5 / 49
人魚
八百比丘尼
しおりを挟む
人魚の肉を喰らえば、不老不死になると言ったのは誰であろうか?
人魚の肉を誤って喰らい、不老不死になったと言われる娘がいた。
娘は、身内の者が誰もいなくなってのも生き続け、八百比丘尼と呼ばれているという。娘は、全国を行脚して暮らしている。
「変ではないか!」
その話を晴明に聞いた紫檀がむくれる。
「どうして『不老不死』の体を人間が手に入れる道理がある。変であろう?」
紫檀が、くだらないおとぎ話だと一蹴する。
「お前自体が妖狐のくせに、そこは否定するのか。分からん奴だ」
「だが、妖で生まれたのでなく、人がどうして……ああ、そうか」
自分で話していて気づく。
人が不老不死になったのではない。
妖が、その娘に混ざったのだ。長寿を生きる人魚の妖の力が混ざり、娘は、半妖になったか、妖そのものになったか。
妖である人魚を喰らって、その人魚に憑りつかれたのだ。
「ふふ。そして、その八百比丘尼を、この晴明も探しに行こうと思っている」
「はあ? なぜ晴明がそんなことをしなければならない? 晴明は、不老不死なぞに興味はないだろう?」
そもそも、晴明は、妖狐を母に持つ半妖。人間である部分も強いから、不老不死とまではいかないが、人間として長い生を得ている。
その辛さも悲しみも存分に知っている晴明が、今更、不老不死を望むとはとうてい思えない。
しかも、その不老不死の代償は、とてつもなく大きいことは、晴明は重々承知しているはずだ。
人魚なんて放っておけば良いだろう。
それに、人間に捕まって喰われるくらいだから、きっと弱い。不老不死であるだけで弱いならば、紫檀は興味はない。
「うん。私は、興味ない。だが、その八百比丘尼を捕えて、自らが不老不死になろうとしている奴がいる。分かるだろう?」
「まあ……それは確かに」
深い海の底に身を沈め、めったに捕まることのない人魚。弱い妖であっても、それを捕まえることは容易ではない。
人間には近づくことも出来ない場所に生きている妖だ。
それが陸に上がって人として生きているとしたら、不老不死を望む人間ならば、それを捕えて喰らおうと考えてみても不思議ではない。
「つまりは、その八百比丘尼を捕えて喰おうという輩から逃がすのが目的か?」
「まあ、そんなところだ」
晴明が曖昧に答える。
しかし、全国を行脚して生きている女一人。一体どうやって探すと言うのだろう。
女の姿かたちもこちらには分からない。
会えば、妖狐の紫檀ならばその鼻で、人魚かどうかの判別くらいはつくが、それだけではとても全国の女全てを嗅ぎ分けることなど出来ない。
探しようがないではないか。
「できるさ。ちゃんと調べれば、確かな話は出てくるものだ」
晴明が涼しい笑みを浮かべてそう言った。
人魚の肉を誤って喰らい、不老不死になったと言われる娘がいた。
娘は、身内の者が誰もいなくなってのも生き続け、八百比丘尼と呼ばれているという。娘は、全国を行脚して暮らしている。
「変ではないか!」
その話を晴明に聞いた紫檀がむくれる。
「どうして『不老不死』の体を人間が手に入れる道理がある。変であろう?」
紫檀が、くだらないおとぎ話だと一蹴する。
「お前自体が妖狐のくせに、そこは否定するのか。分からん奴だ」
「だが、妖で生まれたのでなく、人がどうして……ああ、そうか」
自分で話していて気づく。
人が不老不死になったのではない。
妖が、その娘に混ざったのだ。長寿を生きる人魚の妖の力が混ざり、娘は、半妖になったか、妖そのものになったか。
妖である人魚を喰らって、その人魚に憑りつかれたのだ。
「ふふ。そして、その八百比丘尼を、この晴明も探しに行こうと思っている」
「はあ? なぜ晴明がそんなことをしなければならない? 晴明は、不老不死なぞに興味はないだろう?」
そもそも、晴明は、妖狐を母に持つ半妖。人間である部分も強いから、不老不死とまではいかないが、人間として長い生を得ている。
その辛さも悲しみも存分に知っている晴明が、今更、不老不死を望むとはとうてい思えない。
しかも、その不老不死の代償は、とてつもなく大きいことは、晴明は重々承知しているはずだ。
人魚なんて放っておけば良いだろう。
それに、人間に捕まって喰われるくらいだから、きっと弱い。不老不死であるだけで弱いならば、紫檀は興味はない。
