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第6章 女ハッカー

2話 新居

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「わー、ベランダからの眺めが最高だ。最上階で、この部屋から、私だけの広いテラスにつながっていて、プールとかも小さいけどあって素敵。こんなところで、プライベートのカクテルパーティとかするのね。映画みたい。また、部屋もいっぱいあって綺麗だし、これが東京って感じね。ちょっと、この辺、散歩してみようっと。」

 俺は、部屋を一通り見たうえで、部屋を出てマンション周辺はどうなってるのか散歩してみることにした。

「こんなおしゃれなカフェとかあるんだ。いいね。ちょっと入って、カフェラテとか飲んじゃおう。」

 俺がパラソルの下でカフェラテを飲んでると、横に座っている男性と目があって、気まずかったのか、先方からお辞儀をしてきた。

「こんにちは。いい天気で、気持ちいいですね。この季節、とっても気持ちいい。」
「素敵なお嬢さんから声をかけてもらうなんて光栄です。気持ちいい天気ですね。この辺にお住まいですか?」
「ここから10分ぐらい歩いたところに住んでるの。」
「そうなんだ。僕もそんな感じですけど、差し障りがなければ、お住まいのビルとかどこですか?」
「グランドメゾン高輪というところ。」
「そうなんですか。これは奇遇ですね。私も、そこに住んでいるんです。」
「それじゃ、時々合うかもね。お仕事は何やっているの?」
「歯医者の先生です。」
「そうなんだ。じゃあ、お金持ちね。羨ましい。何階にお住まいなの?」
「22階です。ところで、お嬢さんは、学生、それとも働いてるの。何階に住んでるんですか? お名前は? 僕は、斎藤 俊夫といいます。」
「学生とそれほど変わらないんですけど23歳で、IT系の仕事というか、そんな仕事しているの。住んでいるのは25階。名前は 伊東 美奈。よろしく。」
「こちらこそ。最上階に住んでるんですね。綺麗な人だし、お近づきになれたら嬉しいです。LINE交換させてもらっていいですか。今後、レストランとかにお誘いしたいので。」
「やったぁ。私のLINEは、これ。これから、俊夫さんって言いますね。」
「恥ずかしいな。じゃあ、こちらも、美奈さんって呼びます。今日はいい日になった。」

 こいつ、紳士みたいだけど、少しは用心しておこう。エリートの男性って、身勝手で、いつでも裏切りそうだし、俺の顔にだけ興味があるようにも見える。にわかには信用できない。まあ、暴力団よりはいいと思うが。

 この後、この男性とは、週に1回ペースでレストラン巡りと言って、美味しい料理、お酒を楽しむ時間を過ごした。

「美奈さんの年齢だと、そんなに給料は高くないだろうから、最上階に住んでいるということはご両親がお金持ちとかなのかな?」
「両親はもう亡くなっているの。海外で事故に遭い。」
「それは、失礼なことを言ってしまった。」
「いえいえ、もうだいぶ昔の話しだから大丈夫。その時の保険金もあって。また、IT会社と言っても小さなベンチャーみたいな会社だから、日々の給料は少ないけど、ドカンと売れると、そのうち一部が私に入るって感じで、そこそこ収入はあるのよ。」
「そうなんだ。それは立派だ。ところで、彼とかいないの。」
「う~ん。いない。」

 清純な感じの女性が好かれるだろうから、そのように演じた方が得だな。

「逆に聞くんだけど、俊夫さんは、彼女とかいるの?」
「ちょっと前まではいたけど、別れちゃって、今はいない。僕は30歳で、友人とかは、歯科衛生士とか女性が周りにいるからチャンスはいっぱいあるだろうとかいうけど、うちにはピーンとくる人がいなくて、どうしよかなって思っていたところに、とびっきり素敵な美奈さんと会ったということなんだ。」
「それって、付き合ってということだと思えばいい?」
「そうだけど、OKしてくれる?」
「う~ん。どうしよう、うそうそ、付き合おう。」
「今日は、恋人記念日だね。じゃあ、乾杯だ。乾杯!」
「乾杯! うふ。」

 仕事については、別にやりたいことがあったわけではないから、俺は相変わらずハッキングを続けていた。

 そんな中、仕事以外にも、興味本位で、色々なサイトをハッキングしてみると、政治家とか、企業トップとかが、裏献金をしていたり、人を騙す相談をしていたりとかしていて、本当にみんな嘘ばっかり。あんな綺麗なこといいながら、悪どいことばかりしているなと気づいた。

