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出会い編

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「適当に」と言ったのに、全力で突っ込んでくるカイル。私の正面まで来たと思ったら、そのまま真上に飛んで左手をかざす。

「"来れ、全てを滅する灼熱の炎よ"」

その呪文と共に魔法陣が展開される。
そして、魔法陣から燃え盛る炎が現れ私を包み込む。

「へ~。中々…」

アリアは、瞬時に周りに展開した魔法壁で炎を防ぐ。視界は炎で塞がれ、カイルの姿が見えなくなる。確かに今の広範囲の攻撃は、相手に傷を負わせる事や、防がれた場合に敵の視界を遮って自身の身を隠す事も出来る戦闘ではかなり有効な手段だと言えるだろう。

「……でもね」

そう呟いて、アリアは右手を自身の背後に向ける。

「殺気が全然隠せて無いよ」

瞬時に展開した魔法陣から風の刃が現れ、炎の壁を切り裂く。その勢いのまま、炎の壁の向こうに居たカイルを襲う。

「っ!?」

カイルは慌てて風の刃を剣で受け止める。
だが、勢いを殺し切れずに五メートルほど吹き飛ばされた。

「攻撃を防がれた後に、視界が遮られてるのを利用した奇襲攻撃は凄く良かったと思うよ。……でも、いくら姿が見えなくても殺気を隠せないんじゃ意味が無いね」

(それにしても……)

少し引っかかる事があったが、カイルの声に気が散る。

「師匠は…どうやって殺気を消しているんですか?」
「私?……う~ん。なんて言えばいいのかなぁ。まぁ、心を常に穏やかに保つ…かな」
「心を常に穏やかに…」
「そう。戦いの時は常に心を穏やかに保つの。そうして感情で見えなくなるモノを冷静に捉える。心を一定に保ってれば殺気なんかも自然と消えるよ」
「成る程…。勉強になります!」

カイルは構えていた剣を下ろし、深く息を吐くとゆっくりと目を閉じた。そうして暫く自然体で深呼吸をしていると、殺気が徐々に消えていく。

(教えて直ぐに出来るようになるなんて…。流石は、勇者候補。素質があるな)

そして完全に殺気が消えると、カイルは目を開け剣を再び構える。その姿は、先程とはまるで別人だ。

「師匠、もう一度行きます」
「どんと来い」

剣に炎の魔法を付加する。
そして、今までで1番のスピードでアリアに近付くと剣で斬りつけて来る。剣とぶつかった魔法壁の部分が、灼熱の炎でゆっくりと焼かれていく。

「…っ!ハァ!」

さらに剣に力を込めたカイルを見る。

「流石は勇者。…だけど」

目の前のカイルの額に手を近付ける。

「まだ周りが見えてない」
「ぐぁっ!!」

その言葉と共に、形のいい額に身体強化の魔法をかけた手でデコピンをする。すると勢い良く後方へ吹き飛ぶカイル。

「……ちょ、ちょっと強過ぎたかなぁ?」

吹き飛んだカイルはピクリとも動かない。急いで近付き様子を伺うと、カイルは完全に気絶していた。

「………良かった、殺して無かった」

ホッとしながら気絶したカイルを家に運ぶ。

(この分だと、暫くは目を覚まさないよね?)

その予想は当たり、カイルが目を覚ましたのは翌朝の事だった。




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