「うん。私は、興味ない。だが、その八百比丘尼を捕えて、自らが不老不死になろうとしている奴がいる。分かるだろう?」
「まあ……それは確かに」
深い海の底に身を沈め、めったに捕まることのない人魚。弱い妖であっても、それを捕まえることは容易ではない。
人間には近づくことも出来ない場所に生きている妖だ。
それが陸に上がって人として生きているとしたら、不老不死を望む人間ならば、それを捕えて喰らおうと考えてみても不思議ではない。
「つまりは、その八百比丘尼を捕えて喰おうという輩から逃がすのが目的か?」
「まあ、そんなところだ」
晴明が曖昧に答える。
しかし、全国を行脚して生きている女一人。一体どうやって探すと言うのだろう。
女の姿かたちもこちらには分からない。
会えば、妖狐の紫檀ならばその鼻で、人魚かどうかの判別くらいはつくが、それだけではとても全国の女全てを嗅ぎ分けることなど出来ない。
探しようがないではないか。
「できるさ。ちゃんと調べれば、確かな話は出てくるものだ」
晴明が涼しい笑みを浮かべてそう言った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
時代小説の愉しみ
相良武有
歴史・時代
女渡世人、やさぐれ同心、錺簪師、お庭番に酌女・・・
武士も町人も、不器用にしか生きられない男と女。男が呻吟し女が慟哭する・・・
剣が舞い落花が散り・・・時代小説の愉しみ
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
戦国三法師伝
kya
歴史・時代
歴史物だけれども、誰にでも見てもらえるような作品にしていこうと思っています。
異世界転生物を見る気分で読んでみてください。
本能寺の変は戦国の覇王織田信長ばかりではなく織田家当主織田信忠をも戦国の世から葬り去り、織田家没落の危機を迎えるはずだったが。
信忠が子、三法師は平成日本の人間が転生した者だった…
妖狐
ねこ沢ふたよ
キャラ文芸
妖狐の話です。(化け狐ですので、ウチの妖狐達は、基本性別はありません。)
妖の不思議で捉えどころのない人間を超えた雰囲気が伝われば嬉しいです。
妖の長たる九尾狐の白金(しろがね)が、弟子の子狐、黄(こう)を連れて、様々な妖と対峙します。
【社】 その妖狐が弟子を連れて、妖術で社に巣食う者を退治します。
【雲に梯】 身分違いの恋という意味です。街に出没する妖の話です。<小豆洗い・木花咲夜姫>
【腐れ縁】 山猫の妖、蒼月に白金が会いにいきます。<山猫> 挿絵2022/12/14
【件<くだん>】 予言を得意とする妖の話です。<件>
【喰らう】 廃病院で妖魔を退治します。<妖魔・雲外鏡>
【狐竜】 黄が狐の里に長老を訪ねます。<九尾狐(白金・紫檀)・妖狐(黄)>
【狂信】 烏天狗が一羽行方不明になります。見つけたのは・・・。<烏天狗>
【半妖<はんよう>】薬を届けます。<河童・人面瘡>
【若草狐<わかくさきつね>】半妖の串本の若い時の話です。<人面瘡・若草狐・だいだらぼっち・妖魔・雲外鏡>
【狒々<ひひ>】若草と佐次で狒々の化け物を退治します。<狒々>
【辻に立つ女】辻に立つ妖しい夜鷹の女 <妖魔、蜘蛛女、佐門>
【幻術】幻術で若草が騙されます<河童、佐門、妖狐(黄金狐・若草狐)>
【妖魔の国】佐次、復讐にいきます。<妖魔、佐門、妖狐(紫檀狐)>
【母】佐門と対決しています<ガシャドクロ、佐門、九尾狐(紫檀)>
【願い】紫檀無双、佐次の策<ガシャドクロ、佐門、九尾狐(紫檀)>
【満願】黄の器の穴の話です。<九尾狐(白金)妖狐(黄)佐次>
【妖狐の怒り】【縁<えにし>】【式神】・・・対佐門バトルです。
【狐竜 紫檀】佐門とのバトル終了して、紫檀のお仕事です。
【平安】以降、平安時代、紫檀の若い頃の話です。
<黄金狐>白金、黄金、蒼月の物語です。
【旅立ち】
※気まぐれに、挿絵を足してます♪楽しませていただいています。
※絵の荒さが気にかかったので、一旦、挿絵を下げています。
もう少し、綺麗に描ければ、また上げます。
2022/12/14 少しずつ改良してあげています。多少進化したはずですが、また気になる事があれば下げます。迷走中なのをいっそお楽しみください。ううっ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる