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楽先輩と部屋で二人きり
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しおりを挟む【明日の土曜日ケーキ屋さんに行かない?寮を出た所で待ち合わせして、一緒に駅まで行こう】
というメールを貰った、木曜日の夜。
そして今は、金曜日の朝。
メールに気づいたのは今朝で、寝ぼけた頭にガンと衝撃が加わった感じ。だって、なんか……本当に「デート」の約束みたいで。
楽先輩の文字を読んだだけで、全身が温かくなるような。そんな甘さを覚える。
といっても。
ガンッ
「イッタ……」
「あ、悪い。そこにいたのか芽衣」
「~っ!!」
登校して、自分の席に着いた途端。頭に鈍い痛み。見上げると、声宮くんのカバンの角が、私の後頭部を直撃していた。
「もっと謝ってくれても……」
「え?もう一回お化け屋敷に行きたい?」
「い、行きたくない!」
あんな怖い場所は絶対に行かない!と、机に置いたままの自分のカバンをギュッと抱きしめる。
その時、大きな歌沢くんの人形が、私の腕からはみ出た。もちろん、目ざとい声宮くんが、ぬいぐるみを見逃すはずがない
「お前、その人形なんだよ。大きすぎねぇ?それに、人形の顔……」
「大きいのが可愛いんだよ。そう。これは歌沢くんだよ。昨日買ったんだ~」
「……疲れたマラソン大会の帰り道、わざわざ買いに行ったのかよ?」
「? うん」
本当は、マラソン大会の途中で買ったんだけどね――とは言わないまま。歌沢くん人形をなでなでする。
すると、声宮くんお決まりの舌打ちが聞こえた。「チッ」と。大きな音に、私の体がビクッと跳ねる。
「気に入らねぇ。好きでもない男の人形を引っ提げて、何が嬉しいんだか」
「え?私は歌沢くんの事、好きだよ?」
「……は?」
「ファンとしてだけど、わぁ!?」
最後の言葉は声宮くんに届かないまま……
ガシッと。私の腕が彼に掴まれ、強引に引っ張られる。その力が強すぎて、私は思わず目を瞑った。
次に目を開けた時。
思った以上に近い距離に、声宮くんがいた。その時の彼の目は……言うなれば、逆三角形。怒っている目だ。
「こ、声宮くん……?」
「……」
「(沈黙が怖すぎ……!)」
至近距離で睨み合いをしている私たち。もちろん、クラスの中で超目立っている。
「み、皆が見てるよ……?」
「関係ねーよ、そんな事」
クラスの目を気にする私と、そんな物は眼中にない声宮くん。
全く埒が明かない平行線に終止符を打ったのは――声宮くん本人だった。
声宮くんは、いきなり頭を少し後ろに引いたかと思えば……。次の瞬間、私に向かってゴツンと頭突きをしてきた。
これが、地味に、痛い。
「いッ……!!」
「頭の悪いお花畑には、これくらいがちょうどいいだろ」
「な!いきなり何を……!」
「知るか」
フン、と鼻を鳴らして教室から出ていく声宮くん。私は、カバンを食らった後頭部と、頭突きを食らった前頭部を同時に擦りながら……
「か、勝手すぎ……!」
フルフルと、怒りに震えていた。
一体、声宮くんは何が気に食わなかったのか……サッパリ分からない。私は声宮くんの言動に分からないまま。その左手の薬指に、やっぱり赤い糸が戻ってきていないと確認した、そんな金曜日を終える。
のだけど……。
問題は、翌日の土曜日に起こった。
次に私は、頭に隕石が落ちて来たような感覚にみまわれる。
「こんにちは、花畑さん」
「楽せ、……え?」
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