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第7話

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7     己の生き方とゴブリン達

 クネクネと尻尾を揺らし、ピンと立った猫耳。

 金髪の髪はセミロングで、左手で髪の毛を弄り、右手には血が滴り落ちる剣を持つ。

 白いチュニックは真っ赤に染まり上がり、頬に飛んだ血を舌で舐めたら血の味がした。

 味覚もしっかりとある。

 人間の五感の中で、味覚を感じた時が、
 1番現実を実感出来ると痛感した。
 



    嗚呼…俺、生きてるわ…





 何処ぞ?の世界で、右も左もわからないまま、死にたくはないし、嫌なモノは嫌だ。

 世界の破滅?

 そんな大それた事……俺には関係無いと思いたいし、他にも転生者がいるなら誰か止めるだろ?
 
 俺がやらなければいけない訳じゃ無いだろ?
 別に自由に生きていったっていいんじゃないか?

 なら…楽して楽しく生きて行きたいわ。

 そう!俺は楽して生きて行きたいんだ!!



 天を仰げば、空は青くて、遠くには大きな入道雲が見えた。

 その下には、

 あれが北の森か…。

 遠くを見やる俺。

 足元には2つ死体が転がっていて、馬車の荷台は血の海だ。
 
 凄惨な現場、凄惨な光景。
 
 そこに平然と立っている自分にビックリしつつも、凄惨な現場に立つ猫耳の美女。

 きっとこの光景は俯瞰的(ゲーム的)に見たら絵になるななんて思ってしまう。

 「ひ!?」
 「ひ、人殺し!!」

 御者が大声で叫んだ。
 
 御者の目には俺が人殺しに映ったんだろう。まぁ実際、人を殺したのだから人殺しか…。
 
 さて、どうするか?言い訳したところで一部始終を見ていた御者を言いくるめれる訳が無い。
 
 なら、御者の心も読んでみるか?などと考えていると、

 
 ドクンッ!!!


 まただ、俺の心臓が高鳴る。

 『敵意を感知しました』

    頭に響くは管理者セナの声。

 敵意?御者が?

 いやいや、それは無い。

 御者は完全にビビってしまって今にも腰が抜けそうだ。
 俺に敵意を抱ける状況では無い。
 見れば一目瞭然。心読を使うまでもない。

 という事は…俺は周りを見渡す。と同時に、発達した猫耳が周りの音を聞き分けた。

 『カサッ』


 『カサッ』
       
         『カサッ』

 何者かが音を立てないように草むらの中を移動している。

 1、2……3、4、5。

 気配は5つか。


 御者がそんな気配なんかに気付く訳も無く、コチラに警戒しつつも、ゆっくりと馬車の運転台から降りようしている。

 「おい。あんた」

 俺は御者に声をかけた。

 「ひッ!」

 御者はビクッと反応した後、全力で馬に駆け寄りワークハーネス(馬と馬車を繋いでいる道具)を必死に外そうとしている。

 「くそッ!!」

 それがどうも固いらしく、外せそうに無いとすぐに諦めると、御者は草むらの中へと飛び込んで行った。


 それから、御者の悲鳴と奇妙な鳴き声が聞こえてきたのはすぐの事だ。

 「だ、だれか!!ゴッ、ゴブリンだ!!」
 
    「ゲギャギャギャア」
 
    「ひっ!」
 「助けて!!」
 「や、やめて」

 前方の草むらが激しく揺れている。

 『ボキッ」『ボコッ』と何かを殴る音が聞こえ、やがて聞こえなくなった。

 御者はゴブリンに殺されたと思われる。

 何故?

 何故?ゴブリン達は人を襲うのか?

 1つの疑問。

 それに対し、俺は仮説を立ててみる事にした。

 もしも、ゴブリンが人を喰らう事を目的として襲ってくるというのであれば、ココにあと2つ丁度いい死体が転がっている。
 なら、コイツを渡してやれば、そしたら俺にまで危害を加えて来ないかもしれない。

 ゴブリン達の戦闘能力がわからないまま、5体1で戦うのはあまりにもリスキーだ。

 俺は足元に転がる死体を、馬車の外へと足でズリ落とした。

 数十秒後ーー

 草むらの中から3匹のゴブリンが現れた。

 「「「ゲキャギャギギャギャギャ」」」

  とコチラを警戒しながら、死体に近づいて来る。

 コレがゴブリンか、醜悪だな。

 黄緑色した小さな小鬼だ。

 頭が異常に大きく、目は吊り上がり、耳は鋭角に尖っている。額からは2本の角を生やし、体躯は小学生くらいだろうか?

 手には棍棒を携えて、ボロ切れみたいな布を腰に巻いていた。
 
 どう見てもあまり知能が発達しているとは思えない。

 ゴブリン達は死体に近寄り、コチラに向かって「ゲギャゲギャ」と威嚇しながら、死体の足を持つと、死体を引きづりまた草むらの中へと消えて行った。

 
 周囲からゴブリン達の気配が完全に消えたのは、それから数分後の事だ。

 ホッと胸を撫で下ろし、1つ大きく息を吐いた。

 時間にしたら、30分も経っていないだろう出来事。

 だが、その30分の間に、人を2人殺し、助けを求めた罪の無い人を見殺しにして、ゴブリン達に死体を譲り渡した。

 自己防衛とは言えやってる事は鬼畜以下だなと改めて思い返す。

 まぁ…

 いいか…

 ここは異世界だ。

 この世界の文明がどれだけ発達しているかはだいたい想像が付く。

 馬車とか、剣とか、この土の街道にしたって、それ程文明が発達しているとは思えない。ましてや防犯カメラがそこら中にあるなんて事はありえないだろう。

 この世界に法というもの自体があるかどうかはわからないが、

 事実無言にすればいいだけの事。

 幸い、事実を知っている人間は俺以外皆死んだ。

 考え方も鬼畜か…

 と、嘲るように自嘲した。

 「ふふ……」


 そんな事より、俺が馬車の外に殴り飛ばしたA男の存在が気になる。

 とりあえずA男を探すか……

 俺は馬車の荷台を降りて、来た道を戻りながらA男を探す事にした。

 

 
 
 
 


 
 


 



 



 
 
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