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第3章 ハッピーエンド

1話 暴力を受ける日々

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 僕は、いつもいじめられていた。高校3年の教室では、はぶられたり、教科書に落書きされたりは毎日のこと。今日は、町工場の裏にある空き地に連れられて、5人に囲まれ、殴られたり、蹴られたり。倒れて、意識が朦朧としてきた。

「やばいよ。これ以上やると死んじゃうぞ。」
「大丈夫だ。そんなに簡単に死なないさ。」
「だって、顔はこんなに腫れてきたし、お腹おさえてもう立てそうにない。」
「そろそろ、許してやるか。お前は、何やるにしても、ぐずぐずしてイライラするんだ。お前のせいだぞ。」
「行こうぜ。」

 これで僕の人生、終わっちゃうのかな。もう目も見えないや。口から血も出て、息もしづらい。何が悪かったんだろう。頑張ってきたのに。でも、仕方がない。嫌われる僕が悪いんだ。でも、こんなに身体中が痛くて死ぬのは嫌だ。

 僕の人生って、なんだったんだ。親から愛された記憶もないし、女性を好きになったこともない。この世の中で、存在していたんだろうか? 意味なんかないのかもしれない。そう、水が上から下に流れるように、ただ、生物として生まれ、死んでいくだけ。

 僕だって、普通に過ごしたかったんだ。少し、自信がなくて、いつも、自分の意見とか言えなかっただけ。それって、そんなに悪いことなんだろうか。それを、ウジウジしてるとか、暗いとか、そんなこと言わなくたっていいだろう。

 あいつらも、日頃の不満を誰かに八つ当たりしたかっただけなんだと思う。その標的に僕がされただけ。僕は、それをヘラヘラと、ごまかしていたんだけど、それが悪かったのか、どんどんエスカレーションしていって、しょっちゅう殴られるようになった。

 親にバレないように、家に帰るとすぐに部屋に入り、親とは話す時間も少なくなった。学校の先生にも、殴られたあざとかは隠して過ごした。でも、それが、いじめる人の気を逆撫でたようで、僕への暴力は、日に日に、大きくなっていたんだ。どうすれば、よかったんだろう。

 僕1人で我慢してるのが一番いい。高校生活も、あともう少しだ。それで、高校生活が終われば、ゼロクリアになる。ただ、僕の心は、日々、すり減っていった。学校に行きたくない。

 不登校になった僕の家に、同じクラスのいじめっ子が来て、玄関のベルを鳴らした。僕は居留守を使っていたけど、クラスメートが、石とかを家に投げつけ始めたので、仕方がなく家を出た。

 そして、町工場の裏に連れ込まれたんだ。もう、体が痛くて、動けない。だんだん、意識はなくなっていった。そして、気を失い、気づいたら病院にいた。

 松葉杖をつきながら自宅に帰る道で、夜はふけていった。もう、こんな人生は嫌だ。自殺したい。そんなことを考えているときに、知らないおじさんから声をかけられたんだ。人生をやり直さないかって。

 にわかには信じられなかったけど、自殺する前に試してみるもの良いと思い、おじさんが差し出す赤い薬を飲んだ。そうすると、深い眠りに落ちていき、起きたら、女性の声が遠くから聞こえてきた。

「理恵ちゃん、早く起きなさい。学校、遅れるわよ。」

 え、理恵ちゃん? どこの子だろう? 僕の家の周りにそんな子いたかな? でも起きないと。そういえば、さっきまで怪我をしていたけど体は痛くない。

 起きたとき、鏡の前で立ちすくんでしまった。なんで、鏡に女の子が映っているんだろうか。いや、僕だ。どういうことだ? 明らかに、鏡に写っているのは、パジャマ姿の女の子で、僕が手を挙げると、鏡の女の子も手を上げる。

 周りを見渡すと、僕の部屋じゃない。部屋には女子校の制服がハンガーにかかっていて、棚の上には、女性の下着や服が無造作に積み上げられている。僕の部屋は、こんな雑然とはしてない。

 しかも、積み上げられている衣服は、いずれも女性のもので、パンツとかはレースもののように見えて、初めてみるものだった。

 また、学校のカバンには、アニメキャラのマスコットが付いていたり、机の上には猫のぬいぐるみとか置いてある。どうみても女の子の部屋だ。

 そして、体も、女性としか言いようがない。胸は重く、下をみると、ストンと何もなく、そのまま足が見える。顔は、やや地道だが、髪の毛は長く、女性の顔つきだ。どういうことなんだ。

