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No.53 ルイスside

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「それでは失礼しますね」
「ダリル殿、失礼いたします」
「えぇ。どうぞ、お気を付けて」

そうして、二人は馬車に乗り込みアベルシュタイン家を後にする。クリスが王家の紋章が刻まれた金の懐中時計を見ると、時刻は3時に差し掛かろうとしていた。

「予定より、少し時間がかかってしまったね。この後は、母上とお茶の約束をしてたんだけど少し遅れてしまうな」
「そうですね。……それも全て、何処かの誰かさんが、アベルシュタイン家の御息女に夢中になっていたせいですね」

そう言いながら、ルイスは内心意外に思っていた。目の前の性格の歪んだ王子が、まさか身内や親しい者以外にあれ程までに興味を示すなど思ってもいなかった。

「夢中ねぇ…」
「何ですか?その言い方は。誰がどう見たって、5歳の少女に夢中でしたよ。まさか、惚れたんですか?」

そんな事はあり得ないと思いながら、流れで聞く。すると、クリスから予想外の返事が返って来た。

「うん、そうだね。私は、どうやらサーシャ嬢を好きになってしまったみたいだ」
「えっ!?」

驚きの余り、目の前に座るクリスを凝視する。
クリスは、そんなルイスにいつもの王子様スマイルを浮かべる。

(いやいやいやっ!!落ち着け、俺!此奴が、打算無しに本気で誰かを恋愛感情で好きになる訳ないだろう!?)

酷い言い方だと思われるかも知れないが、本当のクリスを知っている者ならば、ルイスの考えに激しく同意してくれるだろう。それ程までに、クリスは性格が悪い。

「………何が目的なんですか?」

確かに、サーシャ嬢はルイスが今まで見て来た中で断トツで1番に美しい子供だと思う。それは認める。他の者の言葉なら、素直に信じただろう。

ーーしかし、クリスの言葉だけは信じられなかった。

「酷いなぁ…。私だって、誰かを本気で好きになる事だってあるよ」

(それこそ、天地がひっくり返ってもあり得ねーよ!!)

「それより、何でもう少しアランを引き止めてくれなかったんだ?」
「何言ってるんですか。トイレと言って10分も戻って来ない殿下を、俺がどれ程必死にフォローしたと思ってるんですか…。あれでも、十分に引き止めましたよ」

戻って来ない殿下に、野生の感が働いたのか殺気を出すダリルとアランを、ルイスは必死にその場に引き止めた。だが、今にも飛び出さんとするダリルを引き止めている一瞬の隙を突いて、アランが部屋を飛び出してしまったのだ。

「もう二度と、足止めは御免です。次からは、ご自分で何とかしてください」

じゃないと、そのうちアランに本気で闇討ちされそうだとルイスは思ったのだった。



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