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出会い編

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この世界の人々は、昔から魔王の脅威に怯えながら暮らして来た。

魔王という存在が、いつ何処で、どの様に誕生したのかは誰も知らない。ある日、突然現れ自身を魔王と名乗り魔獣や魔物を操り世界を手に入れようとした。

ーー魔獣。

それは、瘴気に侵された動物達の事だ。
瘴気とは、人々の負の感情の塊の様なものの事である。瘴気に侵された動物達は、瞳が血の様に赤く染まり、全身に黒い靄を纏わせ理性の無凶暴化した獣になる。

ーー魔物。

一般的なスライムやゴブリンなどの明らかに人や動物達とは全く別の姿を持つ異形の生物達の総称である。魔物には様々な種族がおり、動物と同程度な種族から、人と変わらぬ知能を持つ種族まで様々だ。

そんな魔獣や魔物達を従え、魔王は過去に幾つもの国を襲った。人々の抵抗も虚しく、魔王は勢い良く周囲の国を侵略していった。そんな事が何年も続き、人々の心は終わらぬ戦いと、いつ死ぬか分からぬ恐怖で疲れ切っていた。

そんな時だった。
1人の青年が立ち上がったのは。

青年は、故郷を魔王により滅ぼされ復讐を誓い戦いの日々を送っていた。そうして、魔王に蹂躙された様々な国や村などを見ているうちに強く思う様になった。


『このままでは、人々の心が絶望に折れてしまう。今、彼等に必要なのは彼等を導き希望となれる強い光の象徴だ』


青年は魔王を倒す事を人々に約束した。
それは、村を滅ぼされた青年の復讐でもあったが、何より悲しむ人々を絶望から解放する為に。青年は、旅の途中で出会った仲間達や手に入れた聖剣と共に魔王に戦いを挑んだ。

ーーそうして激しい激闘の末に、遂に青年は魔王を倒した。

魔王を倒した青年を人々は心から感謝し、敬意を込めて「勇者」と呼んだ。
勇者はその後、仲間と共に魔獣や人々を襲う魔物の残党を倒し続けた。しかしある時、倒される瞬間に上位種族の魔物が勇者に向けて言った。

『憎き勇者とその仲間達よ。今のうちに、仮初の平穏を楽しめ。どれ程の時間がかかろうと、必ず魔王様は復活しこの世界を手に入れる』

その言葉を聞いた途端、勇者達の脳裏に声が聞こえて来た。


ーー我、終らぬ生を持つ者なり。例え肉体が滅びようとも、この魂は未来永劫消える事は無い。いつの世か、我は再び戻って来る。この世界を手に入れるまで、我は必ず甦る。


この言葉は、世界のすべての人々にも聞こえていた。人々は、またあの絶望と恐怖の日々がやって来るのかと怯えた。そんな人々に向かって、勇者は静かな、しかし力強い声で語った。


ーー例えこの先、魔王が再び現れ世界を恐怖に落とし入れたとしても怯える事はない。再び私と仲間達が魔王を倒して見せよう。もしも、私達の遠い子孫の代で甦ったとしても恐れることは無い。その時、必ず新たな勇者が人々の中から現れるだろう。強い力と心を持ち人々を導く私達の希望の勇者ひかりが。


二百年後。


再び甦った魔王と新たに誕生した勇者との戦いが始まった。

ある時は勇者が。
またある時は魔王が。

その戦いが、今再び始まろうとしていた。






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