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第1章 前兆

6話 攻撃

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営業部長の坂上は線虫を研究したいと言って会社を辞めた。
たしかに、人が次々と死ぬ世の中で建設ニーズもなくなり会社にいる意味もなくなった。
昨年度は初めての大幅赤字決算となっていたんだ。
そんな中で、俺も、常務を辞め、会社を去ることにした。

ただ、坂上とは違う。人間を支配する側にいるということだ。
俺は、河田と呼ばれている体を支配し、地球支配に向けて動いている。
こいつは自他共に主体性がなくて、トップ層との人脈もあり、支配には都合が良かった。

ところで、一番、効率がいい栄養の取り方を知ってるか? 肉を食うとか?
そんなんじゃない。肉を消化するのに多大なエネルギーを要する。
一番いいのは、血液をそのまま自分の血液に吸収することだ。
俺達、宇宙人はそのように進化してきたんだ。

だから、地球を通りかかった時に、血液に溢れる人間を見つけた時には興奮したよ。
俺達は平和主義者で、その惑星を攻撃したりはしない。
そもそも、殺したら、血を吸えないじゃないか。

だから、これまでの惑星では、微細なロボットを空中に撒き、脳を支配する。
それだけで、攻撃することなく、穏便にカプセルに寝かせ、閉じ込められた。
そして、餌を与え、血を吸い上げる。それだけで共存関係を構築できた。

お互いに平和だろう。
こうやっていろいろな惑星を支配してきたが、地球は勝手が違った。
地球では、なんと半分以上の人間は死亡してしまった。
貴重な食料源が失われたじゃないか。これから、どうしようか。

残り半分の人はもうこの微細なロボットではコントロールできない。
俺達の支配には全力で抵抗するだろう。

まずは、リーダー格を外していけば、人間は烏合の衆になるのではないだろうか。

それにしても、いつのまにか、坂上は偉くなったものだ。
今回の線虫研究の第一人者として、研究の分野では世界のリーダーとなっている。
俺達には、迷惑な存在だ。まずは、こいつから排除することにした。

俺は、坂上に話したいことがあるとメールを打った。
そして、坂上の研究所のある新宿のカフェに呼び出した。

「お久しぶりです。河田さんは、拉致されたと噂があり、その後は行方不明と思っていたんですが、お元気でお過ごしでしたか?」
「相変わらずですよ。でも、拉致って噂ありましたね。あれは嘘ですよ。誰が、そんな噂流すんですかね。日本は、そんなに物騒じゃないって。そういえば、坂上さんと一緒にでた総理との会食は懐かしいですね。あの鰻、美味しかったな。でも、今井さんは、あの会食でご一緒した総理を殺害したって。あんな可愛い顔をしながら、女は怖いね。」
「今井さんは、そんなことしないですよ。つばを吐いたからって、そんなことで爆破なんてできないでしょう。しかも、つばを吐いたのは、河田さんがそそのかしたからじゃないですか。」
「そそのかしたなんて、悪意がある言葉だね。私が、仲が良い佐藤総理を殺すはずがないでしょう。まあ、そんなことはどうでもいい。それよりも坂上さんは大活躍の様子じゃないですか。TVで坂上さんの名前を聞かない日はないぐらいですよ。」
「ちょうど、多くの人が亡くなっている原因究明をしているからです。ところで、今日はどのようなご用件でしょうか。」
「いや、実は、私の機関でも、今起こっていることの研究・対応をしていて、連携ができないかなと思って。私は、その機関の理事をしているんですよ。」
「そうだったんですね。どのような研究なんですか?」
「私は、坂上さんのように線虫の研究なんて詳しくないから、わからないよ。会社にいた頃から分かっているだろう。私にできるのは、人脈を使い、人をつなぐことだけだ。」
「では、私に何をして欲しいということなのですか?」
「これから吉祥寺にある研究施設に一緒に行ってほしい。そこで、専門家から詳しい話しをさせてもらう。」
「吉祥寺は、そんなに遠くはないですが、これからというのはいきなりですが・・・。」
「まあ、人類の生死に関わる重要なことだ。まあ、吉祥寺まで車で30分ぐらいだし、そんなに些細なことを気にしなくていいでしょう。」
「わかりました。行きましょう。」

坂上を連れて吉祥寺の施設に連れて行った。
なにを考えているんだって?
そこで、坂上には、今回、感染しなかった人でも感染させる次世代ロボットを入れる。

次世代ロボットの成果を実験するには、被験者を坂上にするのがちょうどいい。
坂上を感染させて、脳をコントロールできるか、拒否反応で死亡させてしまうのか。
どちらでも、俺達には有利にできる。

「着きました。ここです。入ってください。」
「ここはシティーホテルみたいですが、河田さんの研究所なんですね。たしかに、研究者が行き来していますしね。」
「見た目が気になっているのかい。大勢がなくなり、休業となったビルを我々の機関が買い取ったんですよ。今どき、研究できればいいし、ホテルだから、それなりのセキュリティ対策も講じられている。研究するには、個室がいっぱいあるのは便利じゃないですか。ただ、研究所が狙われたら困るから、ここが研究所だって他言不要ですよ。」
「分かっています。」
「じゃあ、この部屋で待っててください。研究のリーダーを呼んできますから。」

坂上を、白い壁で、何の変哲もない会議室の席に座らせた。
そして、部屋に残ったスタッフが坂上を背後から注射針を刺し、睡眠薬を注入した。
俺達は、坂上の手足を縛り、布の袋で顔を包み、地下1階のゴミ置き場に運ぶ。

そのシティーホテルはもう人手不足で廃業となっていて、地下1階にごみ置き場があった。
そこに、体内に直接入ることができる次世代ロボットを入れた液体を入れておいたんだ。
今回のロボットは空気感染はできずに、直接液体を体内に入れる必要がある。

しかも、その液体の異臭はひどい。注射器に入れても、匂いで気づかれてしまうほどだ。
だから、ゴミで腐った液と混ぜることでごまかすことにした。
そこで、誰もいなくなったホテルに入り込み、そのゴミ収集場所を使うことにした。

俺達は、ホテルの入口や1階の部屋を改造し、研究所に見せかけた。
白衣を着た研究者風の人も行き来させた。
坂上をうまく騙せたのだろう。坂上は部屋の1室に入って行き、拉致することができた。
日本だって、今は物騒なんだよ。警戒を怠ったな。

俺達は、坂上をその液体に投げ入れて、様子を見守った。
坂上は目覚めたようで、液体の中で暴れている。
でも、なんとか脱出できたようだ。

ホテルでシャワーを浴びた坂上はホテルを出ると、眩しそうだった。
その後、後をついていくと、坂上は歩いて自宅に戻った。
俺達の仲間になってくれれば、次世代ロボットは成功だ。

坂上は、どういうわけか、逮捕された井上本部長の弁護士とコンタクトを取っていた。
どうも俺のことも聞いたようだ。
でも、どうでもいい。近い内に、俺達の仲間になるか死ぬかだからだ。

期待とは裏腹に、坂上は1週間後、血を吐き倒れた。
人間を他の惑星のようにコントロールするのは失敗したんだろう。
方針を変えなければならない。

我々は、ニューヨーク、ロンドン、北京、東京等といった首都圏を攻撃した。
首都圏というコントロールタワーを破壊するために。
リーダーを中心に殺し、食料となる人間を維持できるように。

爆風と熱波で、東京、神奈川、埼玉、千葉の大部分は荒野となった。
ただ、山梨、茨木、長野等にはまだ人はたくさんいる。
リーダーを失った人たちが、俺達の能力に怯えて、ひれ伏す世界を目指して。
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