上 下
8 / 34

No.7 美味しいシチューと不審者

しおりを挟む
家に帰った後、莉緒はミラと共にダンテに貰った肉を使い野菜たっぷりのシチューを作った。

「本当に莉緒は手際が良いね。初めて会った時は、見た事がないけど質の良い服を着てたから、どっかの良い所のお嬢様だと思ってたんだけどね~。でも、包丁の扱いには慣れてる。本当に不思議だね」
「は、はは…」

こちらに来る前は、自炊していたのだから手慣れていて当然だ。だが、記憶喪失という風に説明している手前、何も言えない。

「もしかしたら、記憶を失う前は料理をしてたのかも」
「そうだよ!だって、リオは凄く料理上手だもん!」

カールとカーラの言葉に、ミラは頷く。

「まぁ、稀に息抜きで料理をするお嬢様もいるって聞くしね。しかし、記憶をなくしても身体が覚えてるもんなんだねぇ」

感心した様に莉緒を見るミラの視線から逃れる様に、ひたすらシチューを口に流し込む。

「………お代わり」

今まで無言で食べていたジェフは、静かにミラに空の皿を渡す。これで3回目のお代わりだ。どうやら、ジェフもかなりシチューが気に入った様だ。

「あっ!お父さん、またお代わりしてる!私の分も取っといてよね!」
「オレのも」
「お代わりならまだあるから、そんな慌てて食べるんじゃないよ!……全く、少しはリオを見習って欲しいね。リオは、お代わりするかい?」
「えっと、お願いします…」

ミラの言葉に、おずおずと莉緒は空になった皿を差し出すのだった。

******

「不審者?」

食事が終わりのんびりしていた所に、ジェフが今日警備隊で話題になった事を話した。ミラのいかぶしげな声に、ジェフはコクリと頷く。

「………数週間ほど前から、隣町に怪しい男が目撃されてるらしい」

ジェフの話によると、此処から歩いて半日ほどの場所にあるトランという町に数週間前から不審な人物が現れるらしい。ローブを深く被った男は、トランにやって来る前は他の町に居たらしく、数週間は町に留まっていたそうだ。

「唯の旅人じゃ無いのかい?」
「それが誰かを探しているらしい」
「そうなのかい?どんな人を探してるんだい?」
「それが、どんな人物を探しているか誰にも言わないんだ」

(確かに、それは怪しい人物だなぁ)

ジェフの話を聞きながら、莉緒はそう思った。
人を探しているのに、誰にもどんな人物かを教えない。特徴を言えば、その探している人を知っている人が見つかるかもしれないのに。全く意味が分からない。

「変な人がいるもんだね~」
「もしかしたら、その男は盗賊で人探しと言って町の下見をしているとも限らない」
「だから不審者かい、なるほどね。もしかしたら、この町にも来るかも知れないね…」

ミラの言葉に、ジェフはコクンと頷く。

「アンタ達、話は聞いたね?変な人を見かけたら、騒がす近づくんじゃ無いよ」
「はーい!」
「分かった」
「は、はいっ!」

(近くの町に不審者がいるなんて…)

しかも、盗賊かもしれない人物だ。
どうかこの町にやって来ませんようにと、莉緒は強く願うのだった。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

洗脳されていたことに気づいたので逃げ出してスローライフすることにします。ー元魔王四天王の村娘ライフー

黒田悠月
恋愛
魔王四天王の一人ユナ・フリーディアはある日ふと、気づく。 あれ?私コレ洗脳されてない? と。 幼い頃から魔王様第一! 魔王様魔王様魔王様!! 全ては魔王様のために! という教育を受けておりました。 つい今の今までそう思っておりました。 だけど……。 気づいてしまったのです。 自分がめっちゃ洗脳されている、と。 別作品が煮詰まりぎみのための気分転換に書いてます。頭空っぽで書いてるので頭空っぽで読んだ方がいいかも。 タイトルちょっぴり変えました。

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

薬術の魔女の結婚事情【リメイク】

しの
恋愛
『身分を問わず、魔力の相性が良い相手と婚姻すべし』  少子高齢化の進む魔術社会でそんな法律が出来る。それは『相性結婚』と俗世では呼称された。  これは法律に巻き込まれた、薬術が得意な少女の物語—— —— —— —— —— ×以下 中身のあらすじ× ××  王家を中心に複数の貴族家で構成されたこの国は、魔獣の襲来などはあるものの隣国と比べ平和が続いていた。  特出した育児制度も無く労働力は魔術や魔道具で補えるので子を増やす必要が少なく、独り身を好む者が増え緩やかに出生率が下がり少子高齢化が進んでいた。  それを危惧した政府は『相性結婚』なる制度を作り上げる。  また、強い魔力を血筋に取り込むような婚姻を繰り返す事により、魔力の質が低下する懸念があった。その為、強い血のかけあわせよりも相性という概念での組み合わせの方が、より質の高い魔力を持つ子供の出生に繋がると考えられたのだ。  しかし、魔力の相性がいいと性格の相性が良くない事が多く、出生率は対して上がらずに離婚率をあげる結果となり、法律の撤廃が行われようとしている間際であった。  薬作りが得意な少女、通称『薬術の魔女』は、エリート学校『魔術アカデミー』の薬学コース生。  第四学年になった秋に、15歳になると検討が始まる『相性結婚』の通知が届き、宮廷で魔術師をしているらしい男と婚約する事になった。  顔合わせで会ったその日に、向こうは「鞍替えしても良い」「制度は虫よけ程度にしか使うつもりがない」と言い、あまり乗り気じゃない上に、なんだかただの宮廷魔術師でもなさそうだ。  他にも途中で転入してきた3人もなんだか変なやつばっかりで。  こんな感じだし、制度はそろそろ撤廃されそうだし。アカデミーを卒業したら制度の通りに結婚するのだろうか。  これは、薬術の魔女と呼ばれる薬以外にほとんど興味のない(無自覚)少女と、何でもできるが周囲から認められず性格が歪んでしまった魔術師の男が制度によって出会い、互いの関係が変化するまでのお話。

悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。

白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。 筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。 ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。 王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

処理中です...