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No.63

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まさか、サーシャが居るとは夢にも思わなかったのだろう。可哀想なくらい青褪めたガダルは、サーシャから視線を逸らさない。

……いや、逸らせ無いのでは無い。
逸らさないのだ。

本能で、そらした途端にサーシャが飛びかかって襲って来ると察していたのだ。そんな状態のガダルを、サーシャは分かっていながら敢えて何も言わずに見つめ続ける。

「ガダル様?」

そんな状態が暫く続いた時、不意に意識の外から救いの声が聞こえて来た。ハッとして声の方を見ると、可愛いティミアが此方を心配そうにジッと見ていた。

(か、可愛いっ…)

「ガダル様、顔が凄く青褪めてますけど大丈夫ですか?………まさか、具合が悪いんですか!?大変っ!どうしよう…!」

ガダルを心配して、慌ただしくベッドから降りようとするティミアをサーシャは止める。

「大丈夫よ、ティミア。殿下の顔が青いのは気のせいよ。………ですよね、殿下?」
「そそそ、そうだっ!サーシャ嬢の言う通り、ティミアの気のせいだっ!」

ティミアに見えない様にしながら、凄い目で睨んで来るサーシャの言葉にガダルは急いで頷く。しかし、その顔は先程よりも青く見える。

「………本当ですか?何処も辛く無いですか?」
「っ…!」

ベッドの上から目に涙を溜めた上目遣いでティミアに見られて、ガダルの顔は一気に赤くなる。好きな少女の上目遣いに、ガダルの心臓は痛いほど鳴る。心臓の鼓動が、耳の近くから聞こえて来る様だ。

「だ、大丈夫だ。オレの事より、ティミアは大丈夫なのか?」

そう言いながら、ベッドに近付くガダル。
ジッとガダルの動きを無言で見つめるサーシャの側を通る時は、無意識にソロソロとゆっくりとした動きになったが、特に何を言われる事なくティミアの側に近付けた。

そして、労わる様に優しくふわふわの茶色い髪を優しく撫でる。突然、ガダルに優しく頭を撫でられたティミアは、恥ずかしそうに、しかし何処となく嬉しそうに顔を赤く染める。

「…ん?大変だ!急に顔が赤くなったぞ!もしかして、熱がぶり返したのかも知れないっ!ティミア、直ぐに横になるんだ!おいっ、誰かいないか!」

赤くなったのを別の意味で捉えたガダルは、慌ててティミアをベッドに寝かせながら大きな声で人を呼ぶ。

そんな二人を見ながら、サーシャは小さくこう呟いた。

「ラブコメか」……と。
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