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声宮くんと遊園地

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「(私も気を引き締めないと……!)」


 間違っても声宮くんの事は好きにならない!間違っても!!


 一人黙々とご飯を食べている声宮くんに、「絶対に好きにならない」と念を送る。声宮くんは、そんな私を見て一瞬ギョッとした。

 だけど、そんな彼の横を、同じく朝ごはんを食べに来た歌沢くんが通りかかる。


「あ、おい生意気な後輩」

「ッ!」

「無視すんな!」


 声宮くんに話し掛けられた途端、歌沢くんが、全力ダッシュをして避げた。その姿がやけにビクビクしていて……。あれ?歌沢くんって昨日、堂々と声宮くんに宣戦布告をしてたよね?


「”堂々”……?」


 今の歌沢くんを見る限り、堂々の「ど」の字もない。ビクビクモード全開の歌沢くんを不思議に思いながら、私は朝食を受け取った。そして、なるべく声宮くんから離れた席に座って、美味しいお味噌汁をコクンと飲んだのだった。



 ◇



 そして時間は経ち、放課後。

 私のクラスには、昨日の宣言通り歌沢くんが来ていた。といっても……


「ね、ねぇ芽衣。変な人が、芽衣を呼んでるんだけど……」

「へ、変な人ぉ?」


 友達の鈴ちゃんに言われて、教室のドアに目をやる。すると、頭からニット帽をかぶってサングラスをした人が、顔半分だけを覗かせて、じーっと私を見ていた。挙動不審感、満載。


「(あの感じは……。あのビクビクした感じは!)」


 怪しい人の雰囲気にピンときたので、鈴ちゃんにお礼を言って席を立つ。そして「ここでは目立つから移動しよっか」と言って、挙動不審な人と教室から離れた。


 ――教室から離れて、あてもなく歩いた私と怪しい人。人気(ひとけ)がなくなったのを確認して「この辺でいいか」と、怪しい人に振り返る。


「歌沢くんでしょ?」

「よ、よくわかりましたね……」


 ズバリ言い当てると、歌沢くんは帽子とサングラスを外した。すると、綺麗な歌沢くんの顔が露わになる。


「変装しないと、女の子たちに囲まれるので……。すみません、気持ち悪かったですよね」

「気持ち悪いなんて思わないよ。ちょっとビックリしたけど。でも……さすが王子だね。どこにいても目立つから、変装しないといけないなんて。人気者は大変だね」

「……そうですかね」


 歌沢くんは、少し元気がなさそうに笑って返事をした。あれ?私、変な事を言っちゃったかな……。

 だけど歌沢くんはパッと表情を変えて、ポケットから自分のスマホを取り出す。そして自分の頭に、そのスマホをコツンとあてた。可愛い笑みを浮かべながら、少しだけ首を傾けて――


「先輩、俺と連絡先を交換してくださいッ」

「(あ、アイドル過ぎて眩しい……!!)」


 ファンサービスのような言動を、日常にて平気で行う歌沢くん。アイドルの歌沢くんがすると、もう……色々と眩しくて……!


「えっと、えと、そうだよね!交換しよっか!」

「なんで目を瞑ってるんですか?」


 クスクス笑いながら、頬を触られる。「先輩の可愛い顔が見たいな」なんて言ってくれるけど……ごめんなさい!私は可愛くないんです……っ!

 ってか、そうだよ!こんな一般人の私が、アイドルの歌沢くんと連絡先なんて交換していいの!?すごくダメなことをしてる気分になるんだけど……!


「えっと、歌沢くん。その、気軽に連絡先を教えていいの?一般人の私に」

「先輩は一般人じゃありませんよ。俺にとっては特別です」

「いや、何も特別じゃないと思うんだけど……っ」


 そうか。歌沢くんは、声宮くんに勝負をしかけた手前、引き下がれないんだ。だから、こんなに必死で私にアプローチをかけて……。好きでも何でも無い私にこんな事するの……嫌だよね?


「あ、あのね、歌沢くん。声宮くんの事なら、気にしなくていいからね?」

「何をですか?」

「その、勝負とか、色々。声宮くんも、もう気にしてないみたいだし」


 ウソだけど。声宮くんは、バリバリ「勝負」を意識してるけど……。

 でも、声宮くんに「歌沢くんに勝負をやめてもらった」って私が言えば済む話だもんね。これで平和に解決するはず。

 だけど歌沢くんは、首を横に振った。そして「嫌です」と、真剣な顔で答える。


「そりゃ初めは、声宮先輩が気に入らなくてもちかけた勝負でしたけど……。でも、俺が花畑先輩に興味があるのは、本当だから」

「え、私に興味?」

「はい。俺はただ純粋に、花畑先輩とデートがしたいんです。その……迷惑じゃなければ」

「(て、照れた!かわいい……っ!)」


 真顔から、だんだんと表情が崩れてきて、そして照れた表情になった歌沢くん。歌沢くんの表情の豊かさって、スゴイ。さすがアイドル。顔を武器にしているだけあるよ。


「じゃ、じゃあ……交換しよっか、連絡先」

「はい!」


 ニッコリ笑った歌沢くんが可愛くて、私の顔も思わず綻ぶ。すると、そんな平和な空間に――

 ドゴンと音を立てて乱入してくる、無駄に長い足。その正体は……


「こ、声宮くん……!?」

「よーお花畑。こんな所にいたんだな」


 表情豊かな歌沢くんと違って、怒った顔が板についている声宮くん。そして今も、その顔は怒っている。しかも、笑いながら怒っているという、一番恐ろしいパターンのやつ。


「な、なんでこんな所にいるの……!?」

「なんでって、昨日約束しただろ?デートするって」

「今日とは聞いてないよ!」

「じゃあ今言う。今日、これからデート行くぞ」

「遅いってば!」


 キッと睨んで声宮くんを見たけど、痛くもかゆくもないようで。さすが性格の9割が意地悪で構成されてるだけある。声宮くんの前では、私が何をしても無駄だと思う。
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