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それからの生活
名前はまだない 39
しおりを挟む誕生したのは、元気な女の子。
名前はまだない。
事前に決めていた名前を、優一さんが私が入院している間に届け出てくれて、それで名前は確定する。
個室はお金がかかるから、大部屋。この病院では、二人ずつの部屋になっている。
「本日の出産は、あなた達だけなのよ~」
件の助産師さんはそうおっしゃった。
では、あのカーテン越しのご夫婦は、この方だったのだろう。
またまたカーテンが引かれていて、姿は見えないが。
とにかく、今は、眠りたい。
スマホには、モドキや家族から祝いの言葉が届いて、チカチカと光り輝いている。
拍手の音のように見えるその光が、皆の喜びを表してくれている。
後で返信を送らなければ……。
私は、やりきった満足感でいっぱいで眠りについた。
目が覚めて初めにしたのは、当然、新生児室で眠る我が子を見に行くこと。
出産後、少しはお顔を見ることができたが、あの時にはヘロヘロのヘトヘトで、じっくり見つめることが出来なかった。
ガラス越しに改めに見る我が子の様子。
この病院で最近産まれた他の子ども達と並んで、ベビーベッドで眠っている。
真っ赤なクシャクシャな顔で、誰に似ているとかは、まだ分からない。
テレビで見るふっくらしたいわゆる赤ちゃんの顔になるのは、きっともう何ヶ月か先の話だろう。
タグとベッドのカードが付いているから自分の子どもだと分かるが、それがなければ、私には、我が子がどれかは分からない。
モドキやマロンならば、匂いで判別つくのだろうか? 少しは、私の残り香的なものがあるのかな?
病院に動物を連れてくるのはご法度だから無理だけれども、退院したら聞いてみよう。
何て言うだろう? あれほど生まれるのを楽しみにしてくれていた二匹だ。
きっと、可愛がってくれることだろう。
スマホで赤ちゃんの写真を撮って、モドキとマロンに送る。「可愛らしいな。マロンも、喜んでおる」と、すぐに返信が来る。「ありがとう。モドキとマロンは、大丈夫? 困ったことは無い?」と、私が送れば、「案ずるな。こちらは何の心配もない。マロンも元気だ」と返してくる。
まあ、そうだよね。今、二匹のことは、優一さんが見てくれているはずだから。私が世話をしている時よりもむしろ快適かもしれないくらいだ。
あ……動いた。
何に反応したのか、目の前の我が子は、ピョコンと小さな手足を動かす。
がんばったね。
君が無事に産まれてくれたこと、皆が喜んでくれているよ。
まだ名もなき我が子よ、きっと君は今日のことをすっかり忘れて成長していくのだろうけれども、私は忘れない。
だって、こんなに幸せな気持ちでいっぱいなんだ。
皆が君の産まれてきたことを、お祝いしてくれているんだ。
君は、生きていてくれるだけで特別なたった一人なんだよ。
これから一緒に暮らしていこう!
そのために、母は、できる限りの努力はさせてもらうよ。
よろしくな!
小さな我が子に、私は、そう挨拶をした。
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