い無く人身売買目的だろうな。しかも、犯人は他国の人間だな」
「だろうね。この国では、王の許可を受けた一部を除いて人身売買に関わった者は誰であろうと死刑だ。それをで骨の髄まで身に染みて知っている我が国の者がそんな事をする訳が無いからね」
「それで俺に何をしろと?本来なら、現当主である父への依頼だろう」
「その現当主である君の父が、『アランにやらせて下さい』と言ったんだよ」

その言葉に、アランは深い溜息をはく。
当主である父の命令には、決して逆らえない。

「………わかった。それで期限は?」
「1ヶ月以内。誘拐された子供達を救出したら、一人を残して後は好きにして良いよ」

最後に笑顔で「よろしくね」と言って、クリスは会場へ戻って行った。その後ろ姿を見ながら、アランは疲れたと言わんばかりに大きな溜息をはいたのだった。



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