「何やっているの。早く着替えて、朝ご飯食べなさい。」
「はい。」

 自分の声も女性で、要領を得なかったが、まず、学校に行かなくてはいけないらしい。まず、パジャマからハンガーにかかってる学生服を着ることにした。

 ハンガーにかけられていたブラウスを着ようとしたが、ボタンが逆でやりにくい。そして、スカートを履こうとしたが、履き方がよくわからない。なんとか靴下も履いてキッチンにきた。

「何、寝ぼけているの? ブラつけてないじゃない。タンクトップもつけないと。バスト、ブラウスの隙間から見えてるでしょ。恥ずかしわよ。しっかりしなさい。」

 え、ブラって、ああ、ブラジャーのことか。部屋に戻って、なんとなくこんなん風に付けるのかなとがんばった。そして、タンクトップってよくわからないけど、下着かなと思い、無造作に置かれた白いものを着てキッチンにやってきた。

「もう時間だから、牛乳だけでも飲んで行きなさい。ブレザーも着なさいね。早く。」

 何が何だかわからずに家を追い出された形だったが、学校はどこだろう。カバンにあった学生手帳を見ると、清和女学院の高等部3年B組と書いてある。スマホで調べると、井の頭線の三鷹台駅で降りて、そこから歩いて5分ぐらいの所だ。

 スマホは、自分の顔認証で開いた。今、どこだろう。地図アプリを開くと、現在位置は、永福町の近くで、6駅で着くようだった。スマホのアプリをみると、Suicaで、その経路が定期券として登録されている。まずは、三鷹台駅に向かった。

 電車は満員電車で、これまで気づかなかったけど、自分の背は低くて、なんか大きな男性の中で息苦しい。カバンを胸の前で抱え、揺れる電車の中で立ってるのが精一杯だった。

 どうして、こんな格好で、電車に乗ってるんだろう。何もかもがわからない。

 三鷹台でやっと電車を降りて、スマホの地図をみて学校にきた。女子校って、こんな感じなんだ。みんなが、友達と明るく笑いながら学校に入っていく。なんか、楽しそう。これなら、人生のやり直しができるんじゃないだろうか。神様が不幸な僕にくれたご褒美かもしれない。

 入口で、上靴に履き替えて3年B組と書かれた教室に到着した。ここまで来るだけで、もう1日分の力を使い切っちゃったみたいだ。さて、どうしよう。

「あ、理恵、おはよう。」
「おはよう。」
「なんか、髪ボサボサじゃない。寝坊した? あ、呼ばれてる。じゃあ、また後でね。」
「私の席って、どこだったっけ?」
「何、ボケてるの。ここでしょ。頭でも打った? 今日、変じゃない?」
「あ、そうだった。」

 授業が始まり、なんかスカートって足が落ち着かないし、ブラは締め付け感あるしって、違和感満載だったけど、そうこうしているうちにお昼休みになった。

 また男性の自分に戻っちゃうかもしれないけど、今日1日はこの体で過ごすことになりそうだ。前は、引っ込み思案で、クラスの人達にいじめられていたけど、ここで挽回できるかもしれない。まずは、明るくして、みんなと仲良くなってみよう。

「ねぇねぇ、一緒に食べない?」
「あれ? いつも1人で食べてる理恵が、どう言う風の吹き回しなの。まあ、いいか。ここに座れば。」
「お邪魔します。美味しそうなお弁当。」
「あげないよ。」
「そうじゃなくて。」
「そういえば、A組の美沙、大正高校の男性と付き合っているんだって。やるよね。」
「そうなんだ。大正高校って、荒れてる高校じゃない。でも、そっちの方が、男らしいかもね。筋肉ムキムキとか。いやだ~。」
「知らないけど、この前、映画一緒に行って、キスしたとか言ってた。」
「え~、いいな。私も彼、欲しい。」

 お弁当を食べているとき、ずっと恋バナの話しで盛り上がっていた。女性どうしって、こんな会話をしているんだ。今日は、周りを観察することに集中しよう。でも、なんとなく、会話は上滑りしていて、素敵と言葉では言っていても、なんとなく、本気でないように感じたのは、どうしてだろう。

 私は、前の人生での反省から、できるだけ自分の意見を言うようにしてみた。誰かが話すと、それは違うと思う、それって、こうしたらいいんだよとか。ずっと、その調子で話していたら、なんか雰囲気が悪くなってしまったんだ。

「そろそろ昼休み終わりだし、私、トイレ行ってくる。」

 これを契機に、みんなも解散していった。そして、戻ってくると、後ろの方の席から話しが聞こえた。

「理恵って、雰囲気悪くなったよね。もう、お昼一緒にするのやめようよ。」
「もともと、そういう人だったんじゃない。これまで話すこと少なかったし。」
「そうよね。これからも、昔のように1人でお昼食べてればいいのよ。」

