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第2話「あぁ…咲菜のことはよく知っている。紛れも無い、俺の妹だ。」

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「平良樹、咲菜……!?」
「知っているのか!?」

 結依香は名前を聞いて動揺した様子の尉吹を真っ直ぐに見つめる。

「あぁ…咲菜のことはよく知っている。紛れも無い、俺の妹だ。」

 結依香の口から出た実妹の名前に、咲菜が虐められていることを知った尉吹は、悔し気に歯を食い縛りながらポツリと答えた。
 一方結依香は、目の前にいる青年が咲菜の実の兄だと知り、驚きのあまり硬直していた。

「結依香さん、そう言えば名前を名乗り忘れていました。俺は平良樹 尉吹。妹が現在置かれている状況を、知らせてくれてありがとうございます。これは咲菜が繋げてくれた縁です、この依頼しっかり責任を持って引き受けます。」

 固まったままの結依香を横目に、尉吹はだいぶ落ち着きを取り戻したのか、先程とは打って変わって冷静な口調で語りかけるように言った。
 結依香は尉吹に話しかけられたことによってようやく現実に戻って来たらしく、慌てながら「えっ?あっ、はい!よろしくお願いします!」と返事をした。


「……じゃあ早速だけど結衣香さん、咲菜を虐めている人物が誰か分かりますか?どれだけの人数か、後は名前や顔が分かるとありがたいんですが……。」
「そのことについては、あたしの友人にも協力してもらって、咲菜を虐めていた奴らの写真や動画を送ってもらったんだ。」

 結衣香は鞄の中からスマホを取り出すと、咲菜を虐めた人間の名前を言いながら、写真や動画を尉吹のスマホに送信する。

 そこには、5人分の写真があった。

「ありがとうございます。これだけあれば十分です。念のため確認しますが、この写真の中に今回の件に無関係な人は写っていないですね?念の為にこちらでも調べるのですが、誤って関係無い人の人生を壊してしまったら元も子もないので…ね。」
「大丈夫。5人全員うちのクラスにいる生徒だし、咲菜を虐めていた加害者だから。」

 結衣香の言葉を聞き、尉吹はゆっくりと頷いてから静かに言葉を紡ぎ始めた。

「わかりました、それじゃあこれから復讐の準備を進めていくね。ある程度の準備が終わるまで、大体1週間から2週間かかる。俺も週末には、久々に実家に帰って咲菜の相談にのるつもりだけど、ずっと咲菜と一緒にいて、彼女を理解しているのは結依香さんだ。」

 そこまで言うと尉吹は一度言葉を止めた。唐突にに切られた言葉に不思議そうな表情で首を傾げる結依香に、今度は柔らかな微笑みを浮かべながら話を続けた。

「君には咲菜が不安にならないように、側にいて欲しい。もしかすると咲菜は学校に行けなくなるかもしれない。そうなってしまっても、休日に少しでいいから顔を見せに来てくれると嬉しい。これは復讐代行者としてではない……俺からの個人的なお願いだ。」
「うん、任せて!大切な咲菜のためだ。お願いされなくても、あたしは咲菜の側にいるし、休みの日に会いにいく。約束する!」
「ありがとう、君みたいな子が咲菜の親友で本当に良かった。」

 復讐の依頼話が済んだ後、他愛もない会話をして、家へと帰る結依香を見送った。
 結依香のいなくなった1人きりの空間。尉吹はカウンター席へと座った。
 そして、結衣香が送ってくれた写真を眺めながら呟く。



「心を殺される痛みを知らない奴らにはそれ相応の罰を与えないと……ねぇ?」

 

 それは、周りには聞こえないくらいの小さな声だった。
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