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脅威の正統派ヒロイン

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「シロノ様からしたら、わたくしの所作が気になるのは、仕方ありませんわ。わたくし、貧しい庶民の家で育ち、子のいない男爵様に養女にしていただきましたの」

 アスナがそう言って笑う。
 可愛いな。素直そうな笑顔。

 おぼつかないステップも可愛い。こう……何というか、庇ってあげたくなる。
 それとなく、ゆっくりリードして、アスナが踊りやすいように工夫する。アスナは、俺が気を使いながらリードしていることに気づいたのか、小さな声で、ありがとうございます、とお礼を言ってくれる。

「そうですか。俺の父グスタフ・エルグとて、貧しい農奴の出身です。私達兄妹も、とても胸を張って貴族だなんて言える家柄ではございません。妹は、ああやって気を張って生きることで、自分を守っているのです。許してやってください。仲良くしてやって下さいね」

そう俺が言って頭を下げれば、

「はい!」

と元気よくアスナが返事をしてくれた。

 さすが正統派ヒロイン。健気で謙虚だ。
 不覚にも、ちょっとドキリとした。

「アスナちゃん、可愛いよな!!」

 マキノが、合同授業の終わりに、俺に駆け寄って開口一番のたまう。
 攻略されるの、早いな。お前。
 チョロい。チョロすぎるぞ。

 慣れないステップで一生懸命踊る姿にキュンときたそうだ。

「シロノちゃんとは、対照的な感じ? シロノちゃんの前ではちょっと緊張するけど、アスナちゃんの笑顔には、なんか癒されるんだよね~♪」

 マキノはずっとデレデレしている。
 一生言ってろ。


 他にも、アスナに攻略されてしまった男子生徒は多数。合同授業後の教室では、癒し系のアスナと完璧美女シロノの感想で、大騒ぎだった。

 俺の可愛い妹、シロノ。シロノほど完璧な美女はいない。アスナと人気を二分する方がおかしいのだが、アスナ、確かに心惹かれる不思議な子だった。

 しかし、大丈夫なんだろうか? これ。もし、アスナがセシルを好きになって、セシルに近づいたら、あっというまにセシルも攻略されてしまうのではないだろうか?
 口下手で、ついきついことを言ってしまうシロノに、勝ち目はあるのだろうか?
 願わくば、セシルがM気質で、言葉攻めにグッとくるタイプであることを。


 考え込む俺に、

「リオス? 焼きもち? 大丈夫、俺の本命は、リオスだから!」

なんて、余計な冗談をマキノが付け加えていたので、放っておいた。
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