上 下
19 / 58
楽先輩と部屋で二人きり

しおりを挟む



【明日の土曜日ケーキ屋さんに行かない?寮を出た所で待ち合わせして、一緒に駅まで行こう】



 というメールを貰った、木曜日の夜。

 そして今は、金曜日の朝。

 メールに気づいたのは今朝で、寝ぼけた頭にガンと衝撃が加わった感じ。だって、なんか……本当に「デート」の約束みたいで。

 楽先輩の文字を読んだだけで、全身が温かくなるような。そんな甘さを覚える。

 といっても。

 ガンッ


「イッタ……」

「あ、悪い。そこにいたのか芽衣」

「~っ!!」


 登校して、自分の席に着いた途端。頭に鈍い痛み。見上げると、声宮くんのカバンの角が、私の後頭部を直撃していた。


「もっと謝ってくれても……」

「え?もう一回お化け屋敷に行きたい?」

「い、行きたくない!」


 あんな怖い場所は絶対に行かない!と、机に置いたままの自分のカバンをギュッと抱きしめる。

 その時、大きな歌沢くんの人形が、私の腕からはみ出た。もちろん、目ざとい声宮くんが、ぬいぐるみを見逃すはずがない


「お前、その人形なんだよ。大きすぎねぇ?それに、人形の顔……」

「大きいのが可愛いんだよ。そう。これは歌沢くんだよ。昨日買ったんだ~」

「……疲れたマラソン大会の帰り道、わざわざ買いに行ったのかよ?」

「? うん」


 本当は、マラソン大会の途中で買ったんだけどね――とは言わないまま。歌沢くん人形をなでなでする。

 すると、声宮くんお決まりの舌打ちが聞こえた。「チッ」と。大きな音に、私の体がビクッと跳ねる。


「気に入らねぇ。好きでもない男の人形を引っ提げて、何が嬉しいんだか」

「え?私は歌沢くんの事、好きだよ?」

「……は?」

「ファンとしてだけど、わぁ!?」


 最後の言葉は声宮くんに届かないまま……

 ガシッと。私の腕が彼に掴まれ、強引に引っ張られる。その力が強すぎて、私は思わず目を瞑った。

 次に目を開けた時。

 思った以上に近い距離に、声宮くんがいた。その時の彼の目は……言うなれば、逆三角形。怒っている目だ。


「こ、声宮くん……?」

「……」

「(沈黙が怖すぎ……!)」


 至近距離で睨み合いをしている私たち。もちろん、クラスの中で超目立っている。


「み、皆が見てるよ……?」

「関係ねーよ、そんな事」


 クラスの目を気にする私と、そんな物は眼中にない声宮くん。

 全く埒が明かない平行線に終止符を打ったのは――声宮くん本人だった。


 声宮くんは、いきなり頭を少し後ろに引いたかと思えば……。次の瞬間、私に向かってゴツンと頭突きをしてきた。

 これが、地味に、痛い。


「いッ……!!」

「頭の悪いお花畑には、これくらいがちょうどいいだろ」

「な!いきなり何を……!」

「知るか」


 フン、と鼻を鳴らして教室から出ていく声宮くん。私は、カバンを食らった後頭部と、頭突きを食らった前頭部を同時に擦りながら……


「か、勝手すぎ……!」


 フルフルと、怒りに震えていた。

 一体、声宮くんは何が気に食わなかったのか……サッパリ分からない。私は声宮くんの言動に分からないまま。その左手の薬指に、やっぱり赤い糸が戻ってきていないと確認した、そんな金曜日を終える。

 のだけど……。

 問題は、翌日の土曜日に起こった。

 次に私は、頭に隕石が落ちて来たような感覚にみまわれる。


「こんにちは、花畑さん」

「楽せ、……え?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

こじらせ女子の恋愛事情

あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26) そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26) いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。 なんて自らまたこじらせる残念な私。 「俺はずっと好きだけど?」 「仁科の返事を待ってるんだよね」 宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。 これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。 ******************* この作品は、他のサイトにも掲載しています。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

ナイショのお見合いは、甘くて危険な恋の駆け引き!

むらさ樹
恋愛
娘を嫁に出そうと、お見合い写真を送り続けている母 それに対し、心に決めた男性と同棲中の娘 「最後にこのお見合いをしてダメだったら、お母さんもう諦めるから」 「本当!?」 と、いう事情で 恋人には内緒でお見合いに応じた娘      相川 優 ところが、お見合い相手の男性はなんと年商3億の社長さん 「私の事なんて早く捨てちゃって下さい!」 「捨てるだなんて、まさか。 こんなかわいい子猫ちゃん、誰にもあげないよ」 彼の甘く優しい言動と、優への強引な愛に、 なかなか縁を切る事ができず… ふたりの馴れ初めは、 “3億円の強盗犯と人質の私!?”(と、“その後のふたり♡”) を、どうぞご覧ください(^^)

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

苺の誘惑 ~御曹司副社長の甘い計略~

泉南佳那
恋愛
来栖エリカ26歳✖️芹澤宗太27歳 売れないタレントのエリカのもとに 破格のギャラの依頼が…… ちょっと怪しげな黒の高級国産車に乗せられて ついた先は、巷で話題のニュースポット サニーヒルズビレッジ! そこでエリカを待ちうけていたのは 極上イケメン御曹司の副社長。 彼からの依頼はなんと『偽装恋人』! そして、これから2カ月あまり サニーヒルズレジデンスの彼の家で ルームシェアをしてほしいというものだった! 一緒に暮らすうちに、エリカは本気で彼に恋をしてしまい とうとう苦しい胸の内を告げることに…… *** ラグジュアリーな再開発都市を舞台に繰り広げられる 御曹司と売れないタレントの恋 はたして、その結末は⁉︎

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

処理中です...