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No.8 不審者は私の犬?

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不審者の話を聞いてから2週間が経った。
仕事にも慣れ、漸く常連客達になら少しはまともに話せる様になった頃。

「い、いらっしゃまーーっ!?」

その人物は、突然現れた。

食堂にやって来たその人物は、少し汚れた黒いローブを深く被った背の高い男性だった。その男性は、莉緒を見るなり勢い良く莉緒のすぐ側にやって来た。そうして、ジッと莉緒を無言で見下ろしてくる。

「あ、ああ、あの……お、お食事です…か?」

無言で莉緒を見つめて来る男性に、仕事中の莉緒はビクビクしながらも声をかける。

その瞬間ーー。

「ひっ…!?」
「やっと見つけた」

ガバッと勢い良く男性に抱きつかれた。
驚愕に固まる莉緒に、男性は嬉しそうに擦り寄る。

「おっ!リオちゃんの男か?」
「マジか~。やるなリオちゃん!」
「何処で捕まえたんだ?」

抱きつく男性を固まっている為に拒否しない莉緒。そんな莉緒に、嬉しそうに抱き着く見慣れない男性。周囲は、そんな二人を見て恋人だと勘違いし二人を冷やかす様な声が飛び交う。
その声に漸く意識を取り戻し、莉緒は慌てて自身に抱き着く不審者男性を引き剥がそうとする。

「だだ、だ、誰ですか…!?」
「ご主人様の犬」
「…!?」

躊躇いも無い男の言葉に、莉緒はギョッとする。

「おいおい、リオちゃん。彼氏に自分の事、ご主人様って呼ばせてるのか?」
「しかも、彼氏も自分を犬って…」
「………いい」
「最近の若い子は、過激な付き合いしてんな~」

常連客達の言葉に、莉緒は顔を青褪めさせる。

「ちちち、違います!し、し、知らない人です………!!」

莉緒の言葉に、男は不満そうな声を出す。

「知らないなんて酷いな…。俺の事、有無を言わさず隷属させたくせに」
「ななな…!?」

(この人、何言ってるの…!?)

莉緒は、目の前の男性に会った事もない。そもそも、この世界に知り合いなど居ない。知っているのは、お世話になってるミラ達やダンテ、常連客達くらいだ。

(それなのに、ご主人様とか隷属とか意味が分からないよ…っ!)

混乱して涙が滲む莉緒。
その涙を丁寧に拭う男性。

側から見たら、二人は恋人同士にしか見えなかった。

「ほらほら、アンタ達!イチャつくなら他所でやんな!」

騒ぎを聞き付けたミラが厨房から出て来て、包丁片手に大声でそう言う。

「そうじゃないなら、リオ。サッサと働きな!仕事を途中で放り出すのは、許さないよ!」
「は、はいっ!」

返事をする莉緒から、莉緒に抱き着く男にミラは視線を移す。

「そこのアンタ!リオの仕事の邪魔するなら、とっとと出ていきな。それが嫌なら、食事をするなり何なりしてリオの為に金を使いな!」

ミラの言葉に、男はしぶしぶ莉緒から離れる。漸く離れた男に、莉緒はホッとする。そんな莉緒に、男は恋人に囁く様な甘い声で話す。

「ご主人様、この店で一番高い料理をお願い」

そう言って男は漸くフードを取る。
肩辺りで軽く一つに纏められた艶やかな赤茶の髪。計算された様に顔に配置された整ったパーツ。ハッとする様なイケメンでは無いが、中性的な顔の二十代半ば程の男であった。そんな男性が、赤みを帯びた茶色の瞳に執着の色を見せながら莉緒をジッと見つめていた。













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