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身代わり

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 セシルの誕生日当日の朝。
 俺達は、まだシロノを説得出来ずにいた。

 結果、俺はまた女装している(泣)
 今日は、シロノに変装している。鏡で確認したが、ロージイとメリッサの渾身の化粧で、俺が見てもぱっと見は分からないくらいに、シロノに似ている。
 
 参謀リンネの考えた作戦はこうだ。

 双子で背格好の似ている俺が、ひとまずシロノの姿でロージイとパーティに参加する。
 →その間にリンネがメリッサと一緒になって、シロノを説得する。
  俺がシロノとして参加していると知れば、シロノは諦めて説得に応じるだろうという算段だ。

 →シロノが説得に応じれば、こっそり会場でシロノと俺が入れ替わる。
  セシルがシロノを本当に選ぶのかは分からないが、十分勝算はある話だ。

 →シロノが説得に応じなければ、セシルが来た時点で諦めてその場を俺達は立ち去る。俺達の負けだ。
  後は、セシルが誰をどう正妃と任命するのかは、分からない。俺達には、これ以上何もできない。

 マキノとフランネには連絡が取れなかった。マキノは軍司令の父親と一緒に戦場にいるのかもしれない。フランネはどうしたのだろう? フランネは、アスナの情報を集めるためにスパイ行動をしてくれている。
パーティを前にして気合が入っているであろうアスナに呼び出された?

 このまま、正妃を選ぶ場になってもシロノが応じないならば、俺がその場にいても駄目だ。俺がシロノとして選ばれてしまうことが万一あれば、シロノに正妃になる意志がないのに選ばれるという非常に面倒なことになってしまうのだ。

「ああ、リオス様の変装は完璧です。ですが、きっとセシル様には、リオス様だとお分かりになるでしょ? いっそこのまま、セシル様にリオス様を選んでいただいて……」

「メリッサったら! そんなのマキノ様が拒否するに決まっているでしょ?」

「あら、それならお二人に取り合っていただいて……」

この緊迫して状況で、ロージイとメリッサは、何をウキウキと話しているのか……。フジョシの考えは、ちょっと俺には分からない。

「頼んだからな! 絶対だからな!」

「分かっています。全力を尽くしますから!」

メリッサは訳が分からない。もう、リンネだけが頼りだ!
俺は、重い足をズルズルとひきずって、会場に向かった。


 リオスがロージイと出かけた後、リンネはシロノ部屋の扉の前で、メリッサと一緒にシロノの説得を続ける。

「シロノ様、観念して下さい。セシル様がお嫌いならともかく、お好きなのでしたら、誰に遠慮することがありましょうか? 恋は、誰にでも与えられた権利ではありませんか? あのようにセシル様から花を誕生日に贈られているなら、セシル様だってシロノ様に愛情がおありなのでは?」

 リンネの言葉にシロノの返事がない。
 どうしようか……。無理矢理扉を開けたところで、心は閉ざしたままだろうし……。
 リンネとメリッサで困惑していると、玄関の方が騒がしくなる。

 リオス達が帰ってきたのだろうか? いや? 早過ぎだろ? 入り口で変装がばれたとか?

 リンネが、玄関に向かうと、玄関の外には、マキノとフランネ、それにユーカスまでいる。皆、厳しい顔で立っている。

「どうしたのですか?」

とても険しい表情の二人。急いできたのか、滝のような汗をかいている。
フランネもマキノも、ユーカスまでボロボロだ。

「シロノは?」

「今、扉の向こうにいます」

「良かった。間に合ったか! シロノをパーティに向かわすな! アスナが恐ろしいことを考えている!」

「どういうことですか?」

「断罪だよ! 断罪!」

「ああ、それも強烈なヤツだ! 俺達は、スパイがバレて捕まっていたフランネを助け出して、ようやくここに戻って来たんだ!」

マキノの話によれば、父の軍司令と共に戦場にいたマキノにユーカスが訪ねてきた。春休みになっても帰宅しないフランネ。心配したユーカスが調べたところ、アスナの仲間の家に軟禁されていた。

 助けようにも、敵は大勢。マキノに応援を頼みに来たのだという。

「それでようやくここに戻って来たんだ。しかし、間に合って良かった」
安堵の顔を浮かべるフランネ。

「ああ。ひょっとしたら命が危なかったかも」
ユーカスも、笑顔がこぼれる。

「なあ……リオスは?」
ずっとリオスの姿を探してキョロキョロしていたマキノの表情が曇る。

「それが……シロノさんの代わりに……会場に……」

リンネの言葉がつまる。顔が青ざめる。
シロノ部屋の扉が、勢いよく開く。

「お兄様を助けに向かいます!」
シロノは、そう叫んだ。
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