上 下
28 / 40
祓う千景くんとチキンなわたし

しおりを挟む

 コンビニでバナナを買って、仔猫にあげる。
 すると仔猫は、すごい勢いで食べ始めた。

「こんなに小さいのに、すごい食欲だね」
「よほど腹が減っていたんですね。主がいなければ危なかったですよ」
「うん、バナナの一本売りがあって助かったよ」

 あれが3本セットとかなら、買えなかったなぁ。値段的に。

「こういう時のために、一本で売ってるんだね。
 にしても、コンビニに一人で入ったの初めてだから……すっごくドキドキしたよ」

 心臓に手を当てて、ホウと息を着く。
 だけど、安心するには早かった。
 なぜなら――

 ポツ、ポツ

 キキの予言通り、雨が降り始めてしまった!

「わー! 雨だ! しかも、メチャ激しいやつだよー!」
「主! 急いで帰りましょう!」
「そうだけど……でも!」

 仔猫を見る。
 すると仔猫は、まだまだ一生懸命バナナにかぶりついていた。
 バナナのおかげで、いずれ満腹になるだろうけど……。
 あの小ささで雨に打たれたら、寒くて凍えちゃうよ!

「キキ、わたしのランドセルから、下敷きを出してくれる?」
「はい!」

 キキに下敷きを出してもらってる間に、スカートのポケットに入れていた、ハンカチとティッシュを取り出す。

「はい主、下敷きです!」
「ありがとう!」

 仔猫の下に、ポケットティッシュを、まるごと一つ置く。そして、仔猫にハンカチをかけた。
 あとは、下敷きを上手くたてれば……よし。
 仔猫用の雨宿り、できあがり!

「これで濡れないよ!」
「……」

 自分の下や上を、キョロキョロ見ている仔猫。
 そして、どうやら自分に害をなすものではないと分かると、再びわたしをジッと見つめた。

「君は、鳴かないんだね」
「……」
「いつか絶対、また会おうね。
 その時、元気な声を聞かせてね!」

 仔猫にあいさつをしていると、肩に乗ったキキが急かす。

「早く帰らないと、主が風邪をひいてしまいますよ!」
「わー、本当だ! 急ごう!」

 そして、わたしとキキは、濡れながら家に帰る。
 すぐに温かいお風呂に入って、風邪も引かなかった。
 だけど、問題はまだあって……。

「え、千景くん。今日、休み?」

 驚くことに、次の日の学校にも、千景くんは姿を見せなかった。
 昨日、ネコ化して別れて以来、一度も会っていない。
 これは、もしかして……

「千景くんに、何かあったんだ……!」

 そう思うと、いても立ってもいられない。
 授業が始まる時間だったけど……ひっそりと教室を抜け出した。
 その際――
 家からこっそり持ってきたバナナを、カバンからスカートのポケットの中に、移動させる。
 その様子を見ていたキキ。
「なんでバナナが……」と、不思議なものを見る目で、ポケットに入ったバナナを見つめた。

「今日の帰り道、また仔猫に会うかもしれないと思って、家からコッソリ持ってきたの」
「なるほど! 主の心は、海より広いですね!」
「お、大げさだよ……」

 苦笑いしながら、バナナの入ったポケットを、ポンポンと叩く。
 よし――これで準備万端だ!

「ただ今より、任務開始。
 ネコ千景くんを、捜索します!」

 すると肩に乗ったキキが「おー」と、面倒くさそうな声を出した。
「なんで嫌ってる相手をワザワザ探さないといけないんだ」って心の声が聞こえる!
 だけど、その時。
 クンッと、スカートに重みがかかる。
 不思議に思って、視線を下にズラすと……

「にゃぉ……」
「黒猫……ハッ! まさか、千景くん!?」

 スカートにぶらさがる黒猫。
 それが千景くんだって、すぐに分かった。
 だって見てよ! この不機嫌マックスな顔!

「さすが主! アッパレです!」
「あはは……。まさか、こんなに早く見つかるなんて」

 わたしとキキが話をする中。
 ネコ千景くんが、スカートからポロッと取れる。
 そして力無く、地面に横たわった。

「千景くん、しっかり! 何があったの!?」

 千景くんを抱き抱える。
 すると、聞こえたのは……

 ぐぅぅぅぅ

 立派な、お腹の音。

「もう無理。腹減った……」
「あらら……」

 どうやら、ネコ千景くん。
 昨日から一度も人間に戻れず、飲まず食わずで過ごしていたみたいです。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春
児童書・童話
私には大嫌いな人がいる。 その人から、まさか告白されるなんて…! 「大嫌い・来ないで・触らないで」 どんなにヒドイ事を言っても諦めない、それが私の大嫌いな人。そう思っていたのに… 気づけば私たちは互いを必要とし、支え合っていた。 そして、初めての恋もたくさんの愛も、全部ぜんぶ――キミが教えてくれたんだ。 \初めての恋とたくさんの愛を知るピュアラブ物語/

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

桜ヶ丘中学校恋愛研究部

夏目知佳
児童書・童話
御手洗夏帆、14才。 桜ヶ丘中学校に転入ほやほや5日目。 早く友達を作ろうと意気込む私の前に、その先輩達は現れたー……。 ★ 恋に悩める子羊たちを救う部活って何? しかも私が3人目の部員!? 私の中学生活、どうなっちゃうの……。 新しい青春群像劇、ここに開幕!!

へいこう日誌

神山小夜
児童書・童話
超ド田舎にある姫乃森中学校。 たった三人の同級生、夏希と千秋、冬美は、中学三年生の春を迎えた。 始業式の日、担任から告げられたのは、まさかの閉校!? ドタバタ三人組の、最後の一年間が始まる。

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

【完結】魔法道具の預かり銀行

六畳のえる
児童書・童話
昔は魔法に憧れていた小学5学生の大峰里琴(リンコ)、栗本彰(アッキ)と。二人が輝く光を追って最近閉店した店に入ると、魔女の住む世界へと繋がっていた。驚いた拍子に、二人は世界を繋ぐドアを壊してしまう。 彼らが訪れた「カンテラ」という店は、魔法道具の預り銀行。魔女が魔法道具を預けると、それに見合ったお金を貸してくれる店だ。 その店の店主、大魔女のジュラーネと、魔法で喋れるようになっている口の悪い猫のチャンプス。里琴と彰は、ドアの修理期間の間、修理代を稼ぐために店の手伝いをすることに。 「仕事がなくなったから道具を預けてお金を借りたい」「もう仕事を辞めることにしたから、預けないで売りたい」など、様々な理由から店にやってくる魔女たち。これは、魔法のある世界で働くことになった二人の、不思議なひと夏の物語。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
児童書・童話
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 <第2回きずな児童書大賞にて奨励賞を受賞しました>

クリスマスまでに帰らなきゃ! -トナカイの冒険-

藤井咲
児童書・童話
一年中夏のハロー島でバカンス中のトナカイのルー。 すると、漁師さんが慌てた様子で駆け寄ってきます。 なんとルーの雪島は既にクリスマスが目前だったのです! 10日間で自分の島に戻らなければならないルーは、無事雪島にたどり着けるのでしょうか? そして、クリスマスに間に合うのでしょうか? 旅の途中で様々な動物たちと出会い、ルーは世界の大きさを知ることになります。

処理中です...