 なんか、底辺で苦労している人が大勢いるし、1円のミスで怒られている人もいるけど、数千万円の裏金とか平気で動いているのをみると、本当にこいつらを痛めつけてやりたい気持ちが溢れてきた。

 そこで、暴力団のオーナーに、ハッキングはしないから、少し政治家を遊んでもいいって聞いたら、見つからなければいいよって言ってくれた。じゃあ、やろう。


 ハッキングで見つけた、金をばら撒いている政治家に目星をつけた。こんな奴は世の中から排除した方がいい。まあ、いつも暴力団と一緒に活動している俺がいうのもなんだけど。

 まず、選挙中の車で住民の方々に声をかける、いわゆるうぐいす嬢として入り込むことにした。佐々木という偽造の履歴書を出したが、すんなり選挙事務所に入り込めた。こんな元気な若い子が、悪さをするなんて思いもしなかったんだろう。

 今朝、みんなには挨拶をしたが、とてもハキハキした、明るい女性を演じたんだ。その後、数日に渡り選挙カーで、住民の皆様に挨拶をし、立候補者をよろしくと美しく透き通る声でご挨拶をした。

 立候補者には、お水とか事務所ではお茶とか、お菓子とかしょっちゅう持っていって、尊敬しています、本当に大変ですね、憧れていますなどと頻繁に声をかけ、胸の谷間とかもあえて見せながら、興味を引くようにした。

 さらに、ネクタイが曲がっていますとバストを近づけて直したり、通常のうぐいす嬢のボトムスはパンツなのをスカートにして、スラリとした足を見せた。やっぱり男だな。政治家の目は俺の体に釘付け。みられているのって、分かるものね。

 もちろん、周りには笑顔を振りまいたが、1人になった時、周りに人がいることを確認して、少し、困惑しているような表情も見せてみたんだ。

 そんな中、数日経った、みんな帰ろうとしていた夜に立候補者から声をかけられた。

「佐々木さん、今日は、配布リーフレットの整理とか、お願いしたいことがあるんだけど、残業、お願いしてもいいかな。」
「もちろんです。」

 リーフレットを片付けて1時間ほど経った時に、立候補者が声をかけてきた。

「お腹も空いただろう。お弁当を用意したから、ビールでも飲みながら、一緒に食べよう。」
「ありがとうございます。では、コップを用意しますね。私は、お酒は弱いので、コップ1杯ぐらいしか飲めませんが。」
「もちろん、それでいいよ。さあ、食べよう。」

 選挙事務所のソファーに座りながら、缶ビールを彼のコップに注ぐのに、体をくっつけ、というよりバストが彼に当たるようにして注いだ。缶ビールを2本ぐらい飲んだ頃に、少しよろけて、彼の膝に倒れかかる仕草もしてみた。

 そのうち、彼は、やや酔っ払ったのか、俺はすごいんだ、これからも俺について来いとか声が大きくなってきたので、少しスカートの裾を上にずらし、ももを見せて擦り寄ってみた。

 そうすると、彼は、俺のももに手をおいて、可愛い子だねと呟いた。

「きゃー。乱暴しないで。」

 俺は、下着が見えるように、ブラウスのボタンを引き裂いて、道路に逃げ出した。もちろん、この時間に、事務所の前に警官が見回りをしていることを知ってのことだけど。

「乱暴されたんです。」

 と泣きながら警官に助けを求めた。これをみた警官は、酔っ払った立候補者を現行犯逮捕することになった。

 俺は、翌日、所長から紹介された週刊誌の記者に、性的暴力を立候補者からされて、さらに、日頃から、車の中でも、住民がいなくなると、横に座れと強要され、ももをさすられ、だけど口に出せなくて苦しかった、許せないとさめざめと泣く演技をした。

 これが、選挙中の性犯罪事件と大話題になり、もちろん、この立候補者は立候補資格を取り消されてしまった。それから、数日後、彼は自殺したと報道があった。

 自殺したのは後味が悪かったけど、期待の成果が出せたじゃないか。まあ、俺の実力はこんなもんだよ。そして、自分の部屋で祝杯をあげた。
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