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アランに連れられて屋敷に戻り、何時もお茶会をしている部屋へと入る。そこには、美味しそうで可愛らしいお菓子や紅茶セットが置かれていた。そして、大きなソファーに並んで座る美しい男女。

「父様、母様。サーシャを連れて来たよ」
「ありがとう、アラン」
「また、いつもの場所で寝ていたの?」
「うん。とっても可愛い寝顔だったよ」

アランの言葉に、男性がサーシャの頭を優しく撫でる。

「サーシャ、寝るなら私の執務室で寝なさいと何時も言ってるだろう?」

そう言って愛おしげに笑う男性は、サーシャの父であるダリル。アベルシュタイン家に代々伝わる美しい黒髪に輝く様な青い瞳を持つ30代程に見える凛々しい美丈夫だ。

「まぁ、貴方ったら。そんな事を言って、本当は可愛いサーシャの寝顔を見たいだけでしょう?そうすると、貴方は仕事をしなくなるから駄目よ。サーシャ、寝るのなら私の側で寝るといいわ」

ダリルの言葉を否定してサーシャに話しかけるのは、母のミランダ。腰まである美しい金髪に新緑の様な緑の瞳を持つ妖艶な美女だ。とても、2児の母親には見えない。

「父様も母様も、何言ってるの?サーシャは、俺と一緒にお昼寝するんだよ。父様と母様は忙しいでしょ?だから、サーシャの面倒は俺が見るよ」

アベルシュタイン家の未来の次期当主であるアランは、そう言って未だ抱いているサーシャを両親から隠す様にギュッと抱き締める。

「こら、アランばかりずるいぞ。私は確かに忙しいが、家族との時間を取れないほど無能では無い」
「そうよ。確かに私も他家の御婦人達とのお茶会は忙しいけれど、幾つかの招待を辞退した所で支障は無いわ」
「それより、アランの方はどうなんだ?後継者としての勉強があるだろう?」
「そうね。覚える事が沢山あって大変でしょう?アランの代わりに、私達がサーシャの面倒を見るわ」

両親達は、そう言ってとても可愛い愛娘サーシャをアランから奪おうと手を伸ばす。しかし、アランは一歩後ろに下がってそれを阻止する。

「ううん、俺は大丈夫だよ。家庭教師には、とても褒められてるんだ。俺は父さん達に似て頭が良いんだ。だから、勉強は問題無いよ。それに、今日の分の宿題もちゃんと終わらせてあるしね」

三人は笑顔で、しかし決して笑ってない目で互いを見つめ合い睨み合いバチバチと火花を散らす。

(……いや、そもそも一人で寝かせてよ)

そんな三人を呆れた様にサーシャは見つめていた。今世の家族は、驚く程にサーシャを溺愛している。元々、両親は女の子を、アランは妹を欲しがっていた。そんな中、生まれた天使の様に可愛いサーシャ。サーシャが生まれた時、彼等は狂喜乱舞したらしい(執事長 談)。

普段はとても仲が良いのに、サーシャの事になると駄目だ。誰が一番サーシャと長く過ごすか、毎日くだらない争いを繰り広げている。

(あぁ、もうやめて。見てよ、メイドさん達のあの視線)

壁際に立っているお茶やお菓子の用意をするメイドさん達が生暖かい視線で自身の使える主人達を見ていた。その視線に、サーシャは恥ずかしくなる。

「もうっ!お父様、お母様、アラン兄様、もうやめて下さい!私、早く緑茶が飲みたいです」

可愛いサーシャの言葉に、三人は漸く睨み合いを止める。

「今回は、どうやら引き分けの様だな」
「その様ね」
「仕方ないね」

やっと終わった睨み合いに、サーシャは溜息をつく。今世の家族は、かなりサーシャを溺愛しすぎである。ーーだが、そんな彼等が今のサーシャにとって大切な家族である。
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