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ずっと、会いたかった!

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「この子には、指一本、触れさせないから」


 そう言って、背中を見せるその人を。
 私は不思議と、怖いとは思わなかった。

「おい、ミア……ミア!」
「ハッ!」

 いけない、ついボーッとしちゃった。
 ロロに髪を引っ張られて、やっと意識がハッキリする。
 ロロの無事を確認した後、目の前の男の人に、視線を移した。

 男の人は、スラリと綺麗な長身だった。
 身に着けている服も、すごく綺麗で高級そう。
 という事は、どこかの偉い人?
 それに、男の人を語るうえで外せないのが……

「とっても明るい、茶色の髪……」

 ふだん黒髪のロロを見ているから、男の人の髪色がすごく明るく見える。
 キレイな色だなぁ。
 すると、私の肩に止まっていたロロが、私より前に飛んで出る。
 そして、

「なんで……、アンタがここにいるんだよ」

 と、不思議そうな声を出した。
「アンタって誰?」と聞こうとしたけど、更にこの場に、新たな声が登場する。

「ロロー! 久しぶりぃ! 元気だったあ?」
「げ! ネネ!!」

「え……?」

 今、ロロはネネって言った?
 だって、ネネって確か……。
 スター国の連くんと一緒にいる、妖精さんでしょ?

「え、待って……?」

 じゃあ、私の目の前にいる、この男の人って。
 まさか――

「連、くん……?」

 やっとのことで、絞り出した声。
 声が震えて、上手く喋れなかった。
 だけど……
 男の人は、そんな私の声に気付いて振り向き、笑顔で答えてくれた。

「久しぶりだね、美亜」
「!」

「元気そうで、なによりだよ」
「うそ、本当に連くんなの……?」

 私の目に写った人。
 それは、私の初恋の人。
 そして、小学四年生から一気に二十歳へと成長してしまった人。

「そう。連だよ。
 本当に無事でよかった、美亜」
「連くん……っ」

 ポロポロと、目から涙が零れ落ちる。
 だって、お手紙を貰っただけでも嬉しかったのに。
 まさか、会えるなんて!

「連くん……。
 あい、会いたかったよ~!」

 ぶえーんと泣く私の頭を、連くんは優しく撫でた。

「また後で話そう、美亜。
 今は、ここから逃げないとね」
「え、でも……、どうするの?
 相手は大人の男の人だよ?」

 逃げようよ、走って逃げよう!
 そう言うと、ロロが「今のミアには無理だ」と連くんに伝える。

「さっきも立てなかった。腰が抜けてる」
「そう……、分かった。
 じゃあ美亜を連れて、ロロは少し離れてくれるかな? ネネも」

「わかった」
「はーい!」

 返事をした妖精二人組は、私の服を掴む。
 そして体の大きさに似合わない力で、ズンズンと私を引っ張った。
 連くんの姿が、だんだんと小さくなっていく。

「え! ちょ、力強い!
 ま、待ってよ、連くん!」
「先に行って待っててね、美亜」
「そ、そんな~!!」

 ロロとネネちゃんに引きずられ、あっという間に、私は前線から後退させられる。
 引っ張られている途中に「離して」とか「連くんが危ない」とか、二人に色々と言ったんだけど……。

「じゃあ、あなたが行って、何か変わるの?」
「え……」

「あなたがレンの近くにいても、レンが戦いにくいだけだよ。
 レンを無傷で勝たせたいなら、あなたが引かないと」

 と、ネネちゃんに、そんな事を言われた。
 可愛い顔をして、結構キツイ……!
 じゃなくて。

「そ、それってさ……」

 さっきのネネちゃんの言い分だと、私が邪魔ってこと――?
 そう疑問に思ったけど、言えなかった。
 なぜなら、ロロが私を庇わなかったから。
 ロロは、口は悪くても優しい性格だから、基本的には私を庇ってくれる。助けてくれる。
 だけど……今のロロは、何も言わない。
 それは、ネネちゃんのいう事が正解だからだって……何となく分かった。

「それに、レンはあなたに何かあるのも嫌なんだよ。
 あなただけでも先に逃がしてあげようって思ってるんだから、大人しく守られてて」
「わ……、分かった……」

 大人しくなった私に、妖精二人は顔を見合わせた。
 そして更に連くんから距離を取るよう、引き続き後退したのだった。

 ◇

「美亜、お待たせ」
「連くん!」

 少し経った頃、連くんは何事もなかったように、私たちと合流した。

「だ、大丈夫だった!?」
「うん、大丈夫だよ。すぐにやっつけたから」

 ニコリと笑った連くんを見て、小学生の頃の彼の面影を思い出す。
 あぁ、そうだ。
 確か、同じクラスで授業を受けていた連くんも、こうして私を見て、ほほ笑んでくれて――
 といっても、目の前にいるのは、二十歳の大人の連くん。
 カッコよさはそのままに……っていうか、倍以上にカッコよくなってる。
 ゆえに、どこを見ていいのか、全く分からない!

