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No.62

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「はい」
「失礼します。ティミアお嬢様、ガダル第二王子殿下がお越しになりました」

入って来たメイドの言葉に、ティミアは瞳を輝かせ頬を少し赤く染める。

「まぁ、ガダル様が?すぐに此方にお通しして」
「かしこまりました」

そうしてメイドがガダルを呼びに部屋を出ると、ティミアはサーシャに慌てた様に尋ねる。

「ねぇ、サーシャ。私、髪の毛大丈夫?ずっと寝てたから寝癖付いてない?」
「大丈夫、何処も変じゃ無いわ」
「本当に?あっ!私、寝巻きのままだわ!ちゃんとした服に着替えないと!」
「ティミア、落ち着いて。病人が、お見舞いに来た人を気遣ってどうするのよ」

慌ててベッドから出ようとするティミアを、サーシャは少し強引にベッドに戻す。

(………それにしても、ガダルめ。上手い事、ティミアと距離を縮めてるわね)

驚く事に、現在ティミアとガダルは文通をしているのだ。最初は、ガダルから髪を引っ張ってしまい申し訳無かったと謝罪の手紙がティミアへ送られて来た。それに対して、ティミアが謝罪を受け入れる手紙を出しそれで終わりだと思ったが、何とそれから頻繁にガダルから近情を報告する手紙が届き始める。

最初は、困惑していたティミア。
しかし、ティミアを楽しませる様な内容の手紙に次第にティミアは次第に手紙のやり取りを楽しみにする様になっていったのだ。
そうして現在、ティミアが体調を崩している事を知ったガダルは見舞いにやって来たのだ。

ーー勿論、サーシャがこの場にいる事は偶然では無い。

ティミアとの手紙のやり取りで、ガダルとの話を聞いていたサーシャは、今日ガダルが見舞いに来る事も知ったうえで居るのだ。

(ーーさて。あの傲慢王子がどんな風にティミアに接するのか、しっかりと見届けないとね)

気分は、娘が連れて来た彼氏を見定める母親の気分だ。

ーートントン。

「ど、どうぞ!」

少し上擦ったティミアの言葉と共に、部屋の扉が開きガダルが入って来る。

「ティ、ティミア嬢。失礼すーーる!?」

何処か緊張した様に目を伏せていたガダルは、視界にサーシャを捉えると驚愕に目を見開く。先程まで赤く染めていた頬は、一瞬にして青褪める。

「ご機嫌よう、ガダル様。お元気でしたか?」
「サ、サ、サ、サーシャ嬢…」
「ガダル様ったら、ティミアとは手紙のやり取りをしているのに、私には一通もくれないんですもの。仲間外れにされて、私とても悲しかったですわ」

そう言って、悲しそうな表情でガダルを見つめるサーシャ。しかし、その瞳には「どうやってガダルで遊ぼうか」と言う草食動物をいたぶる捕食者の様な目をしていたのだった。
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