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第1章
さようなら、教会
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マリオンの意見を、最初は皆が反対した。
それはそうだ。
一体、何処に皆で大切にしている子供を態々孤児院に送る者がいるのだ。だが、それでもマリオンの意思は変わらなかった。
出て行く、出て行かせない。
そんな主張が、教会にやって来てから半年程続いた。半年も皆に引き止められる事が続けば、「このまま残ろうかな」と言う考えが強くなる。
(私も、皆んなが嫌いで出て行く訳じゃ無いしね)
そんな事を思っていた時だった。
マリオンが、教会を出る事になる決定的な出来事が起こったのだ。
教会に引き取られてから、マリオンには姉の様に慕う女性がいた。綺麗と言うよりお淑やかで優しい女性だった。教会で働く人々の中では1番若く、彼女も幼いマリオンを本当の妹の様に可愛がってくれた。
ーーそんなある日、彼女のある噂が立つ様になった。
それは、彼女が街の若い男を誘惑していると言う噂だった。初めは、マリオン含め教会の者達は誰も信じなかった。彼女は、人見知りの激しい性格で男性が特に苦手なのだ。慣れていないと、目が合っただけで顔を赤く染めて硬直し話せなくなってしまう彼女が、若い男を誘惑?
一言、現代風に言えば無理ゲーである。
何故、その様な噂が経つのか。
マリオン達は疑問に思った。様子を見ていても、特に変わった事は無い。皆が不思議に思っていた時だった。
マリオンが、その噂の原因を知ったのは。
ある日、いつもの様に教会にある自身の部屋で勉強の復習をしていた時だった。
『………』
『………!』
「ん?」
ヒソヒソと、何処からか話し声が聞こえて来た。
何かあったのだろうかと疑問に思い、マリオンは部屋の扉をそっと開けた。すると、声がより鮮明になった。
『いやぁ~。流石、先輩ですね!!まさか、あの奥手で色気も無い女をモテさせるんですから!』
小さく開いた扉の隙間から、廊下の奥を見る。そこには、黒い尻尾と翼の生えた露出の激しい男性が二人見えた。
(あれって、最近来た先輩後輩インキュバスだ)
彼等は、先週この教会にやって来たインキュバスだ。茶髪の短い髪の可愛い系が後輩で、緩くカールのかかった色気ムンムンの長髪が先輩の二人である。
『まぁな。俺くらいになると、あんなに色気の『い』の字も無いつまらない女でも、俺の力で若い男をメロメロにする事くらい簡単なんだよ』
『流石、先輩っす!!俺、先輩の事すごく尊敬してます!』
後輩インキュバスは、先輩インキュバスをキラキラとした尊敬の眼差しで見つめる。
(あんな上から目線の男の何に尊敬してるんだ?)
言ってる事は、女性を蔑む最低な内容だ。
マリオンには、理解出来ない。
それより信じられないのは、あの彼女の悪い噂は全てこのインキュバスのせいだと言う事だ!
『若い男はメロメロにした。次は、実戦だ。………俺のテクニックで、天国を見せてやるぜ』
そう言って、ペロリと自身の唇を舐める先輩インキュバス。顔が良いから似合っているが、内容は最低だ。
『先輩、遂にあの女に手を出すんですね!』
『あぁ。俺が本気で可愛がれば、聖女様でも淫乱女に様変わりさ』
『スゲェっす!!』
(何処も凄く無いわ!!)
まさか、自分が此処に居るせいで種族としては当たり前だが男としては最低なインキュバス達が此処に住み着き、姉の様に慕う女性の悪い噂が立ってしまったとは。しかも、彼女の貞操の危機だ。
(どうにかしないとっ!!)
自分のせいで、貞淑な彼女が淫乱女に様変わりなんて、そんな事許せない。
(早く、この教会を出ないと)
そうして、一つの場所に長く止まらない様にしないと、同じ事が起こる可能性がある。
そう決断したマリオンの行動は早かった。
今まで必死に説得されて曖昧になっていた孤児院へ行く話を、保護者代わりの神官ーーダフネスに強く言った。
『このまま此処に居ると、一生後悔する事になってしまう』
だが、教会の皆が嫌いなわけでは無い。
これからも、会いに来る。
マリオンの必死なその姿を見て、ダフネスは遂にマリオンの孤児院行きを許した。だが、それと同時にある約束を取り付ける。
『困った事があったら、何時でも相談する事。此処は、誰が何と言おうと、貴女の家なのですから』
その言葉に、マリオンは涙が溢れた。
純粋に嬉しかった事と、前世で似た様な事を言われた事があったからだ。今まで必死にこの世界に馴染もうとしていた為、その言葉で前世の事を思い出し、張っていた緊張の糸がプツリと切れた。
その時、マリオンはこの世界で目覚めてから初めて、子供の様に大きな声を上げて泣いた。そんなマリオンを、ダフネスは泣き止むまで優しく抱き締めてくれたのだった。
それはそうだ。
一体、何処に皆で大切にしている子供を態々孤児院に送る者がいるのだ。だが、それでもマリオンの意思は変わらなかった。
出て行く、出て行かせない。
そんな主張が、教会にやって来てから半年程続いた。半年も皆に引き止められる事が続けば、「このまま残ろうかな」と言う考えが強くなる。
(私も、皆んなが嫌いで出て行く訳じゃ無いしね)
そんな事を思っていた時だった。
マリオンが、教会を出る事になる決定的な出来事が起こったのだ。
教会に引き取られてから、マリオンには姉の様に慕う女性がいた。綺麗と言うよりお淑やかで優しい女性だった。教会で働く人々の中では1番若く、彼女も幼いマリオンを本当の妹の様に可愛がってくれた。
ーーそんなある日、彼女のある噂が立つ様になった。
それは、彼女が街の若い男を誘惑していると言う噂だった。初めは、マリオン含め教会の者達は誰も信じなかった。彼女は、人見知りの激しい性格で男性が特に苦手なのだ。慣れていないと、目が合っただけで顔を赤く染めて硬直し話せなくなってしまう彼女が、若い男を誘惑?
