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祓う千景くんとチキンなわたし
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しおりを挟むその後。
千景くんは、一日、教室に戻らなかった。
「大丈夫かな、千景くん……」
現在、下校中。
わたしはキキと一緒に、家までの道のりを、ゆっくりのんびり歩いていた。
「千景くん、どこに行っちゃったんだろう?」
まさか、ずっとネコのまま戻らなかったとか?――なんて、イヤな予想が生まれる。
だけど、いつものように肩に乗ったキキは、あっけらかんと答えた。
「授業とやらが面倒だっただけでは?」
「う~ん、それはないと思うよ。
千景くんって教室では王子様だから、真面目な性格で通ってるし。
無断欠席は珍しいって、先生も言ってた」
するとキキは、気に食わなかったのか、フンと鼻を鳴らした。
この二人、いつになったら仲良くなるんだろう……。
「キキは、千景くんの事がキライなの?」
「嫌いですな」
ズバリと、キキは言い切った。
千景くんに同じ質問をしたら、同じ答えが返ってくるんだろうなぁ。
「アイツは、隙あらば僕を祓おうとする。
きっと主を独り占めしたいんですよ。卑怯な奴!」
「いや、違うと思うよ……」
キキが「妖怪」だから、千景くんは祓おうとしてるのであって。
決して「わたしと二人きりになりたい」からではない。
「むしろわたし、千景くんに嫌われてる自信がある!」
さっきのキキよろしく――今度は、わたしがビシッと言い張った。
だけどキキは、フッと顔に影を落とす。
そして小さい声で「それは、どうですかな」と呟いた。
「ん? なんか言った?」
「いえ、何でもありません。
さぁ、主。家へ急ぎましょう。雨が降りそうです」
見上げると、空にくらーい曇が集まっている。
キキの言う通り、雨はすぐそこだ。
「そうだね、急ごう!」
足に力を入れた、その時だった。
ヒョコッ
「え! わぁ!?」
草むらから、何かが飛び出してきた!
避けようとしたわたしは、華麗なジャンプ――とは、いかず。
体に急ブレーキをかけたせいで、激しくこけてしまう。
ズシャッ
「い、いてて……」
「主! 大丈夫ですか!?」
わたしがこける直前に、肩から逃げていたキキ。
わたしと違って、反射神経が良いようで、うらやましい!
「大丈夫だよ……。
にしても、いったい何が……」
キョロキョロとあたりを見渡す。
すると――
「え」
「……」
一匹の、白い子猫と目が合った。
「か、可愛い~!!」
小さい顔に、クリクリした瞳。
それに、体に似合わない大きな耳!
「ぬいぐるみみたい~!
ねぇキキ! 撫でてもいいかなぁ!?」
「……」
「キキ?」
興奮するわたしとは反対に、キキは、まるで石になったみたいに固まっていた。
どうしたんだろう?
「おーい」とキキを呼びながら、体をチョンと触る。
すると、ハッと我に返ったキキが、体をブルリと震わせた。
「キキ、大丈夫?」
「はい……主、早く帰りましょう。なんかこのネコ、威圧感すごいです」
「威圧感? 子猫なのに?」
言いながら、子猫を撫でる。
すると子猫は、ぺしゃりと地面に伸びてしまった。
「すっごく元気ないね。もしかして、お腹が空いてるのかな?」
「体がやせ細ってますね。
この小ささで食べないとなると、長くはもちません」
「それって……」
死んじゃうって事だよね?
それは、イヤだな……。
かと言って、わたしは今、何も食べ物を持ってないし――あ。
「コンビニ発見!!
ありがたいことに二百円あるから、何か買ってくる!
キキは、そこで仔猫を見守っててね!」
「え、ちょ! 主~!」
目と鼻の先のコンビニを目指す。
え、どうして二百円持ってるかって?
それは……
――花りん。最近とっても暑いから、もし登下校中に“ど~しても”喉が渇いたら、自動販売機で何か買うんだよ?
「助かったぁ。
ありがとう、お母さん……!」
わたしが二百円を持ってるワケ。
それは、地球温暖化によるものでした。
◇
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