ちょっとハッとする話

狼少年

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摩訶不思議な冷蔵庫

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去年の8月の事だ。僕は、その当時付き合っていた彼女の家の模様替えをしていた。
彼女とはまだ付き合って日が浅く、彼女の家に上がったのはそれが初めてだった。
なんでも折角付き合ったのだから、2人で部屋を作り変えたいとか。なるほど……可愛いなと思い、僕は思いの外張り切っていた。
2人してお互いの距離感を確認しながら、家具やベットの位置を決めていく。冷房の設定温度は18℃だったが、なにぶん炎天下の真夏。鉄筋コンクリートのアパートの一室の温度は一向に下がらず、小さな室外機は休む事なく動き続けていた。

「はい!どうぞ~~」

汗だくになって小休憩をしている僕に、彼女が麦茶を入れてくれる。
一気に飲み干すと、もう一杯とおかわり。
笑う彼女を横目に、2杯目の麦茶も一気に飲み干すと、残りは自然とそれに目が行く。

実は、家に上がった時から気になっていた。普通、冷蔵庫と言えばキッチンから手の届く範囲に配置するものだ。彼女の家の間取りは狭いながらも1DK。それならば自然とキッチンの壁際がベストポジションになるのだが……どういう訳か冷蔵庫は、ダイニングルームの真ん中に聳え立っている。
おかげでダイニングにはテーブルを置く事が出来ず、全く持って機能していない。

それなのに彼女は、ベットやTV、他の家具達の配置は、あーでも無い、こーでも無いと考えているのに、肝心な冷蔵庫の事は全く触れない。何故だろう??まぁいいか……

「冷蔵庫さぁ~キッチンの方に動かしていい?」

軽い感じで僕が問う。

「冷蔵庫はそのままでいいよぉ~」

さらりと彼女は断ってきた。

はぁ?と思う………いやいやだっておかしいでしょ……流石に……

「でもさぁ~キッチンの方にスペースがあるから、そこに入りそうだけど、ほら見てココとかどう?」

僕が彼女に勧めたのは、この部屋を設計した人がココに冷蔵庫を置いて下さい。と丸わかりの意思表示がされた場所だ。その理由にアース線を付けれるコンセントが、身長より高い所に設けられていた。

彼女は、一暼するがスタスタとダイニングに戻って行く。

「いいでしょ?動かすよ?」

首を横に振る彼女。

「え~~。でも、絶対あっちのが使いやすいって!」

「冷蔵庫はこのままがいい……」

「いやいや……待って待って。どう見てもこれ!冷蔵庫が圧迫してるから。テーブルも置けないし、ね?」

食い下がる僕に、突然、彼女がブチ切れた。

「冷蔵庫はここで良いって言ってるでしょ!!!」

それなりに楽しんでいた模様替えは、そのまま中止となり、僕は部屋を追い出された。その後、こちらから連絡をしても彼女からの連絡は無く、結局、自然消滅という形になってしまった。

ー時は流れー

最近、友人に彼女が出来たらしく自慢げに僕に語って来た。
友人曰く
「この前さぁ。初めて彼女の家に遊びに行ったんだけどさ。まぁ遊びに行ったって言っても半分は部屋の模様替えの手伝いなんだけね。なんでもさ……折角付き合ったんだから、2人の部屋にしたいとか言われたら、面倒臭いけどやるしかねぇじゃん」

ん?それって……まさかな。と思い続きを聞く。

「だけどさぁ。なんか知らねぇけど冷蔵庫が部屋の中央にあって邪魔だなぁって思ったんだけど……冷蔵庫って重いじゃん。1人じゃ動かせず困ってるのかなぁとか思った訳。だけど、彼女がそのままで良いって言うからさ。本人がいいならまぁいいかって思って。お前ならどうする?」

ポンッと、友人の肩を叩き
「お前が正解だよ」
と僕は答えた。





数日後。

友人がアパートの一室で発見される。
不自然に置かれた冷蔵庫の中で……
その部屋はここ数年空き部屋だったらしく、大家さんも、何故部屋の中央に冷蔵庫が置いてあったのかは謎だと言った。
そんなバカな話があるかと思い。僕は、友人が発見されたというアパートに行ってみる。周囲には規制線のテープが貼られていたが、それは間違い無く僕が彼女に追い出されたアパートだった。

何だ?どういう事だ?

冷蔵庫の位置…
移動するのを頑なに拒んだ彼女…
エアコンを入れても一向に冷えない部屋……
幾ら飲んでも全く潤わない喉……
そして……思い出そうとしても浮かんで来ない彼女の顔……
一体僕は、あの部屋で誰と何をしていたのだろうか?
友人は、発見時、綺麗に折り畳まれて冷蔵庫の中に詰め込まれていたという……
もし僕が彼女の言いなりになっていたとしたら、冷蔵庫の中に詰め込まれていたのは僕かもしれない。



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