一言、現代風に言えば無理ゲーである。
何故、その様な噂が経つのか。
マリオン達は疑問に思った。様子を見ていても、特に変わった事は無い。皆が不思議に思っていた時だった。
マリオンが、その噂の原因を知ったのは。
ある日、いつもの様に教会にある自身の部屋で勉強の復習をしていた時だった。
『………』
『………!』
「ん?」
ヒソヒソと、何処からか話し声が聞こえて来た。
何かあったのだろうかと疑問に思い、マリオンは部屋の扉をそっと開けた。すると、声がより鮮明になった。
『いやぁ~。流石、先輩ですね!!まさか、あの奥手で色気も無い女をモテさせるんですから!』
小さく開いた扉の隙間から、廊下の奥を見る。そこには、黒い尻尾と翼の生えた露出の激しい男性が二人見えた。
(あれって、最近来た先輩後輩インキュバスだ)
彼等は、先週この教会にやって来たインキュバスだ。茶髪の短い髪の可愛い系が後輩で、緩くカールのかかった色気ムンムンの長髪が先輩の二人である。
『まぁな。俺くらいになると、あんなに色気の『い』の字も無いつまらない女でも、俺の力で若い男をメロメロにする事くらい簡単なんだよ』
『流石、先輩っす!!俺、先輩の事すごく尊敬してます!』
後輩インキュバスは、先輩インキュバスをキラキラとした尊敬の眼差しで見つめる。
(あんな上から目線の男の何に尊敬してるんだ?)
言ってる事は、女性を蔑む最低な内容だ。
マリオンには、理解出来ない。
それより信じられないのは、あの彼女の悪い噂は全てこのインキュバスのせいだと言う事だ!
『若い男はメロメロにした。次は、実戦だ。………俺のテクニックで、天国を見せてやるぜ』
そう言って、ペロリと自身の唇を舐める先輩インキュバス。顔が良いから似合っているが、内容は最低だ。
『先輩、遂にあの女に手を出すんですね!』
『あぁ。俺が本気で可愛がれば、聖女様でも淫乱女に様変わりさ』
『スゲェっす!!』
(何処も凄く無いわ!!)
まさか、自分が此処に居るせいで種族としては当たり前だが男としては最低なインキュバス達が此処に住み着き、姉の様に慕う女性の悪い噂が立ってしまったとは。しかも、彼女の貞操の危機だ。
(どうにかしないとっ!!)
自分のせいで、貞淑な彼女が淫乱女に様変わりなんて、そんな事許せない。
(早く、この教会を出ないと)
そうして、一つの場所に長く止まらない様にしないと、同じ事が起こる可能性がある。
そう決断したマリオンの行動は早かった。
今まで必死に説得されて曖昧になっていた孤児院へ行く話を、保護者代わりの神官ーーダフネスに強く言った。
『このまま此処に居ると、一生後悔する事になってしまう』
だが、教会の皆が嫌いなわけでは無い。
これからも、会いに来る。
マリオンの必死なその姿を見て、ダフネスは遂にマリオンの孤児院行きを許した。だが、それと同時にある約束を取り付ける。
『困った事があったら、何時でも相談する事。此処は、誰が何と言おうと、貴女の家なのですから』
その言葉に、マリオンは涙が溢れた。
純粋に嬉しかった事と、前世で似た様な事を言われた事があったからだ。今まで必死にこの世界に馴染もうとしていた為、その言葉で前世の事を思い出し、張っていた緊張の糸がプツリと切れた。
その時、マリオンはこの世界で目覚めてから初めて、子供の様に大きな声を上げて泣いた。そんなマリオンを、ダフネスは泣き止むまで優しく抱き締めてくれたのだった。
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