「美亜?」
「へ!? え、あ……」

 思えば、名前で呼ばれるのも初めてだし、ましてや呼び捨てなんて!
 私の顔が、ゆでだこのように、どんどんと熱くなってくる。

「顔が赤いよ、美亜。
 ちょっと木陰に座ろう」
「あ……。う、うん」

 ロロとネネが「水を探してくるな」と言って、私達から離れて行く。
 すると、この場にいるのは――私と連くんの二人きり。

 やっと二人きりになれた!
 会いたかった!
 私ね、ずっと連くんの事が好きだったの!
 
 とか。色々と言いたいことはあったのだけど、なぜか言葉に出来ない。
 っていうか、緊張しすぎて無理!
 いま口を開くと、絶対に変な声が出るに決まってる!
 だけど連くんは、不思議なくらいいつも通りだった。 

「まさか、二人揃って異世界にいるなんてね」

 連くんは、まるで休み時間のように。
 木陰に座る、私の横に静かに腰を下ろす。

「ね、異世界なんて信じられないよね」
「しかも、敵国同士でね」
「ほんと……ヒドイよ」

 ひどいよ――と私が口にした途端。
 連くんは「本当だよね」と、立てた両ひざの間に顔を埋めた。
 どうしたのかな?と思っていると……

「ずっと……、会いたかった」
「ッ!」

 まるで消えそうなほどの、小さな声で。
 連くんは、そう呟いた。

「俺、転生してすぐにハート国の王女のことを知ったよ。
 ミア王女は、美亜の事なのかもしれないって。そう思ってた」
「わ、私も……。
 レン王子の事は、連くんなのかもって……!」

 でも、ハート国とスター国は仲が悪かった。
 だから、私たちは、今までずっと会えずじまいだったんだ。

「俺ね、どうやって美亜に会おうか、そんな事ばかり考えてたよ」
「え……、本当?」
「うん。本当」

 ニッと笑う連くんが、ウソをついてるようには見えなくて。
「私もだよ」と、私も本音を打ち明ける。

「連くんと同じ世界にいるのに、でも会えなくって……。
 何のために生きてるんだろうって、そんな事ばかり考えてた。
 だけど、ロロと出会ってから、変わったの。
 私が王女として頑張って、政治を任されるようになれば……。
 スター国のレン王子とも、いつか会えるんじゃないかって」
「美亜……」

 連くんは、さっきと同じように私の頭を撫でる。
 そして「ありがとう」と、柔らかい笑みで笑った。

「最近、城内の噂でさ。
 ハート国のミア王女が成長してる――って心配する声が上がってるよ」
「心配? 私が成長すると、どうして心配になるの?」

「敵国が力をつけると、警戒するもんなんだよ」
「あ、なるほど」

 でも、そっか。
 私の頑張りは、連くんの国にも届いていたんだね。
 それがすっごく嬉しい!
 だけど――
 思い出すのは、さっきの光景。
 私一人では何も出来なかった、力のない自分の情けなさ。

「私、まだまだ成長出来てなかった。
 もっと、頑張らないとなぁ」
「何を頑張るの?」

「色々。例えば、剣術とか?
 だって、さっきの男の人相手に、何も出来なかったもん。逃げることも……。
 それに比べて、連くんはスゴイよ。
 たった一人で対峙してさ…………。
 ん?」

 ここで、疑問が浮かぶ。
 どうして、ハート国に連くんがいるの?
 敵国の領内に、王子がいたら、危ないじゃないの?

「ねぇ連くん。
 どうして連くんは、ここにいるの?
 それに側近の人は? 一人じゃ危ないよ!」

 連くんの腕をキュッと掴む。
 だけど、そんな私の手を、更に連くんが掴んだ。

「ごめん美亜、それはね――俺のセリフなんだ」
「へ?」

 すると、連くんは私と向かい合って、手を握る。
「今からする質問に答えてね」と、連くんが前置きをした。

「な、何か真剣な話?」
「うん。すっごく真剣」
「な、なんでしょう!」

 すると、連くんは、真っ過ぐに私の目を見た。
 そして――

「美亜はどうして、スター国に来たの?
 護衛もつけずにさ。会った時はビックリしたよ」
「へ? スター国?」

 首を傾げる私に向かって、連くんは頷いた。

「そう。ここはスター国。
 今、危ない状況にいるのは美亜なんだよ。
 誰かに見つかったら、捕まっちゃうよ?」
「え……、え~!?」

 一難去って、また一難。
 どうやら私は、連れ去られている内に――

 敵国であるスター国まで入っちゃったみたいです!
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