 あれ、どうして、そうなるんだ。自分の意見をしっかり言っただけなのに。また、そう思うんだったら、直接言えばいいのに。わざと聞こえるように、遠くから言うなんて。なんか、女性のコミュニケーションの取り方がわからない。

 なんか、さっきまで華やかな空間にいると思ってたけど、僕に対する視線が突き刺すように思えて、居心地が悪くなった。そして、午後の授業が始まった。僕は同じ高校3年生だったから、特に苦労もなく、先生から当てられても、スラスラと答えることができた。

 これも反感を買ったみたいだ。休み時間になると、さっきの子とは違うクラスメートが、ちょっと頭がいいからって図に乗ってなんて、聞こえるように言っていた。なんか、どんどん悪い方向に行ってるみたいだ。今なら、軌道修正できるんだろうか。

 そうこうしているうちに授業は終わった。本当に疲れた。やっと、これで家に帰れる。僕には、みんなと仲良くする能力が欠けてるのかもしれない。

 学校の正門を出たけど、なんとなく今日は気が晴れなかったので、渋谷の町をぶらぶらしてみることにした。

 渋谷の街には、この時間、学生が溢れていた。そして、歩いていると、知らない男性から、TVに出てみないかと、何回も声をかけられた。女子高生って、そんな感じなんだ。そして、これまでみたこともなかった、レディースの服の売り場を歩いてみたんだ。

 時々、試着とかして、これって、こんな風になるんだとか確かめながら。試着室で、僕って、女性になっちゃったんだなって今更に感じた。でも、そんなに嫌でもなかった。そもそも、僕は、生きていくこと自体に絶望を感じてたから。もう一回、やり直せるなら、それだけで嬉しい。

 でも、女性になったら、生まれ変わって、みんなに好かれようと思ったけど、今日は完全に失敗だ。これから、上手くいくんだろうか?

 そんなことを考えて、ボーっとお店の中で歩いていたら、30代ぐらいの女性とぶつかってしまい、その女性は持っていた花束を落としてしまった。

「気をつけなさいよ。」
「すみません。」
「あんたね。お花が傷んじゃうじゃない。ブスがいくら着飾っても、綺麗になれないのよ。このお店はあなたには合わないわ。うちに帰りなさい。」

 僕が悪いんだけど、そんな言われ方をするほど、悪いことをしただろうか。なんか、女性って、思っていた、いつも笑顔でキラキラしていたイメージとは違ってる。今日は変な人とばかり会っているのだろうか。

 そんなことを考え、渋谷から永福町に帰り、家に着いたのは18時ごろだった。親は両方とも働いているようで、家には誰もいなかった。そして、テーブルの上に、夕食が載っていて、チンして食べてねとメモが置いてあった。

 自分の部屋で制服から着替え、お風呂に入ってから夕食を食べることにした。そもそも、女性の体ってどうなってるんだろう。一通り、みたり、触ったりしたけど、下半身は、思ったのとは違っていて、結構、グロテスクなんだなっていうのが第一印象だったかな。

 肌は、皮膚が薄くてきめ細やかという感じはした。髪の毛は、多い分、暑い感じがする。

 夕食を食べた後は、ベットでゴロゴロしていた。今日、学校で少し調べたけど、この学校は、普通の成績なら推薦を受けて、そのまま系列の大学に行けるんだって。そして、僕は、その推薦枠に現時点では入っているらしい。だから、そこそこ勉強していれば受験はしなくていいことがわかった。

 なんかベットで横になって、コミックとか読もうと思ったけど、部屋にあるのは女性コミックばかり。なんか面白いことがないかななんて考えていたら、男性の時は、一人エッチをしたけど、女性ってどうなのかななんて思いついて、試してみることにした。

 やり方がよく分からなかったけど、触ってるうちに、声が出てる。親がいないから、そのまま続けていたら、体が震えて、中で何かが爆発した。なんか、頭の中で火花が散って、自分が抑えられなくなった。まだ体が痙攣している。

 気づかなかったけど、体はのけぞっていて、これが女性の一人エッチなんだって初めて知った。

 ところで、理恵っていう子の心はどうしっちゃったんだろうとは思った。だけど、考えたからってわかることじゃないし、考えないことにした。

 そして、今日は、しゃべり方が少し浮いていたのが気になったから、女性の言葉づかいを学ぼうと思って、ネットで女性が話してるのを真似して言ってみる練習をした。

 そして、疲れて、ベットで休んでると、いつの間にか、眠りに落ちていたんだ。
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