犯罪カウンセラー

一宮 沙耶

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第8章 パラレルワールド(回想)

3話 サッカー選手の彼

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 会社は次の就職先を斡旋してくれたけど、写真のことを知っているのか、なかなか決まらずに日々が過ぎていった。そんな私ができることといったら、女性としての体を活かすことぐらいしか思い当たらず、夜の街で働くことにした。
  
 キャバクラは分かりやすかった。私の体目当てでお客は来て、とは言ってもエッチするようなところまではいかず、きゃっきゃ話してお金をもらうというシステムだもの。簡単だし、トップになるとか考えなければ、それ程がんばんなくても、それなりの給料は稼げる。

 でも、男性って、本当に、女性の顔と体だけしか見えないのね。顔は、ラッキーなことに私はそれなりだし、胸の谷間とかを少し見せれば、いくらでも男性はチヤホヤしてくれる。

 ももに手を置いてくる時とかは、ホテルに行こうとか言われないように、嫌われない程度に、適当にあしらわないといけないんだけど、1時間ぐらい一緒に話して、こんなにお金くれるんだったら、楽な商売だと思う。

 嫌な時も、笑顔見せて、そうね、そうねって、おじさんの話しを聞くのは疲れるけど、お金がないと生きていけないし、昔いた会社で、みんなからいじめられた時に比べれば楽かもね。

 この職場は、女性ばかりだけど、私は、変わった人と思われて、友達もいないし、いじめる人もいないって感じ。女性どうしの関係って面倒だから、付き合わない方が楽。

 上を目指さなければマウントとかとられなくてもすむし、ぼっちが好きって言って、無愛想なふりしていれば、あえてマウントとか取ってこなかった。

 別に、ぼっちでもいいし、いつもは寂しいと思わないから女友達っていならないけど、寂しい時もある。だから、彼って必要なのよ。早く、私を支えてくれる彼が欲しい。私の話しを聞いてくれて、一緒に笑ってくれるような彼が欲しい。

 そんなことを思っていたある日、テレビでも見たことがあるサッカー選手が私の横に座った。私はサッカーとかよく知らないんだけど、結構、点を入れたとかでテレビで解説者が取り上げている、すごい選手らしい。

 なんか、私のことを気に入ったらしくて、よくお店に来てくれたの。彼の話しは、他のおじさん達と違って、とっても面白かった。海外遠征の時の出来事とか、同じチームメンバーのドジな話しとか、いつも自然と大笑い。

 とっても大切な試合で、ある選手がトイレに行きたくなったんだけど、行けなくて、グラウンドでしちゃった話しとか笑っちゃった。しかも、大だったんだって。

 店長からは、あまり、本気にならない方が楽だよとかアドバイスされたけど、自分の気持ちを抑えられなかった。それでも、他のお客を接客している時に、彼が来ないかって入口をしょっちゅう見るのは、今のお客に失礼だからやめろと怒られた。それはそうね。反省します。

 でも、毎日、今日は来るのかなって、いつも彼のことで頭がいっぱい。そんな時、彼がきて、私を指名してくれた。10分ぐらい、今のお客と話して、次がと言って彼の席に移った。そして、彼に、今日1日に何があったのか聞いて、すごい、すごいと楽しくいっぱい話した。

 そしたら、今日は、この後、お寿司でも食べに行こうとって誘われたの。店長に相談すると、今後、同伴にしてもらいたいけど、今回は、そのための営業ってことで、行っておいでと言われた。
いいんだって、少し不思議に思ったけど、それならって思って、一緒に出かけた。

 彼について行って、一緒にお寿司屋さんに入ると、とっても高級店で、こんな美味しいお寿司食べたの初めてって感じ。彼も、そんな喜ぶ私を見て嬉しそうで、盛り上がった。そして、夜もかなり遅くなったので、二人でホテルに行き、一晩を過ごした。

 彼が取ってくれた部屋はスイートルームで、東京タワーとか、夜景がとっても綺麗だった。こんな生活があったんだってびっくり。部屋に用意されたシャンパンで、再び乾杯して、ブリーチーズをつまむとか、とってもおしゃれ。

 サッカー選手って、ピンからキリまであるんだろうけど、人気が出ると、本当にお金持ちだと初めて実感した。こんなホテルなんて、この人にとっては、端金なのね。頼もしいと思っちゃった。

 また、彼は、スポーツ選手なんだから、当たり前だけど、筋肉も立派で、私のことぎゅっと抱きしめてくれたことも嬉しかった。とても素敵な夜を過ごせた。

 サッカー選手って、女にだらしないとか、パリピとかよく聞くけど、彼は、とってもジェントルマンで、私には優しくしてくれた。いつも、私の気持ちを考えて、大切にしてくれた。正面から、私のことを考えてくれたの。

 そんな彼に少しでも愛されたいって思って、私も、サッカー選手として活躍するための栄養とか、勉強して、彼のサポートの時間を増やしていった。

 海外も含めて遠征とかが多いけど、みんなにバレないように、ついて行って、応援席で応援したり、フリータイムには一緒に買い物したりとか楽しい時間を過ごした。とっても、充実した日々だった。

 彼も、私の努力を認めてくれて、同棲するようになったんだけど、週刊誌とかで話題になる前に結婚しようと言ってくれた。やっと、私にもその時が来たのねって、飛び上がっちゃった。

 これが、私の運命だったのね。これまで、いろいろあったけど、このための準備というか、不幸だった時期へのご褒美というか。やっと、私にも幸せが到来したってわけね。これまで、本当に大変だった。

 そして、彼と一緒に、彼のご両親に会うことになって、ご実家にお伺いすると、とっても暖かく迎えてくれたわ。キャバクラとかは言いづらいから、前の会社で勤めていて、息子さんと出会って、今は辞めて息子さんと同棲しているということにしておいたわ。

 でも、それを信じてくれて、息子さんが更に活躍できるよう、これからも、日々サポートしますって言ったら、結婚を認めてくれるって言ってくれた。あまりに嬉しくて、ご両親の前で泣いちゃった。

 そして、実家の彼に部屋に行って、昔の写真や、子供の頃のサッカーボールとか見せてもらった。これから、この人との生活が始まるのね。彼は優しいし、なんでも私の話しとか聞いてくれるから、毎日、笑顔で過ごせるわ。やっと、私も幸せになれる。

 でも、1ヶ月ぐらい経った時に、彼のご両親から呼び出されて、昔、撮られた写真を前に出された。こんなことをする人だとは思わなかったと言われ、200万円渡すから、彼に何も会わずに、消えてくれと言われた。

 その写真は、私が知らないところで撮られて、私のせいじゃないですって言ったんだけど、あなたは、被害者かもしれないけど、隙があったんだろうし、もし、これが話題になったら、息子の人生は台無しになると言われた。

 そうかもしれない。好きな彼の人生をダメにするかもって言われちゃうと、引くしかない。そう思って、彼に言わずに消えることにした。これって、昔の男のせいね。どうして、あんな男と寝ちゃったんだろう。

 老婆には、男運がないからって違う人生をもらったと思うんだけど、こういう人生を期待していたわけじゃないだけどな。今回の彼はとってもいい人だったけど、昔の男運の悪さでダメになったんだし。

 普通の幸せが欲しいだけなの。そのぐらいの幸せな女なんて、どこにでもいるじゃない。

 私は、電灯があるはずなのに、真っ暗にしか見えない夜道を、うなだれて自宅に歩いていった。

 その半年後、週刊誌で、あの彼が女性とホテルから出てきて、結婚か?と話題になっていた。あのポジションは私だったのに。目に涙が溢れた。
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