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入学

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 セシル王太子が通うのは、由緒正しき王立の学園。
 十三歳から十五歳の貴族の子息が、この学園に通うのだ。国王の子息が通う学園、当然のように入学するためには、家柄、教養、剣術などの基本的能力に加えて、礼儀作法などのたしなみも要求される。

 裏口入学なんて許す訳もない親父。俺はシロノの恋心を知ったその日から、必死で努力して、堂々と、表からこの学園への入学資格を得たのだ。

 入学早々、
「あれが、悪名高いグスタフの息子……」「リオス・エルグ、フンッどうせ裏口だろ?」「一体いくら積んで入れてもらったんだか」
なんて、噂が飛び交っているが、俺は気にしない。
 陰でコソコソ何かいう奴に、関心を払うなんて、無意味だ。俺は、忙しい。
 この最底辺から、王太子セシルに近づかなければならないのだから!!


 俺のことよりも、姉妹校である、貴族の子女の通う寄宿制の学園に通う妹が気がかりだ。
 シロノもきっと、同じように酷いことを言われているに違いない。
 まあ、とは言っても、シロノの通う姉妹校は、同じ敷地に隣同士に建てられている。
 気になるなら、許可さえもらえれば、出入りは出来るし、合同授業も頻繁に行われているから、どうしても気になるならば、見に行けばいいのだが。
 ……入学して初日だが、見に行こうかな。さすがにまだ早いか……。

 聡明なシロノの事だから、きっと気高くそんな言葉は跳ね返しているだろうが、あの子は本当は繊細な子なんだ。親父譲りのキツイ言い方で、世間から誤解されているが、本当は優しい子なんだ。
 
 願わくば、シロノに、シロノの良さを理解してくれる友達が出来んことを。



 寮室に入れば、同室のマキノ・エルデが、「よろしく」と握手を求めてくる。
 ……マキノ・エルデ、確か軍司令が親父だったな。
 陽気そうなマキノ。悪い奴ではなさそうだ。

「こちらこそ、よろしく」

俺が、握手に答えようとすると、手にはべったりと油……。
 ひっかかったぁ!とマキノが大喜びしてやがる。

 ずいぶん子供じみたことをしてくれる。
 この野郎!!
 俺は、油の付いた手で、マキノの頬を引っ張る。当然、マキノの頬は油まみれ。マキノとそのまま、取っ組み合いの喧嘩になってしまった。
 ドロドロのベタベタになって、二人して大笑いしながら、暴れる。

 騒ぎに気付いた寮監督が、俺達の部屋を見に来た時には、俺達は全身油まみれ。
 入学早々に大目玉を喰らうことになってしまった。


 こんなんで、王太子に近づくことができんのかな?

 一抹の不安を抱えながらも、俺の学園生活は、始まったのだ。


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