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第5話 必ず力になるから 尉吹side
しおりを挟む尉吹side
金曜日までに他の用事を済ませて、俺は久しぶりに家に帰って来た。
土曜日の朝9時頃に帰ると事前に電話で知らせていたので、帰宅するのはとてもスムーズだった。
「尉吹!お帰りなさい!」
「母さん、ただいま」
玄関を開けると明るい表情の母が迎えてくれる。そんな母に俺も笑顔で返す。
靴を脱いで揃えてからリビングに向かう。
するとそこには父と妹がいた。
「お帰り、尉吹」
「…お兄ちゃん、おかえり!」
「ただいま、父さん。久しぶりだな、咲菜」
咲菜はまだ父や母に今回のことを言っていないのか、どこか浮かない表情をしている。
結依香からの依頼で咲菜を虐めた連中に復讐をする。
そのことを咲菜に悟られないように、高校での虐めについて聞かなければならない。後は自発的に両親へ相談できるように、後押しもしなければ。
そう考えた俺は咲菜の方を見ながら声をかける。
「咲菜、少し聞きたいことがあるんだ。二階の俺の部屋に来てくれないか?」
「……わかった」
少しの間があった後、咲菜は了承した。そして咲菜を連れて2階にある俺の部屋に入った。
部屋に入ってすぐに咲菜は口を開く。
「それでお兄ちゃん、話って何?」
「咲菜、何か嫌なことでもあったのか?久しぶりに見たお前の表情が、以前よりも暗く何かに怯えているように見えるんだ。」
そう聞くと咲菜は目を見開き驚いたような顔をした。数秒経つと悲しげな表情に変わり俯く。再び顔をこちらに向けた咲菜は、目に涙を溜めていた。
咲菜がポツリポツリと話し始めた。
結依香が依頼して来た時に聞かされていた事実だが、本人の口から聞くと加害者の狡猾さや残酷さがより伝わってくるように感じた。
咲菜の話を聞き終わった時、俺の目からも自然と涙が流れていた。こんなに苦しんでいた妹のことを、結依香から依頼を受けるまで知らなかったことに、改めて怒りを覚えると同時に情けなく思う。
「お兄ちゃん……」
「大丈夫だよ、咲菜。このことは父さんと母さんに言ったのか?」
そっと抱き寄せて頭を優しく撫でながら聞くと、ふるふると首を横に振った。
「まだ、言ってないよ……。言おうと思ったんだけど緊張しちゃって、言葉に出来なかった…ごめんなさい……」
「咲菜、謝らなくていいんだ。1人で言うのが心配なら俺も隣にいる。」
「……うん、ありがとうお兄ちゃん」
俺の腕の中で泣いていた咲菜だったが、暫くして落ち着いたのか再び顔を上げた。
「ねぇ、お兄ちゃん。」
「なんだ?」
「虐められたこと、お父さんとお母さんに言いたい…でも、1人だと不安だから一緒にいて……?」
そう頼んでくる咲菜の頭を『よく言った!』と今度はわしゃわしゃ撫でる。
「もちろん、ちゃんと俺は咲菜の隣にいる。…それじゃあ今から、父さんと母さんに報告しに行こう」
「……うん」
咲菜と一緒に一階に降りてリビングに入る。ソファに座っている父と母に話しかけた。
「父さん母さん、ちょっと良いかな?咲菜が言いたいことがあるみたいなんだ。」
「ん?どうしたんだい尉吹、咲菜。」
「どうしたの、咲菜?」
「…あのね、お父さん、お母さん……私ーーーーーー」
咲菜は一呼吸置くと、父に母に学校であったことを話し始めた。
両親も咲菜の方を見ながら、真剣な表情で聞いている。
いじめの内容や受けた仕打ちなど全て話し終えると、父は悔しげに拳を握りしめ、母は号泣し始めた。
咲菜は両親の反応を見てオロオロとしている。
「……咲菜、よく話してくれたな。辛かっただろう」
「あなた……っ!私達の咲菜を虐めただなんて!本当に許せないわ!!」
「お父さん、お母さん……うぅ~~ッ!」
父の言葉と母の涙につられたのか、咲菜も再び泣き出してしまった。
リビングにはしばらくの間、母と咲菜の泣き声が響いていた。
「……さぁ、もう泣くんじゃない。目が真っ赤に腫れてしまうよ。今度から辛いことがあったら、父さんと母さんにいつでもすぐに相談してくれ。」
「…ぐす……。えぇ、そうよ。咲菜には私たちがいるんだもの、1人で抱え込まなくていいのよ!」
「お父さん……お母さん……ありがとう。」
2人は咲菜を抱き締め優しい言葉をかけた。そしてこれからのことを共に考える。
「まずは1か月ほど休学させよう。それからもう少し休むのか、今の高校に戻るのか、転校するかを考えよう。」
「そうね、まずは咲菜の心が癒えるまでゆっくり休みましょう」
「もちろん、最後にどうするかを決めるのは咲菜だ。父さんと母さんは咲菜の選択を後押しするよ。」
両親は娘である咲菜のために、様々なことを考えてくれているようだ。
咲菜も少しずつ落ち着きを取り戻してきたようで、どこか安堵した表情を見せている。
「咲菜、何かあった時は遠慮せずに俺たちを頼れ。必ず力になるから。」
「お兄ちゃん……うん、わかった!」
こうして家族全員で話し合いをして、今後のことについて決めることが出来た。
その後、咲菜は自室に戻っていった。母もキッチンで昼食の下ごしらえをする為に席を立った。
リビングに残った俺は、父と2人で話をしている。
「父さん、今回のことは咲菜の心のケアが最優先だ。しばらくは様子を見ていこう。」
「そうだな、今は咲菜の心を落ち着かせることが大切だ。」
「それと、咲菜の虐めの件は俺がなんとかする。咲菜には知らせないで欲しい。」
「…あぁ、頼むよ。休学中の咲菜のフォローは、私達に任せてほしい」
「わかった」
「よし、これでこれからの方針が決まったな。」
お互いに納得して話を終える。
明日も一日実家で過ごすが、自室で虐めた人間の情報を集める予定だ。
咲菜が休学している1か月で俺は全てを終わらせる。
ーーーーそして咲菜が再び安心して笑顔で暮らしていけるようにしてみせる。
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